新年度になり、これから新たに社会人になる人も多いだろう。学生から社会人への移行は、人生における最大の変化のひとつだ。

そこで本記事では、社会に出る前にぜひとも観ておきたい映画をご紹介。今後の気持ちの準備として、あるいは仕事がしんどくなった時に観る心のサプリとして。

邦画だと生々しすぎるので、洋画作品のなかから、オフィスがテーマの作品を3本選んだ。

社会に出る前に観たいオススメ洋画3選!

『プラダを着た悪魔』(2006年)

プラダを着た悪魔 (吹替版)

社会に出る前に観ておきたいオフィス系の映画として真っ先に名前があがるのは、定番だが、やはり『プラダを着た悪魔』だろう。大学を卒業したばかりのやる気ある若手社員が悪魔のような上司のもとで奮闘する話は、お仕事系ドラマが大好きの日本人にとって相性が良いらしく、公開から10数年しか経っていないのに、もはや古典的扱いだ。

アンドレア(アン・ハサウェイ)はジャーナリストを目指すため、大学院への進学を蹴って田舎からニューヨークへやって来た。出版業界に飛び込んだものの、配属されたのはファッション誌。業界で絶大な影響力を持つ鬼編集長ミランダ(メリル・ストリープ)のアシスタントを任されることになるが、本来やりたかった仕事への足がかりとして、アンドレアはミランダからの無理難題に応えていく。

公開当時は「仕事に恋に頑張る、あなたの物語!」みたいな宣伝文句が飛び交っていたと記憶しているが、実はそんなに単純な話ではない。本作はむしろ「才能のない者は淘汰される」というシビアな主題を示唆している。そしてそのことを簡単に悟られないように、まるで「普通の女の子が一人前に成長する話」のように見せているところが非常に上手い。

『SEX AND THE CITY』製作スタッフによる美術や衣装は非常に華やかで、きらびやかなファッション業界の裏側を見ることができる。主人公は次から次へとハイブランドファッションに身を包み、成長する過程を服装で表す表現方法などはとてもスタイリッシュ。アンドレアは愛すべきキュートなキャラクターとして設定され、おしゃれでかっこいい働く女性の映画に見えるかもしれない。

が、とんでもない。パワハラに継ぐパワハラ、洗脳と言っても大げさではないほどの価値観の押し付けなど、典型的なブラック企業の要素がてんこもり。仕事や会社とは、程度の差こそあれ、どこにいても何をやっていてもブラックな要素を含むものだ。そのなかでいかに自分を失わずに適応していくかが、その人の働き方や人生のスタンスを決める。

『プラダを着た悪魔』の主人公アンドレアは賢いので、ミランダのもとで生き延びる術を猛スピードで学んでいく。しかしその代償として、人間関係や自分の信念といった、それまで大事にしていたものを失っていく。彼女はハイブランドに身を包んでかっこよくなるのではなく、実は俗物へと落ちていくわけだ。その様を、この映画はハイセンスかつ喜劇的に描いていく。

これは皮肉なのだろうか? もちろん皮肉である。

『プラダを着た悪魔』は、ミーハーな観客に向けたコンプレックス詰め合わせのような映画かもしれない。はじめの1時間半は特にそうだ。そしてその1時間半が終わると、アンドレアにとって本当の成長が訪れる。

確固たる信念がないと、人は簡単に自分を見失ってしまう。そしてしばしば、仕事における成功と人生の崩壊は同時に始まる。だから、どのようなタフな状況に直面しようと、あるいはウマイ話が転がり込んで来ようと、決して信念を失ってはいけない。

社会とは、確固たる信念を持った者同士がぶつかり合いながら形を変えていくものなのだ。本作は、ポップでスタイリッシュな仮面の奥に味わい深い痛みを含んでいる。

残りの二作品はこちら