ブスNY行きたい族の4LDK

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celine_plan01_20180916

人、人、音、人、お酒 。

クラブの中で流れているのは今流行りのEDM。
小さな空間に人が集まり、誰かが繕った歌詞も無く、音そのものだけが鳴り響く。そこへ混ざり込む人の感情、声や動き。そんなリアルに作り出された音楽の世界。クラブハウス。

花金の今日、仕事終わりでヘトヘトになりながらも自然とこの場に足を運んでいた。田舎の小さなクラブハウスは都会に憧れる私にとって、すごく魅力的な場所だ。水よりももっと透明に、スッと全身に染み渡る大きな音が心臓の音と一体化してふわふわと心地いい感覚に全てを委ねたくなってしまう。お酒が回っているだけなのかもしれない。そうだとしても凄く心地良い。

今日は仕事で怒られてちょっと悔し泣きしちゃったことが悔しかったとか、そんなことが地球の小さなホクロぐらいの大きさに感じられるくらいには気持ちが浄化されていた。さっきまでの疲れが嘘のように気分はハイそのものだ。

そんな時、いつかの何気ない記臆が頭の中にふつふつと湧き上がる。

1.ここは3年2組の教室。田舎の農業高校に通う極々普通の高校生である私は、ここ一週間近く貴重な睡眠時間を削り、力を注いできた英検の日がついにやって来た。私の通う農業高校食物科では、英語なんて普通科目は週に2回程のペースでしかない。あとは黙々と野菜を育てている毎日。自分の通う高校の偏差値さえも分からないし、その言葉自体が近所の学力重視おばあちゃん達から最近仕入れたばかりの覚えたてだ。そんな私が徹夜で勉強を勤しみ、挑む今日。まさに恐怖でしかない。去年の英検ではリスニングテストが子守唄のように聞こえ、見事に筆記試験までもが沈没。不合格だった。母に、「お金をドブに捨てるようなものだ!」とキツく叱られたのにも関わらず、今年は去年落ちた3級から2級にまで謎の飛び級をしてしまった。そんな日をもう迎えているなんて本当にハンパ無くヤバい!とか色々と考えているうちにリスニングテストが始まった。黒人をイメージさせる低くて太い声が静かな教室に響き渡る。私の脳は、さっきまでのピリついた思考とは裏腹に、落ち着く太い声を子守唄にものの数秒で眠りに落ちた。ただ眠るだけに2年連続でお金をかけてしまったというのは、お金を二回もドブに捨ててしまったようなものだ。泣きべそをかきながらも思ったことは、「リスニングテストのBGM、EDMに変えてよ」だった。

2.苦手な人と関わることは案外簡単かもしれない。嫌な面が見えているからこその対策方法があるし、苦手ということは過去に似たような人脈があったのか、割り切りながら関わることが出来る。それにしても好きな人と関わるということは、どうしてこんなにも複雑で難しいのか。人間である限り人間を追い続けて生きていく。人間関係に正解なんてなく、この先ずっと自分で築き上げていくしかないのだろう。

〜兎の201号室〜 【  クラブハウス   】 S__13443080-700x854

3.人が居るところにドラマが生まれる。そんなポエムみたいな言葉をどこかで目にしてからというもの、ずっと心の片隅に焼き付いていた。田舎の小さなクラブハウスに集まる人々。田舎なら尚更、これが飲食店だったらどんな行列店よりも大繁盛なのではないだろうか。人、人、人、普段なら目にもとめないような人さえも、同じ場を共有しているというだけで少し気になってしまう。「ふたりで来たの〜?」目の前でナンパを繰り広げる光景が目に映る。いかにもクラブを意識した様なチャラついた格好の男性が、堂々とひとりで二人組の女性に声をかける姿はまるで武士のように強い。今日、この戦に挑むためにこの場へ来たのだろうか。「可愛いね、お酒奢るよ」その一言で女性がすかさずに食い付き、この場を後にした。人間関係の割り切り方が凄まじい。少し見習いたくなってしまう。三人が居なくなると同時に、死角で見えなかった向こう側の景色が目に映る。お酒に酔いつぶれたのだろうか。少し年配のスーツ姿の男性がしゃがみ込んでいた。「何か嫌なことがあってやけ酒でもしたのかな?」そんな勝手な妄想さえ膨らんでしまう。女性だったらナンパ待ちと勘違いされてしまいそうな場面に、男性が座り込んでいるので少し心配になってしまった。普段はしない人間観察も、あまりの人の多さについセンサーが敏感になる。気に留めたこともなかった人の動きに様々な感情が浮かび上がる。言葉がこんなにも頭に浮かんでくることは珍しい。「人がいるところにドラマが生まれる。」それは、人といることで自分の心が動いている。ということなのだろうか。

「おひとりで来たんですか?」思考回路が様々な方向に芽を出し始めた頃、いきなり男性に声をかけられた。現実の思考回路が完全に止まり自分の世界に入り込んでいた私は、驚いて顔を上げると、さっきまでステージ上にいたDJだった。「ありがとうございます」不思議とそんな言葉が口から出てしまった。なんでそんな言葉を放ってしまったのかはわからないけど、つい出てしまった。不思議そうな顔で「いえ」と返されハッと我に帰りその場を後にした。

【空間】…何も無く空いているところ。

空間でしかないその場所に、人と人とで生まれるドラマ。それは自分から見える景色だけのあまりにも主観的なドラマ。人のドラマをフと覗き見したくなるとき、都会のタクシードライバーになりたいなあなんて思ってしまう。

〜兎の201号室〜 【  クラブハウス   】 S__13443081-700x421

ブスNY行きたい族

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