Qeticで映画コラム「レイチェルの全然ファイトクラブ」の連載を始めた人気ラップユニットchelmicoMC RACHEL。映画好きが高じてコラムだけでは止まらず、ついに映画の宣伝などを行う株式会社スキップの宣伝プロデューサー、奥村裕則さんの突撃取材が実現! MC RACHELだからこそ聞けるどストレートな質問や、映画好きなら誰でも思ったことがあるような疑問を思いっきりぶつけながら、映画『スイス・アーミー・マン』のことから映画業界のお話まで、申し分なくお伺いさせていただきました。

映画『スイス・アーミー・マン』

わずか11歳で『ハリー・ポッター』シリーズで世界を席巻し、プライベートでも常に世界中から追われるハリウッドスターとなったダニエル・ラドクリフ。アルコール依存症などに陥りながらも、『ハリー・ポッター』シリーズを卒業後は、作品ごとに毎回違った表情を魅せ続け、シネフィル(映画好き)を魅了。意欲的に舞台などにも活動を広げたのち28歳となったダニエル・ラドクリフは今や最も意欲的な若手俳優の筆頭株と言えるかもしれない。

【対談】話題の映画『スイス・アーミー・マン』はどこかおかしい!?chelmico・MC RACHELが宣伝プロデューサーに突撃! swiss1-700x467
©2016 Ironworks Productions, LLC.

かたや『リトル・ミス・サンシャイン』での鮮烈な登場を飾って以降、こいつが出てくると絶対に何かが起きる……という不安を与える、業界きっての名バイプレイヤーならぬ怪優となったポール・ダノ(33歳)。あののっぺりとした表情と独特のソフトボイスだけで、もはや世界中から恐れられつつも、その作品選びの質の高さから映画好きから信頼されている期待のアクターだ。

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©2016 Ironworks Productions, LLC.

そんな現在ハリウッド若手俳優の中で考えられる高純度な『癖』のあるこの二人が、それぞれ人生に迷える青年と死体(!)という設定で、酸いも甘いも噛みしめられる新たなヒューマンドラマの快作=怪作に出演。その名も『スイス・アーミー・マン』である。

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©2016 Ironworks Productions, LLC.

TOHOシネマズシャンテほかで全国絶賛公開中の本作。快作=怪作と表現する所以にこのダニエル&ポールの曲者コンビがトンデモナイ設定の映画に出るからっていうだけでなく、この二人を揃えた監督に大いに関係ありそうだ。

それもそのはず。元々はミュージックビデオ作家として人気を博しているダニエルズ(Daniels)。Foster The PeopleやBattles、DJ SnakeやLil Jonの”Turn Down For What”のMVを監督したことで知られる彼らのミュージックビデオをまずご覧いただきたい。

Foster The People – Don’t Stop

Battles – My Machines

DJ Snake, Lil Jon – Turn Down for What

ぶっ飛んだ自動車教習ラブストーリー、エスカレーターをひたすら転げ落ちたり、床をぶち破り続けたりと、想像の斜め上の上を、クレイジーに飛んで行くイマジネーション大爆発な作風が特徴でありつつ、しっかりと独特の世界観を最初から最後まで貫徹させている。この監督コンビこそが、まさに曲者中の曲者!!!!

映画『スイス・アーミー・マン』特別映像[DANIELS]

そんな彼らが監督だけでなく脚本まで手がける本作は、水色で鮮やかなフライヤーによると、無人島で助けを求める孤独な青年ハンク(ポール・ダノ)と超便利な男の“十徳死体=スイス・アーミー・マン”のメニー(ダニエル・ラドクリフ)が繰り出す奇想天外な青春・サバイバル・アドベンチャーというものだからこりゃ一筋縄で行くわけがない……。

そんな末恐ろしい快作=怪作である本作を、予告が公開された時からずっと楽しみにしていたアーティストが東京にもいた。Qeticの映画コラム「レイチェルの全然ファイトクラブ」でもお馴染みのchelmico・MC Rachelである。いざ、意気揚々と鑑賞した彼女、映画を観た後に居ても立っても居られなくなったようだ。

MC Rachel「この映画、観てみたら予告編とかフライヤーと全然違くない!? ってかこれ初デートとかだったらマジで気まずいっしょ、めちゃくそ面白かったけど想像の100倍ぶっ飛んでたし!?!? この宣伝考えた人に会って話聞きたいんだけど!!!」

そんな中、興奮冷めぬMC Rachelと、今作の『スイス・アーミー・マン』の宣伝プロデューサー、株式会社スキップの奥村裕則さんとの対談が実現、ここに本作の宣伝にまつわる裏話やキャッチコピーや映画好きなら一度は絶対に思ったことがある海外映画の副題についてなど、盛りだくさんご紹介です!

Text by 吉岡誠

対談:MC RACHEL、Skip 奥村裕則

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左から:株式会社スキップ 奥村裕則、chelmico・MC RACHEL

Qetic編集部 こんにちは! 今日は宜しくお願い申し上げます! そもそもになっちゃうんですけど、そういえば配給というお仕事はどういうお仕事なのか分からないなって思って、そこからお話をお伺いしたいです。

Skip 奥村さん(以下、奥村さん) 宜しくお願い申し上げます(笑)。この映画(『スイス・アーミー・マン』原題:Swiss Army Man)を買い付けているのはポニーキャニオンさんという配給会社になりまして、元々は音楽やDVDとかの販売もされてるんですけど、本作に関してはポニーキャニオンさんが海外の映画祭に行って、上映権を買い付けてきたという経緯になります。その買い付けた作品を自分が宣伝を担当させていただいているという流れですね。

RACHEL 買ってきてやるんだね。

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Qetic編集部 海外の映画祭に直接行って買ってくるんですか? 「日本でやらせてくれ」と。

奥村さん そうですね。いろんな制作会社が海外にもあって、この作品だとA24っていう制作会社があるんですけど、こことポニーキャニオンさんが現地で商談をして、金額の交渉をして進めるんですよ。

RACHEL あくまで商談だから日本で上映されない海外の映画とかもあるんですね。

奥村さん 本作を狙ってたのはポニーキャニオンさんだけじゃなくて、いろんな日本の配給会社がこの作品を買いたいという状況になってて、その配給会社との条件をみんなで詰めていくんですよ。競りみたいなことを海外のマーケットでやっていて、競りも段階によって異なるんですね。脚本ができたところで、「脚本の段階で買いますか?」とか。早い段階で手を挙げると安く買えるそうです。

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RACHEL でもその段階だと、売れるかどうかは分からないんですよね???

奥村さん そうですね。出来てる画は見えないから、保証がない。それでも買うかどうかで、時期をどんどん詰めていくんですよ。プロモ映像とか出てきて、これはいけるぞとか。例えば『スイス・アーミー・マン』だったら冒頭の映像だけで、「これ面白そうじゃん!」みたいなことがあったかもしれません。あとは映画祭で順次かけていくので、その映画祭の評価で観客の評価が高いとか。あと、この映画はサンダンス映画祭というところで監督賞を受賞してるんですけど、そういう実績が積み上がっていくと、金額も上がっていくみたいですね。

Qetic編集部 じゃあ、公開されて賞を取った後でも買えたりするんですね。

奥村さん 買えると思います。ただ、売れ残っている場合だけです。なので、それだけ目立つ映画は日本でも話題になるので、いろんな配給会社が制作会社にアプローチして、「この会社はいくらだけど、こっちの会社はいくらって言ってる」って。いろんな条件と人脈で配給会社を選んでもらって買うということになるんですよ。それでようやく日本に入ってくるという流れになってます。その次の段階としては、日本で映画をかけるという仕事があるんですけど、それが配給会社のメインの仕事になるんですね。

RACHEL 映画をかける?

奥村さん 映画館をブッキングするという作業になります。この映画館で上映するとか。『スイス・アーミー・マン』の場合、TOHOシネマズがメインの劇場になります。その経緯としては、例えばTOHOシネマズに相談してみて、担当の人がこの作品を観た上で上映するかどうか決めるんですね。

RACHEL じゃあTOHOシネマズの偉い人が……。

奥村さん 番組編成の担当者さんがいて、この作品をどのタイミングでやるべきかを配給会社と映画館側で協議をするんですよ。

それで、その条件が合った映画館で上映されるということなんです。

RACHEL じゃあもし買っちゃって、でもやれないってなることはあるんですか?

奥村さん 劇場公開を前提に買ってやれないはあまり聞いたことないんですけど、劇場目的でない場合はDVDスルー、日本では映画館ではかかってないけど、レンタルショップでは観れますっていうパターンになるとか。

Qetic編集部 買って、めちゃくちゃミスったなとか思うことありますか?

奥村さん 仕事の制約として、僕は買いに行く人じゃないんですよ。

RACHEL それを宣伝してくださいって頼まれる人。

奥村さん そうです。それで1月に映画館決まりましたってなった時に初めてうちの会社に宣伝を……。

Qetic編集部 じゃあ「これ一体どう宣伝すればいいのよ……」みたいな映画はあったり……??

奥村さん ないことはないですね(笑)。

全員 ははははは!

奥村さん とはいえ、それを考えるのが面白いポイントですし、うちの会社というか僕もそうなんですけど、海外で予告編が出た時に大体チェックしてるんですよ。『スイス・アーミー・マン』は去年映画祭で話題になってて、日本で公開する時に、ぜひこれをうちで宣伝させてもらいたいと思って、配給会社を色々探すんです。

それでポニーキャニオンさんとこの映画の話をしてて、じゃあ1月頃に劇場の公開が決まりましたので、9月の上映まで宣伝してくださいっていうところから僕らの仕事が始まる感じです。僕はこういう、いわゆる「ジャンル映画」みたいな、ホラー、コメディー、SF、アクションとかがすごく好きなので、これはお任せします!ということで頂いたんですけど。最初に試写で観た時に、予告編のイメージがすごい強かったのでちょっとギャップはありました(笑)。

Qetic編集部 このダニエルズっていう監督コンビの感性大爆発具合がすごかったですね。想像と全然違うっていうか。

RACHEL 思ったのと違うってなりますよね! 私も「素敵そうだな!」って思って観たけど……。

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奥村さん そうなんですよ。なんか、機能がすごいじゃないですか。しかも死体に機能がついてて、それを使ってサバイバルするってどんなことだろうって。どんな機能がついてるんだろうっていうのが、期待値を上げていって。実際に観たら、機能的なところはもちろん出てくるんですけど、それだけじゃないぞと。逆にそっちじゃないのか! という見方になった、宣伝コンセプトを考えたんですね。

Swiss Army Man海外版予告編

Qetic編集部 「世界が絶賛した 奇想天外な青春サバイバルストーリー」って。

RACHEL これは誰が考えたんですか? 

奥村さん これは僕が考えました。

Qetic編集部 そうなんですね!

奥村さん あとは一緒にやっている加勢と2人で話し合って。加勢は今、僕のアシスタントプロデューサーとしてついてもらってるので、わかりやすく例えると、僕は男的な目線で、彼女は女性的な目線で作品を打ち出すというふうに考えて取り組んでます。

RACHEL 別の人が書いてるのかと思った!

奥村さん キャッチコピーとか、ボディーコピーとか、あとチラシの文面とかも全部。もっと大きい作品や大手のメジャーな作品とかはコピーライターさんとか代理店さんにお願いすることもあると思いますが、この映画はいわゆるインディペンデントな作品なので、ある程度予算が削減できるところは削減して、必要なものに優先的に回していくという……。

Qetic編集部 いろんな映画をやられてて「これ決まったな」みたいなのってあったりするんですか?

奥村さん そうですね。いわゆる邦題も僕らが決めるんですよ。

RACHEL そうなんだ!!! 

Qetic編集部 ちなみに邦題についても「ダサいのが多いよな!」って。

奥村さん ダサいのがね。

RACHEL カチキレたくなるようなのが!

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奥村さん ははははは!!!!

RACHEL なんで『○○○○○○○○』が『○○○○○○○ウォーズ』になるんだよって。おかしいだろうが!!!っていうこととかね……。

奥村さん 邦題は今すごい日本で炎上ケースがありますね。

Qetic編集部 なんであれは原題のままやらないんですか? 『スイス・アーミー・マン』はそのまま(原題: Swiss Army Man)ですけど……。いつも「原題のままでいいんじゃないですか?」って思うんですが。。。何故ああいったことになっちゃうのでしょうか?

奥村さん そうですよね。ターゲットとか日本の市場を考えた時に、例えば若い子に打ち出すために、英語のままでいけるのかっていうことも考えるんですね。

RACHEL 馴染みのない単語だったりしますよね。

奥村さん そうなんですよ。訳の分からない単語だと、覚えられないとか。例えば、劇場窓口で〇〇ってタイトルを言って買わないと行けないじゃないですか。それがちゃんとできるのかとかいろんなシチュエーションで考えます。

RACHEL なるほど〜〜〜。「あれなんだっけ」ってなっちゃうかも。

奥村さん いろんなシチュエーションを考えながら、邦題をつける。ただ宣伝としては、監督の意志や作った人の意志もあるから、あんまり作品を貶めるようなタイトルは、僕らはつけないようにしてます。

Qetic編集部 邦題は結構勝手につけれるんですか? 監督の意志とか関係なく?

奥村さん 制限はありますね。一応日本で考えた邦題は、まず配給サイド、買ってきた人たちがOKとするかどうか、次に海外の権利元と監督周りに展開してOKと言うかどうか。

Qetic編集部 一応OKは出てるんですね。これで納得してるんだって思ったりしちゃいます。

RACHEL ニュアンスが伝わらなかったりするからね、日本だと。

奥村さん ペドロ・アルモドバル(代表作は『オール・アバウト・マイ・マザー』など)っていうスペインの巨匠がいるんですけど、彼は邦題を絶対につけさせない。

Qetic編集部 かっけぇ……。

RACHEL そのままでやってるんだ。

奥村さん そのままのタイトルか、日本語の直訳だけしか許さない。そういった縛りもあります。

Qetic編集部 そういうのもっと知りたいですね。

全員 (笑)。

Qetic編集部 ペドロ・アルモドバルとか、巨匠のエピソードみたいなのを是非(笑)。

RACHEL 知りたい知りたい(笑)。気になるよね。

奥村さん そういう縛りもあったりするんですけど、ある程度は日本マーケットに合わせてやっていいですよっていうのはもちろん海外の人たちも分かっているので……。

RACHEL それじゃないと売れないっていうことになってしまうからね……。

『スイス・アーミー・マン』の邦題候補はどんなのがあったの?

奥村さん この作品もたくさん邦題を考えてます。

RACHEL そうなんだ! 邦題候補どういうのがあるんですか?

奥村さん 邦題候補は色々あって。例えば『僕とメニーの○日間』とか。

RACHEL 出た〜〜〜〜!!!! ださ!! ありがちなやつじゃないですか!

全員 ははははは!

奥村さん そういうのも考えたし、『デッド』というふざけたタイトルもありましたよ。『Ted』にかけてるんですよ(笑)。キャラクターアイコン的に。邦題考えるのは面白いと思います。結局一周回って元に戻るとかあるんですよ。「結局それか!」っていときも(笑)。

RACHEL 古今東西の会議にありがちな(笑)。「結局最初が良かったね」みたいな。あるある。

奥村さん それでこの作品は『スイス・アーミー・マン』でいきましょうって決めて、意味はもちろん分からないんですけど、単語は三つともわかる単語なので、結局この意味っていうのが「スイス・アーミー・ナイフ(十徳ナイフ)」っていう……。

RACHEL いろんな使い方ができるナイフ。ダニエル・ラドクリフ扮する死体をいろんなふうに使うみたいな。スイスのマークがついてるんですよね。(奥村さんがスイス・アーミー・ナイフを取り出す)え、持ち歩いてるんですか。

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奥村さん 持ち歩いてます。

Qetic編集部 銃刀法違反にならないんですか(笑)。

奥村さん これは大丈夫です(笑)。アウトドアグッズなんで。いわゆるドライバーとかついてるっていう。便利機能が死体に付いてると。

RACHEL 十徳死体。で、スペシャルファンクションも。しかもそれをダニエル・ラドクリフが。演技がすごいのよね、ほんとに。

奥村さん 作りとしてはそういう形で宣伝が走っていって、レイチェルさん含めていろんな人に見て感想をもらったりとか、雑誌で紹介してもらったりとかで宣伝が始まっていくっていう流れになってるんですよね。

Qetic編集部 配給会社さんと日本でやるってなった時の宣伝の全部をやってらっしゃるってことですよね。宣伝もキャッチコピーも邦題も考えて。予告編とか。

Qetic編集部 やっぱりSNSではエゴザーチみたいなのは、かなりされたりしますか?

奥村さん 常にやってます。何てつぶやかれてるのかは……。

RACHEL 邦題をつける時にエゴサしづらい名前をつけちゃったりとか……。

奥村さん それはありますね。

RACHEL 結構意識したりするんですか?

奥村さん 最近は出てきますね。ありきたりなタイトルになって、SNSで検索したら絶対埋もれるよねってなった場合は、またそこに何かをつけたりとか。

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RACHEL だからあの、ホニャララがついたりするんですか?

奥村さん ホニャララ(笑)。副題みたいな?

RACHEL 邦題あるある。

奥村さん 副題はそういう意味もありますし、タイトルの頭の単語だけでは意味がわからないものに補完するのが強いです。

Qetic編集部 よく「あの邦題意味わからないだろ」とか「この副題意味わからないだろ」って意外に多かったり、蓋開けても意味わからない場合もあったりするかと思うんですが、あれはどういう経緯でそうなるのでしょうか? 

奥村さん 一つのポイントとしては、前例が一個ある。それに似てる邦題にするっていうのはやり方としてあります。それっぽいからそれっぽくする。色々宣伝をする上で、参考タイトルっていうのがあるんですよ。リサーチして、ヴィジュアルのイメージとかも過去にあったものを探っていって、クリエイティブの構想を練ったりするんですけど。

RACHEL 自社で手掛けた作品のみならず他社の作品からも参考にするんですか???

奥村さん もちろんです。とにかくいっぱい候補出していきます。いろんな要素を並べた上で、『スイス・アーミー・マン』が一番ハマってますよねという流れがあり、宣伝のプロデューサーとして各所との話し合いを経て決まっていくんですよ。

Qetic編集部 今作は説き伏せるの大変だったんじゃないんですか?

奥村さん そうですね、ただ、『スイス・アーミー・マン』はスイス・アーミー・ナイフっていう元ネタがあるから、これを公式サイトで説明しますとか、チラシの裏面で十徳ナイフで浸透させていきますので大丈夫ですってそういう話をして。

RACHEL すごいよ〜〜〜!

奥村さん そんなことないです(笑)。こういうクリエイティブとかやってると、計算式やってる感じなよね。

加勢さん そうですね。

RACHEL どういうこと!?

奥村さん 掘り出した中から、要素をどう並べていくかという計算があって。例えばこことここの要素は被っちゃいけないから、ここはどういう風な言葉にするよねっていう、本当に計算式になってるんですよ。映画のヴィジュアルとかは、僕らだけじゃなく、みんなそう計算して作ってるんですよ。もちろん感覚でやってる部分もあるんですけど、ちゃんと意味をつなげていくという。答えはこれで、イコールの部分までクリエイティブで表現したり、予告編で表現したりっていうのはやらなきゃいけないんですよね。

RACHEL:頭良いねぇ〜。

Qetic編集部 奥村さんは何回『スイス・アーミー・マン』はご覧になられましたか?

奥村さん 『スイス・アーミー・マン』はでも、観てる回数としては、全編通しで見たのは3回とかですね。

Qetic編集部 ひたすら観るというよりもインスピレーションなんですね。

奥村さん そうですね。今回の場合は何回も観るっていう感じではないです。

RACHEL お客さんも大体一回観て終わりですもんね。

奥村さん 結局何も情報がないお客さんを来させないといけないから、そこの間口を広げるという意味でも。

RACHEL 観れば観るほど像が出来上がってきちゃいますもんね。

Qetic編集部 最後の決め手は何でしたか? これならいけるなって見えたというか。夜見えたアイデアでも朝起きたら不安になりそうじゃないですか(笑)。それぐらいグラデーションがすごいじゃないですか。

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奥村さん そうですね、やっぱりインパクトをかまさなきゃいけない映画だったので、大作とかいっぱいあるし、邦画もあるしっていう中で、この映画ならではっていうのを表現しなければならない中で、この絵(フライヤー)一発っていうのでいけるって思ったのはありました。これはデザイナーさんのセンスでもあるんですよ。こういう写真ってもともと存在しないですからね。CGとか全部くっつけちゃってますから。鳥はCGで、少し飛び出して3D効果も生んでるんですよ。細かいこだわりですけど。

RACHEL 思った! すごいよね!