2013年8月。インド、ニューデリーにいた。

生、死、食、住がストリート上にフラットにあった。

「何でこんな所に来ちゃったんだろう」 素直にそう思った。

それでもこのインドでの日々を前向きに過ごすしかなかった。

水道水を飲むのはもちろん、口に入れることも避けた。自分の意思で来たくせに「こんな所でお腹を壊してたまるか」と身勝手なことを考えた。

水を買いに街へ出ると子ども達に囲まれて一斉に手を出された。皆んな悲しそうな顔をしていた。通りすがりの男が自分に向かって「プロフェッショナルベガーに気をつけろ」と言った。

ガンジス川を見たいと思い、ニューデリー駅から夜行列車に乗ってバラナシへ向かうことにした。夕方頃メインバザールから駅に向かって歩き出し、夜中にでも食べようと思って途中でピザを買った。ニューデリーは意外とイタリアンレストランが多かった。

そこら中に牛がいた。駅のホームにもいた。最初は驚いたが段々慣れた。ヒンドゥー教では神聖な動物ということだが、皆んな特に気にしていない様子だった。

たくさんの人が行き交うニューデリー駅で英語とヒンディー語が切り替わる電光掲示板を見上げ、自分が乗る列車の乗り場を探した。平気で遅れてくる列車をひたすら待った。本当に列車が遅れているのか、自分が待っているホームが間違っているのかわからず不安になった。

「ここって19時発のバラナシ行きのホームだよね?」新聞を読んでいた男性に尋ねた。

その人は「そうだったけど、あっちに変わったよ」と2本隣の線路を指差した。そこにはもう列車が到着していた。そのホームへ急ぎ、とりあえず飛び乗った。どうやら正解だったようで、何十両あるんだろうというような長さの列車の中で自分の席を探した。

2段ベッドの上が自分の席だった。周りは全てインド人で、軽く挨拶して荷物の整理をしたりした。1人の老人が恐い顔で話しかけてきて「お前みたいな外国人がそんなところに荷物置いてると目立つぞ。もっと奥に入れて紐で結んでおけ」と注意してくれた。

列車が出発すると長い夜が始まった。ガタンガタンという一定リズムの音と薄暗い明かりの中で普段日本では考えないようなことを考えた。こういう時間を求めて旅をするのかもしれないともそのときに思った。

冷めたピザを食べながらカーテンの隙間を覗いた。真っ暗でよく見えなかったが、視力に自信がある自分にはわかった。線路の周りには街や建物が何もなく、見渡す限りの草原だった。

気づいたら眠っていた。朝が近づいていて少し明るかった。外を見るとやはり草原だった。

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