これまで積み上げてきた海外音楽シーンの情報資産は、アップデートされてこそ価値を発揮します。しかし、入出国が制限される今、海外の音楽シーン情報、特に現場の情報は圧倒的に不足しています。我々のような海外文化好き勢にとって、海外の現場における生々しい情報が得られないことは「なんかつまんねえな」という空気を醸成する一つの要因です。

この「(国境が超えられなくて)なんかつまんねえな感」を、私は「プチ鎖国状態」と呼びます。プチ鎖国状態をエレガントにぶっこわしていくには、現場に近い人々の話を聞き、なるべく新鮮な情報を受け取ることが最良な手段です。そこでまずは、これまで往来が盛んであった台湾から、この活動を進めるべく、「プチ鎖国状態をぶっこわせ!台湾インディーズ音楽現場レポ」というシリーズ連載を立ち上げました。

第一回となる今回は、2021年3月27日、28日に台湾高雄市で行なわれた、台湾最大の音楽フェスティバル <大港開唱 Megaport Festival>の様子について、Mayu Huang(以下、Mayuさん)へ取材。

プチ鎖国状態をぶっこわせ!台湾インディーズ音楽現場レポ|音楽フェスティバル <大港開唱 Megaport Festival>編 column210419_taiwan-03
写真左奥:Mayuさん

INTERVIEW:Mayu Huang

Mayuさんは日系の旅行代理店で働く台北女子。これまで音楽イベントでの通訳やレーベル活動をこなし、台湾/日本双方のインディーズシーンを知る事情通です。そんな彼女に、現場の様子について聞きました。

━━今年の<大港開唱 Megaport Festival>は、一部オンライン中継があり、日本からその様子を大変うらやましく眺めていたところです。これまで海外のアーティストを積極的に誘致したラインナップが、今回は国内アーティストのみということで、チケットの販売状況などはいかがでしたか。

チケットの売れ行きは、前年よりもむしろ勢いを増していました。これまでの<大港開唱 Megaport Festival>では、当日券が出ていた記憶があります。しかし今回は、暇つぶしに飢えた新規のお客さんたちがチケットを購入したことで、2日間の通し券が完売。これまでインディーズ音楽を聞いてこなかったと思われるお客さんも多く来場していました。これにより、新規ファンのマナー問題が取り上げられつつあります。ベテランと新規の融合は暫し時間がかかりそうですね。

━━なるほど。いずれにせよチケットが売れることは、市場にとって喜ばしいことだと思ってしまいます。

加えて、フェスのチケットが「転売ヤー」に狙われ、転売価格は、2日間の通し券が本来2500元(約9600円)のところ、80000元(約30万8000円)で販売されていました。

━━それはぶっとんだ価格ですね。

転売ヤーに狙われるのは、<大港開唱 Megaport Festival>だけではありません。小さなフェスについても同様との話を聞いています。<大港開唱 Megaport Festival>のチケットの価値が向上したことで、1日券を有名アーティストのライブチケットと交換しようとする動きもありました。周りでは、<大港開唱 Megaport Festival>の1日券と、人気バンド、たとえば告五人 Accusefive草東沒有派對 No Party For Cao Dongのライブチケットが取引されていた、と聞いています。

━━物々交換になってる。出演者に変化はありましたか。

<大港開唱 Megaport Festival>は、インディーズアーティストがメインの音楽フェスティバルで、例年は、メジャーシーンからも複数アーティストが出演します。今年は、台湾のメジャーシーンを代表するビビアン・スーや、TPE48(AKB48の台湾支店)らが出演していたのが新鮮でした。一般的に台湾のメジャーアーティストは、中国のメディアに出演する機会が多いです。あくまで私見ですが、今回コロナ情勢下で中国へ渡航がしにくいため、ビビアンスーなどの「大物アーティスト」もインディーズ音楽メインの大港開唱に参加する意欲が高まった結果ではないでしょうか。

━━会場の環境変化はありましたか。

前回開催時の2019年と比べ、全体の広さが増し、ステージ構成に変化がありました。2019年までは、会場の入り口からメインステージ 南覇天まで、歩いて15分程度だったかと思います。それが今回会場が広くなったことで、歩くと30分ほどかかるまでになりました。そのため多くの人々は、高雄輕軌とよばれるライトレールで会場内を移動しました。

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━━確かに、地図を比較すると、入口からメインステージまでの距離が延びていますね。

会場の構成ですが、「高雄流行音樂中心 Kaohsiung Music Center」ができたことで、ステージの位置関係が変わったほか、無料ステージも3ステージまで増えていました。

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2019年 引用:大港開唱 Megaport Festival 公式サイト

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2021年 引用:大港開唱 Megaport Festival 公式サイト

━━個人的には、2019年にとても楽しかった船上ステージ、「大雄丸」が残っているのが嬉しいです。

船上ステージでは、昨年から台湾で高い人気を誇るポッドキャスター、「台湾通勤第一品牌」の出演が目新しいですね。

━━防疫体制を教えてください。

マスク着用が義務付けられており、アルバイトスタッフが「マスクをしてください」という看板を掲げている様子が全域でみられるほか、大きく掲示もされていました。

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また、パスの引き換え時には、体温の測定とアルコール消毒をしてから引き換えるなど、しっかりとした防疫体制が敷かれていました。チケット購入時には、全域の実名登録、ならびに室内ステージでは、そのステージごとにQRコード経由による携帯端末での実名登録が義務化されていました。

私は実名登録が面倒だと思ったので、室内ステージには入りませんでしたが、聞いたところでは、「実名登録の手続きに時間がかかり、全員が入場していないのにライブがはじまってしまっている」という事象が起き、一部でトラブルになっていたようです。

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━━Mayuさんが見た中で、特に良かったアーティストを教えてください。

3バンドいます。1つ目は、台湾を代表するベテランのポストロックバンド 阿飛西雅 APHASIAです。ベーシストの葉宛青(KK Yeh)は、台湾のインディーズレーベル〈White Wabbit Records〉の代表としても知られています。久々にライブを見て感動しました。ベテランは違いますね。他のバンドと比べても多くのファンがあつまり、長年の音楽リスナーに支持されている様子がわかりました。

個人的に、高雄のシューゲイザーバンド必郷順村も良かったです。ベテランならではのユーモアたっぷりのMCで私は好きで、以前企画ライブをしたときも、招待したバンドです。ライブの演奏も安定しています。

純情夢︱必順鄉村

台湾で注目のネオソウルアーティスト、雷擎(レイチン)が新しくつくったバンド、水源も良かったです。
今どきのチルサウンドに台湾っぽい雰囲気があり、台湾語の曲もあるので、海外のリスナーさんにも受けが良いのではないかと思います。

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━━ありがとうございます。2020年以前は、日本のバンドが台湾でライブを開催していました。Mayuさんや他の台湾の方々は、今でも日本の音楽を聴いてくれていますか。

はい。私自身、これまでずっと聞いていた日本の音楽、10-FEETなどを聞いて元気を出しています。周りでは、YOASOBIなどYouTube出身のバンドを、台湾のミュージシャンたちがSNSでシェアするなどして、紹介している様子が見受けられます。この情勢が収束して、日本のシーンとつながれることが楽しみです。

━━ありがとうございました。

【取材後記】

今回の取材を通して、2021年の情報にアップデートされました。<大港開唱 Megaport Festival>は、台湾を象徴する音楽フェスティバルであり、その変化を追うことは重要です。

次回は、出演者側に話を聞くことで、「プチ鎖国状態」をぶっこわしていきたいと存じます。

TEXT:中村めぐみ