第150回 毒

道無き道を何時間も歩いて、やっと辿り着いた山奥のそのまた奥にある湖。ここは僕が地学を研究し、探し求めていた水源があるとついに断定した場所だ。ある決まった年代の岩石を通過した水のみに含まれる貴重な成分を、僕は何年も追いかけている。会社からの予算は今月で底をつく。今回の調査で発見出来なかったら僕は仕事を失うだろう。僕はリュックを降ろし早速調査を開始した。この色。この匂い。間違いない。僕は両手で水をすくい一気に飲み干した。

大きい魚が跳ねたような音がして僕は湖の方を振り向いた。すると半裸の女が泳いでいる。思わず「あ!」と声を上げてしまった。すぐに彼女が僕に気付く。でも全く驚いた様子がない。逆に固まったままでいる僕を見つめて優しく微笑んだ。彼女が僕にゆっくりと近づいてくる。肉付きの良い女の体が水面からあらわになっても僕は動けないまま。彼女はとうとう全ての衣類を脱ぎ捨て、笑顔のまま僕にまたがった。

目が覚めると辺りは暗くなっていた。酷い頭痛がする。そして探し求めていた水源を遂に見つけたことを思い出す。こんなにも強烈な幻覚作用があるなら全世界から買い手がつくだろう。これで出世も確実だ。僕は成功した自分の姿を想像してほくそ笑んだ。よし最後にもう一杯だけ。これで絶対に最後にしよう。何度目かの決断をして僕は水を飲み干した。霞んだ視界の先にまた彼女が現れる。僕は急いで駆け寄ろうとして派手に転んだ。しかしもう起き上がる力は残っていない。なす術も無く沈んでいく僕を彼女は笑顔のままで見つめている。ああまったく。なんていい女なんだ。

photo by normaratani