第178回 狼少年

発端はミルク。冷蔵庫を漁っていたマイクが「おかしい。飲んでないのに僕のミルクが減ってる」と騒ぎ始めた。「もう我慢できない!全員起きてくれ!」と朝5時からキッチンに集合させられた。俺たち6人はシェアハウスで暮らしている。これはまずい。早朝に機嫌の良いタイプの人はそもそもシェアハウスには住んでいない。俺たちは我先にとそれぞれ溜まっていた不満を爆発させた。

朝から大荒れだったその日、仕事から帰ると食器も食材もシャンプーもタオルもトイレットペーパーも全て6人分用意されていた。マイクが自腹で購入してきたらしい。何から何まで数字が書き込まれている。俺たちは何をするにも自分の数字を探す毎日が始まった。もちろんパンツにも数字が書いてある。これじゃあまるで水泳の時間の小学生だ。

「またミルクが減ってる!」僕はキッチンで叫んだ。でも誰も部屋から出て来ない。この部屋にはもう誰も住んでいないから。あの時、本当はミルクなんてどうでもよかった。ただ、たまにはみんなで一緒に話したかっただけなのに。みんな元気にしてるかな。腐った6本のミルクを捨てながら僕は小さく呟いた。