第97回 信じるものは救われる

地下鉄から地上に出た途端、あまりの夕陽の眩しさに僕は目を細めた。もうそんな時間だったかなと腕時計を確認するとまだ15時過ぎ。会社にはもう少しゆっくり戻ることにして、僕はしばらく早すぎる夕陽を眺めていた。するとみるみるうちに眩しさが強烈になり、すぐに目を開けていられなくなった。もしかするとあれは太陽じゃないかも知れない、そんな考えが頭をよぎった瞬間、あっと言う間に暴風に巻き込まれ、とてつもない衝撃音と共に僕は何処かへ吹き飛ばされてしまった。

目が覚めた時には視界が変わり果てていた。建物のガラスは粉々に割れ、道路には追突した車が放置されている。雪のように降り積もる灰が覆い隠してはいるが、至る所に人が倒れているのも見える。一体何が起きたのだろう。僕もどうやらこのまま死ぬことになりそうだ。最後の力を振り絞って腕時計を見ると長針も秒針も止まっている。衝撃で狂ってしまったのか西暦が2016年になっていた。僕は思わず笑った。2016年なんて随分未来じゃないか。

浮浪者が騒いでいると派出所に苦情が入り、私は現場に向かった。誰が騒いでいるかは想像がついている。どうせあの手足の不自由な爺さんだ。「もうすぐ東京が壊滅するから早く逃げろ!」と通行人に叫び続けるのだ。証拠は自分の「腕時計」だという。見せてもらったこともあるが、ただの壊れた古い腕時計だった。日付は確か2016年1月27日で止まっていたはずだ。爺さん最近ますます熱が入っているらしいし、まったく困ったもんだ。