第26回 演じる転校生

2週間だけの期間限定で、僕の中学校に双子の転校生が来た。 両親が経営する劇団と一緒に全国を巡業しているらしい。普段から大人の社会に生きている彼らの表情は、自己紹介の時もどこか憂いている様に見え、そんな姿に女子達はときめき、そんな女子達を見て男子達はふてくされた。演劇部に所属している僕は、全国を演技しながら巡業していると聞いた瞬間にすっかり彼らに憧れてしまっていた。

勝手に親近感を感じていた僕は、2週間という短い時間で出来るだけ彼らと仲良くなろうと思った。しかし、休憩時間にサッカーに誘ったり、給食を一緒に食べようと誘ったり、放課後に演劇部に寄ってみてよ、 と誘っても彼らは一度も来てくれなかった。

誰かに話しかけられると、彼らは視線を落とし気味にどこかに離れて行ってしまう。遂に2週間が経ち、最後の登校日になってもその姿勢は変わることがなかった。簡単で形式的なあいさつを済ませ、双子は学校を去って行く。クラスの皆はとっくに交流を諦めていて、「やっといなくなった」という雰囲気を隠さなかったけど、僕は最後まで仲良くなりたいという気持ちがあったから、なんだかやり切れない気持ちのまま彼らを見送った。

その日、部活を終えて川沿いの道を一人歩いて帰っていると、偶然川辺で遊んでいるあの双子を見かけた。学校では一度も見せた事のない明るい表情に僕は驚いた。声をかけようか決められずに突っ立っている僕を見つけて、彼らは駆け寄って来てくれた。

「君には謝っておかなきゃね。実は仲良くなってしまうと別れが本当に辛いんだ。2週間でも充分に友情が深くなってしまう事を僕たちは知ってるし、演劇部に遊びに行ったりしたら、それこそここから離れたくないって言い出すだろう。でもそれは絶対に無理な事なんだ。今まで色々誘ってくれてありがとう」

兄がそう言い、弟は後ろで涙ぐんでいた。そんな双子の気持ちに全然気付けなかった僕は、少し気まずくて「明日休みだから劇団見に行こうかな」と言うと、双子はとても嬉しそうにポケットから劇団のチケットを何枚か僕にくれた。

随分くしゃくしゃになってるから、何日か前から用意してたんじゃないかな。

きっとそうだと思う。きっと。