第29回 始まりの嫉妬

婚式が終わって一週間。まだ荷物も気持ちも落ち着かないまま今度は新居への引っ越し。部屋を片付けなきゃなのに次から次へと懐かしい写真が出て来てしまい、作業がなかなかはかどらない。

そんな中でもこの写真の日の事はとても良く憶えている。小学校4年の頃、近所の秋祭りの時の写真だ。もう20年以上前か。

この日、僕はクラスの親友とハッピを着込み、小さいながらも豪華な神輿を担いで近所を練り歩いた。普段とは違う町の雰囲気と、大人の仲間入りをしたような高揚感で僕らはご機嫌だった。神輿が終わった後、出店の行列の中を歩いていても、みんなからの視線がとても心地良かった。

「ハッピ、2人とも似合ってるね」

金魚すくいをやっていた僕たちに声をかけて来たのは、近くに住む中学生の夏子だった。今まで制服姿しか見た事が無かったから私服の夏子は新鮮だった。彼女は最初ただ黙って見ていたが、あまりに下手くそな親友の金魚すくいを見かねて色々口を出し始めた。それでも親友は一匹も捕れない。

すると夏子は親友の肩に腕を回した。そして両手を握り、一緒に金魚すくいを始めたのだ。僕は一瞬、胸が詰まった。今まで年上の女子とこんなに近づく機会なんてなかったからだろう。親友も絶対に無いはずだ。なのに平静を装って金魚すくいを続けている。

なんだか分からない感情が入り交じった。親友に対してよりも、夏子に対して怒りに似た感情を憶えた。僕は少しの間そこに立ち尽くし、そして何も言わずその場から離れて家に帰った。

今思い返すと、これがきっと人生で初めての深い嫉妬だろう。家に帰ってからも夏子の事が気になって仕方なかった記憶がある。

結婚式の時、親友にこの写真を見せれば良かったな、なんて思っていると奥さんが帰って来た。片付けが進んでいない所を見つかって怒られる前に、この写真を夏子にも見せなきゃ。