本当の物語『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』

ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』は、おそらく初めて買った洋楽のCDだったと思う。英語が勉強したかったわけではない。音楽が好きだったわけでもない。爆発的な人気があったからでもない。当時頻繁に通っていた田舎の本屋さんで読んだ、こんな言葉に惹かれたからだ。「ニルヴァーナは『ネヴァーマインド』で、世界で最も有名なバントになった。だが、カート・コバーンはドラッグに溺れ、27歳の時ショットガンで自殺しこの世を去った」。この言葉は、ニルヴァーナを語る上で、またカート・コバーン本人の代名詞と言っても良いほど、有名な言葉となっている。彼の人生と音楽は、破天荒な人生を歩んだ代名詞として、とうてい「普通の人間」とは距離を置いた、伝説的な存在となっている。

COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』は、そんなカート本人の半生を描いたドキュメンタリー映画だ。アメリカ・ワシントンのアバディーンに生まれ、子供の頃から好奇心旺盛な子供で、絵を描くことが好きだった。しかし、9歳の時、両親の離婚を機に内気な性格へと変わっていく。その後ドラッグに染まっていくが、音楽と出会い環境は少しづつ変化していった。そして、友人達とバンド活動を開始し、世界で最も有名なニルヴァーナへと成長していく。

“本当の”カート・コバーンという人間と出会った瞬間 film150627_cobain_3

しかし、伝説的なロックバンドの半生を描いた映画は、これが初めてではない。これまでに、AJ・シュナック監督の『カート・コバーン:アバウト・ア・サン』やガス・ヴァン・サント監督の『ラスト・ディズ』やニック・ブルームフィールド監督の『Kurt & Courtney』などがある。『Kurt & Courtney』はカートの死の背景に迫った、ジャーナリスティックなドキュメンタリー映画だ。当時の関係者に取材し、カートの死の真実を洗い出そうとしたが、結果としてコートニー・ラブ(カートの妻)から音楽使用権を拒否されるなど、曰く付きの作品となった。また、『アバウト・ア・サン』の冒頭で、カートは監督に対してこんなメッセージを残している。「君は特別だ。この先、ここまでオープンに私生活について話さないと思う。なぜなら他の人達に知る権利はないのだから」。

“本当の”カート・コバーンという人間と出会った瞬間 film150627_cobain_5

本作の特徴も、これまで語られてこなった「新しい視点」からカートを描く作品である。しかし、確実に1点違うことは、カートの死後20年間に渡って口を閉ざしてきた「家族・元恋人・妻」が、初めてカメラの前で語る瞬間が訪れたことだ。さらに劇中内で、カートの多数の未発表曲が使われており、本作の題名にもなっている『モンタージュ・オブ・ヘック』もその1曲である。メガホンを取ったブレット・モーゲン監督は本作について、「カート・コバーン本人の視点で語るドキュメンタリーである」と話している。

“本当の”カート・コバーンという人間と出会った瞬間 film150627_cobain_2

次ページ:「1つの伝説的な時代」の穏やかな終止符