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[Baths]LA出身のトラック・メイカー/マルチ・インストゥルメンタリスト、Bathsことウィル・ウィーゼンフェルトが3年ぶりのセカンド・アルバムをリリースした。

らゆる光を呑み込んでしまうような、物質としての純粋な「黒」は、自然界には存在しない。例えば「黒曜石」の漆黒の表面には、見る角度を変えれば様々な色彩や形状が含まれていることに気付くだろう。

LA出身のトラック・メイカー/マルチ・インストゥルメンタリスト、Baths(バス)ことウィル・ウィーゼンフェルドによる、前作『Cerulean(セルリアン)』からおよそ3年ぶりとなるセカンド・アルバムには、黒曜石を意味する『Obsidian(オブシディアン)』というタイトルが冠せられている。14世紀のヨーロッパで大流行した疫病「黒死病(ペスト)」にインスパイアされ、「apathy/無気力」をコンセプトに掲げた本作には、「死」や「病気」、「自殺」をテーマにした楽曲が並ぶ。また“Ironworks”や“No Eyes”といった、背徳的かつ官能的な歌詞もあり、それらがウィル得意の叙情的なメロディによって、一筋縄ではいかない奇妙なポップ・ミュージックへと昇華されていく様は、ゾクゾクするほどスリリングだ。なお、歌詞の対訳に関しては、翻訳者とウィル本人が綿密にコンタクトを取りながら、細かいニュアンスまで正確に伝わるようにしたという。是非とも国内盤で対訳を読みながら聴いて欲しい。

もちろん、〈Anticon〉の看板アーティストたる所以の先鋭的なトラック・メイキングは健在。アブストラクトなヒップホップ・ビートとIDMを下地に、きらびやかなシンセや生楽器のサンプリングがレイヤーされたドリーミーでサイケデリックなサウンドは、今作でさらにフィーチャーされた「うた」と分かちがたく結びついている。「濃青色」を基調に、多幸感と浮遊感にあふれたサウンドスケープを展開した前作から一転、ダークでグロテスク、かつ豊潤な「黒の世界」を描いたウィルに話を聞いた。

Interview:Will Wiesenfeld(Baths)

――今回はいつも以上に「歌」に重きをおいたアルバムとなりましたが、それは11年の来日目前で急病になったことも関係していますか?

うーん、実のところ急病になったこととはあんまり関係ないんだよね。今回のアルバムをどうしようかなっていう計画は、『セルリアン』がリリースされる前から持ってたんだ。これまでよりもダークで繊細な雰囲気を伴った、奇妙なポップ・ソングを作りたいってね。

――アルバムのコンセプトを「apathy/無気力」とした理由は?

僕自身、これまで「無気力」なんていう状態になったことはなくて、でも実際に自分で経験してみたり、それについて色々読んだりすることで、そのネガティヴさは極めて独特なものだとわかったんだ。「感情の欠如」とか「空虚さ」を体験し、それについて曲を書くのは面白い経験だったよ。「何に対しても全く情熱を感じない」だとか、「感情が死んでる」なんて状態は、ものすごく恐ろしいことだよね…

――ダークで無気力な歌詞を思いつくようになった際、「黒死病」の絵に影響を受けたと聞きました。「黒死病」の絵というとパリのサン・イノサン教会内の墓地の壁に描かれたフレスコ画や、ミヒャエル・ヴォルゲムート『死の舞踏』など有名な作品が幾つかありますが、具体的にはどんな絵が、あなたの音楽に影響を与えたのでしょうか。

自分が好きなアーティストから、たくさん影響をもらえたら良いなあとは思う。けど僕っておバカだし、そもそも名前や作品を覚えようっていう努力をしないんだよ! ただ、以前ロサンゼルスのGetty Museumで開催された、<Hell+Death展>のことは覚えてる。そこにはものすごくたくさんの中世の装飾彫刻や絵画があって、とても刺激になったな。それからシュールレアリストのズジスワフ・ベクシンスキーや、ウェイン・D・バーロウにもすごく影響を受けたと思う。

――アルバム・タイトルは『オプシディアン(黒曜石)』で、アーティスト写真では自分の顔を黒く塗るなど、「黒死病=ペスト」を連想させるヴィジュアル・イメージですが、「黒死病」のどのようなところに惹かれたのでしょうか。タイトルの由来も含めて教えて下さい。

このアルバムを作っているときには、憂鬱で、ダークで、難解なものならどれも刺激的で取り上げる価値が充分にあると思ったし、そういうトピックでポップ・ミュージックを書いてみたかったんだ。普通は「黒死病」をテーマに曲を書こうなんて思わないからね。他にも「病気」や「死」、「無気力」、「自殺」、それらが全て作品に関連している。黒曜石にも幾つかの意味があって、それがこのアルバムの魅力を説明してくれているよ。どういうことかというと、僕はこのアルバムそれ自体に「色彩」を持たせたかった。黒曜石のようにチラチラ光って高価に見えるんだけど、同時にとてもダークで強烈で‥‥。それに黒曜石って、火山ガラスなんだよね。地球の真ん中から湧き出てきて固まった、風変わりな鉱物っていうところにも惹かれた。それでこの名前をアルバムにつけてみたら、もうそこから抜け出せなくなっちゃったというわけ。

――「黒死病」は14世紀のヨーロッパで大流行した疫病ですが、いわば「過去の病」が、現代社会に訴えかける共通の問題点、テーマはどこにあるのでしょうか。人が黒死病に冒されていく様子が、黒=無気力に覆われていく現代の人々に重なるとか?

いや、調べてみたら面白いトピックだっただけで、意図的にその疫病と現代社会をリンクさせようとか、そういうことを思ったわけじゃないよ。だって、中世の人たちの物の見方は、現代に生きる僕のそれとは全く違うわけだし。もちろん、感情的には中世と現代をリンクできる部分があるんじゃないかとは思ったけどね。

――日本語盤では、歌詞の意味が違わないよう翻訳者と密にコンタクトを取ったと聞きました。通常のシンガー・ソングライターでも、そこまでこだわる人は少ないと思います。

僕にとって歌詞はすごく重要なんだ。具体的なイメージを想起させてくれるだけじゃなく、音楽そのものの雰囲気も作り出すことができるからね。僕は全ての曲に自分の歌を入れたかったから、歌詞やテーマに一貫性があるものにしようと努力したよ。日本のみんなが楽しんでくれたら嬉しいな! 翻訳の方は、歌詞がちゃんと筋が通るようにすごく頑張ってくれたと思う。英語でさえも、たまに意味がわからないとこがあったりするからね:D

――普段、どんなところから曲のアイデアが浮かんで、それをどのように形にしているのでしょうか。機材環境については以前、「Digital PerformerとAbleton LiveをMacBook Proで動かし、オーディオインターフェイスはM-Audio Boxを使用している」(「Private Dub」のインタビューより)とおっしゃっていましたが。

実はまだほとんどそのやり方で音楽は作ってるんだ。いくつかの機材や楽器はアップグレードしたけどね。例えば、新しいインターフェースを使ってるし、新しいモニター・スピーカーも買った。楽器で新調したのはドラムセットとかダルシマーとか…。ただ、やり方はあんまり変わってないなあ。まったく変わってないとも言い切れないけど。大抵はメロディが先だけど、ときには歌詞が先に浮かんで、そこから曲ができる時もあるよ。楽器に元々プリセットされているメロディを使ったり、ちょっとした単音にインスパイアされたり。あるいは好きな音色というのがあって、そこからアイデアを発展させることもある。取っ掛かりはいつもちょっとずつ違うんだ。その代わり、一度思いついた曲をどうやって形にするかが決まったら、その先のコンピューターによるプロセスはほとんど同じだよ。

――前作『セルリアン』は「濃青色」という、単色ではなく青色の色調の重なりを意味していて、それはそのままあなたの音楽性を象徴していると思いました。今回の色は「黒」ですが、それはバスのサウンドのどのような部分を象徴していると思いますか?

今回のアルバムには、前作以上にたくさんのテーマが含まれている。中でも「陰気さ」みたいなものが、タイトルとうまく作用したなあと思うよ。あと、音楽の中の「複雑さ」みたいなのも、多分出せてるんじゃないかな? うーん、わかんないけど。でも面白い質問だね:D

――「黒」には「虚無」や「死」といったイメージもあります。「ペスト」も死と強烈に結びついていますし、「自殺」や「死」、「殺害」を思わせる歌詞も多いですが、あなたにとって「死」とは?

「死」に関しては様々な感じ方があると思ってるし、それは歌詞の中でたくさん表現しているから探してもらえたらと思う。でもこうやって「死」についてインタビューで答えるっていうのは、ちょっと変な感じがするなあ、あはは。

――ポスト・フィータス名義の作品では、宮崎駿や高橋留美子が描くキャラクターの名前をモチーフにしていますが、今作でもアニメや漫画からの影響、オマージュはありますか?

うん、僕はアニメとか漫画にはかなり影響されてるし、これからもずっとそうだろうな。この作品を作ってる間は、伊藤潤二の作品をたくさん読んだんだ。彼の作品はシュールレアリズムだしストレンジだ。概してめちゃくちゃ魅力的だよ:D

――マスタリングはダディ・ケヴで、何度もやり直しを求めたというエピソードは本当ですか?

そう、作品をきちんとしたものにするために、終始彼を困らせまくったよ。僕ってかなりこだわりが強い奴だからさ、そのぶん時間もかかっちゃったけど 。へへ。でもケヴはすっごいクールだったし、仕事ぶりもめちゃくちゃ良かった。彼は常にベストだよ。DJも、<Low End Theory>の運営も、レコードのマスタリングも、プロデュースも、それから友だちとしてもね。

――〈Anticon〉と契約したのも、<Low End Theory>の常連であるデイデラスの紹介だったそうですが、彼の音楽についてはどのように思いますか?

〈Anticon〉は、デイデラスことアルフレッド・ダーリントンに会うずっと前から知ってたんだけど、アルフレッドがその周辺の人たちをたくさん紹介してくれて、それから僕を迎えてもらうために頑張ってくれたみたいなんだ。彼はすっごく良い人だし才能もある。もちろん、僕らの音楽には類似点もあるよ。例えば僕はライブをするとき、アルフレッドはどうやって自分のライブをやっているのかなーっていうのを見て、それに基づいてコンセプトを作ってたからね:D

――昨年、一昨年と来日し素晴らしいパフォーマンスを披露してくれました。日本でのライヴはどのような感想をお持ちですか? また、ライヴではラップトップとサンプラーを駆使したアクティヴなパフォーマンスを繰り広げるあなたですが、音源とライヴでのスタンスの違いなどはありますか?

曲を作るのとライブでは、かなり違いはある。ていうのも、ライブをやるときは即興が多くて、いつもちょっとずつ違ってくるからね。今後はもっと沢山の楽器を演奏しようって考えてる。ギターやピアノ、それから歌とかいろいろね。これを実現させようって、今からすっごくワクワクしているよ!

(text&interview by Takanori Kuroda)

Release Information

【インタビュー】Baths、ダークでグロテスク、かつ豊潤な「黒の世界」を描いた新作について語る music130515_baths_jk-200x200 Now on sale!
Artist:Baths(バス)
Title:Obsidian(オブシディアン)
Tugboat Records
TUGR-008
¥2,100(tax incl.)


Qetic編集部

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