――『extra』には日本独自のオルタナティブでアンダーグラウンドな雰囲気がよく出ていますね。

ここ数年の制作の中で諦めた事も実は多くて……。「結局俺らこんな感じだよな」って(笑)。やりたいことと出来ることは違うな、っていう(笑)。演奏力であったり(笑)。そういう諦めも込みで、もちろん自分達が影響を受けて血とか肉になっているものであったり、実感してきたものが一番切実で、意味がある。自分達が受けてきた快楽というか気持ち良さが根本になっていないと出す音に説得力はないと思うし。そういうアンダーグラウンド感に関しては最近は開き直ってる部分もある。元々のリリース時の音質も凄く危ない感じになってて……1,2,3のアナログを出した時点のマスタリングで相当やっちゃってる。

――音圧ですよね?

ひどい……もう勝てない……みたいな(笑)。1,2,3に収録されてるギターのみの曲とか、音の要素が少ない楽曲ってめちゃめちゃ音圧を上げられるんですよ、マスタリングで。音の隙間のあるものとか……。今回、新作『extra』を加えるにあたって、そっちは結構ポストプロダクションで作り込んだ内容だから、音圧感を1,2,3に合わせるのが凄く大変だった。全部リマスターしているんだけど、当時せっかくそこまで音圧を上げたんだから、下げたくはないじゃないですか(笑)。だから1,2,3の音圧感に全体のバランスをもってくような作業をして。

――レコーディングの話を聞いてると、いつもエンジニア泣かせのこと言ってますよね。

いや、うちはね、バリトン・ギターみたいな感じなんですよ、メインの楽器が。チューニングを下げているから。多分、普通の人が音楽を聴く時に音楽的要素として捉えてる要素って、うちのバンドの演奏の中にはあんま無いんですよ。きらきらしたギターの音とか、普通に音楽に聴こえる要素というか。だからレコーディング、ミックス、マスタリングって作業で音楽に聞こえるようにする段階でエンジニアとかに負荷がかかる。ローエンドのゴ―って鳴っている低音ばっかりなんで(笑)。これがまたよくない事に、低音って凄く音圧を食うんですよね、マスタリングって工程で。ミックス時に低音感を出した時点で音量感も頭打ちになってる。音量、音圧ともに凄く上げにくいんですよ、マスタリングの時に。9dwともスプリットをやったけど、9dwのように隙間が凄く多い相手だったり、アコースティックなもの、この間一緒にスプリットをリリースしたジョー・ヴォルクのもそうだったけど、全然音圧が敵わない……。もう9dwの時も頼むから下げてくれないかなって心の中で思っていた(笑)。

――(笑)音源に演奏のダイナミズムを収録したくなるけど、それをやろうとすると逆の方向に行きますよね?

逆の方向にね、本当に。音源とステージは全く別のものなんで。それぞれの方法論を作んなきゃいけない。でも結局、根本は一緒だから色々考えなきゃいけないことは多いよね。うちの場合全部裏目に出てるもん。チューニングが下がってる、ピッチが狂いやすい、キレが悪い。ドラムの径、シンバルが大きい、ピッチ感が低い、アタック感も欠けるとか(笑)。まあ、それがおもしろい音になったりもするんだけどね。

――ところで、今回は実験的なアイデアみたいなものはありましたか?

『präparat』はアナログ、ヴァイナル・オンリー。デジタル配信も無し。逆に今の時代だから普通の事が特殊に見えるってことはありますよね。

――『extra』はCD4枚組ですよね。

これは元々ジャケットがアニメになってるの、カーテンが揺らいでる感じが。ジャケットでパラパラアニメが作りたいって当時思ってた。今回もわがまま言わせてもらって、抜き型(印刷物を裁断する金型)をそれぞれ作ってもらった。レーベルの担当が、予算組の時点で抜き型1個で考えてた。「全部一緒でしょ?」って。微妙な違いしかないからね、実際(笑)。アナログのリリース当時も、たぶん誰も多分気づいていなかったと思う(笑)。一応、俺の中ではアニメーションになっている。

【インタビュー】2デイズ・ライブが迫るボリスに直撃インタビュー!小文字 “boris”名義での3連続リリースについて語る。 music130527_boris_5853-2

【インタビュー】2デイズ・ライブが迫るボリスに直撃インタビュー!小文字 “boris”名義での3連続リリースについて語る。 music130527_boris_5727-1

――変わらずの気合いですね。

気合い(笑)。Boxのジャケットは使っている色も全部特色。『präparat』の外袋のステッカーの黄緑とかはCMYKじゃ全然出ない色だから。レーベル側は泣いていた。「ステッカーに特色?!」みたいな(笑)。

――それと、『vein』ですが、これを聴いていると、2万ボルトを思い出しますね(笑)。

(笑)今回2CDでリリースしたんですけど、内容に関しては何にも言わないことにしてる。今、世の中、全部分かり切ったことばかりじゃん? 音楽もみんな試聴出来て当たり前とか、予測範囲外のことってあまり起こらないから。そういう意味でも『vein』の内容に関しては何も言わないでいたい。もっと楽しんでほしいし、楽しみたい。正解みたいな情報が溢れかえり過ぎてて、みんな直ぐにネットで検索してwikipediaを見ればオッケーとか、その感じがすごく嫌ですね。それぞれの経験するチャンスとか、1回きりの出会いをみんなが自分で台無しにしている感じがあって……。もっとワクワク出来る、スリリングでヒリヒリして、そういう生活をしていたい。作品作りもそれに直結することだし、音楽を聴くこともやることもそういうことだから。その極端な作品としての『vein』ですかね。

――ダンス系でもラベルに何も書いていない12inchもありますからね。レコード100枚プレスで、デジタルも当然なしとか。

作り手としても一回認知されたり、肩書みたいなのが付いちゃうとね。自分の音楽が、音自体で評価されているのか分かんなくなっちゃうこともあると思うんだよね。名前とかを取っ払った時に、自分が作った音楽がどういう風に受け取られるのかを、聞いてみたい、見てみたいというのはあると思う。作品と緊張感を持っていたいけど、同時にリスナーとかオーディエンスとも緊張感を持っていないとって思うんですよね。緊張感って決してネガティブな意味合いでは無くて。

――6月のFEVER2日間ですが、レジデンシー・ショーってあまり日本では馴染みがないと思うのですが。

これ自体はもう10年も前からアイデアとしてはあって。小文字と大文字で別々のショーが出来たらいいなってずっと考えてた。今回、4〜5月のアメリカ・ツアーで実現することになって、その流れで日本でもやりたいなぁと。いつも大きいツアーだと、その時リリースしたアルバムの曲を中心にセットリストを作らなきゃならない。昔の曲とか、リリース・ツアーではなかなかやれない曲とか、そういうものを聴かせられる機会って無いんですよね。今回はそこにピントを合わせて、アメリカの7大都市では2日間ずつ。そもそもは、去年の”leave them all behind”の時に『flood』をライヴでやって、それがきっかけになった。東京でも初日はロック・パーティーっぽいセット、二日目は『flood』主軸としたエクスペリメンタルセットをやります。是非どちらのライヴも見てほしいですね。

(text & interview by 齋藤健介[Catune])

サイトウケンスケ / 齋藤健介(Catune, 9dw)
Catune(キャチューン)はnine days wonderとNo Knife(San Diego)の国内ツアー用音源をリリースするためにnine days wonder(現在は9dwと表記)のサイトウケンスケによって2001年に設立された。以後、国内外アーティスト問わず、これまでに50タイトル以上をリリースしている。

Event Information

“From the past, the present and through to the future” Tokyo 2days
2013.06.15(土)@新代田FEVER
OPEN 18:00 / START 19:00
w/ BP.

2013.06.16(日)@新代田FEVER
OPEN 17:00 / START 18:00
w/ SLIGHT SLAPPERS

TICKET:
1日券前売 ¥3,000 / 当日 ¥3,500(ドリンク別)
2日間通し券 ¥5,000(両日ともドリンク別)
チケットぴあ 2日間通し券(P:780-520)、チケットぴあ 通常券(P:197-116)
イープラス 2日間通し券イープラス 通常券
ローチケ(L:74516)
FEVER店頭

主催:Fever / fangsanalsatan
協力:tearbridge records / Daymare Recordings / Diwphalanx Records / inoxia records

Boris『From the past, the present and through to the future』
2013.07.15(月・祝)@鰻谷Conpass
OPEN 18:00/START 18:30

LINEUP:
w/ ETERNAL ELYSIUM、MORTALIZED

TICKET:
ADV. ¥3,000/DOOR. ¥3,500(1ドリンク別)
チケットぴあ(P:202-776)、
ローチケ(L:58390)、イープラス

Release Information

Now on sale!
Artist:boris(ボリス)
Title:präparat(プレパラート)
Daymare Recordings
LP / DYMV995
¥3,675(tax incl.)

Now on sale!
Artist:boris(ボリス)
Title:目をそらした瞬間 -the thing which solomon overlooked- chronicle
Daymare Recordings
Remaster 4CD Limited Box Set / DYMC188
¥6,300(tax incl.)

Now on sale!
Artist:boris(ボリス)
Title:vein(ヴェイン)
Daymare Recordings
2CD Limited / DYMC189
¥3,675(tax incl.)