普段は雑誌やウェブといったメディアで活躍する写真家、長島大三朗が個展<「solitarational singularity」(孤独における特異点)>を半蔵門ANAGRAにて、12月12日(水)から12月18日(火)の期間で開催する。

写真というメディアが生活にとても近くなった現代、写真家達は何を思いどんな風に写真を撮るのか。タイトル「孤独における特異点」とは? 自身初のインタビューをお届けします。

Interview:長島大三朗

——自己紹介をお願いします。

長島大三朗です。2010年写真専門学校卒業です。1986年新潟生まれですが、新潟に住んだ事はありません。色々な土地を点々としているので、 故郷としている所は特に無いです。一番思い入れがあるのは東京です。

血液型はABRHーです。どなたかお困りの方がいらっしゃいましたら、御相談下さい。

——現在の作風にたどり着いた経緯について教えてください

作風と言えるほど自分の中に確固たる表現はないのですが、 強いていうならばフィルムのモノクロに統一されているという事でしょうか。

今回展示する写真は日常的に撮りためていた風景やスナップからセレクトしました。写真展をすると決めた時にはコンセプトは決めておらず、撮りためていたものを見返している時に己の内側にある孤独の様なものを見出し、それらをまとめて展示する事にしました。

今回の写真は撮影時には表現する事は考えておらず、ただ衝動的に撮影しただけの写真であり、それらを外に向けて発信する時に初めて表現となりますが、極端な言い方をすれば多重人格の様なもので、撮影時と今とでは別の思想や感情で物を見ている様な気がします。自分にとって写真とは内なる自己との対話、それら自己陶酔の肯定にこそ最大の意味を持ちます。

自分の場合、衝動と理性の間に確かな乖離がある事がフィルムで撮る事の面白さかと思います。もっとも、表現を前提として撮影されたものであれば全くその様な意味は持ちませんが。

モノクロで撮影している事の理由としてはモノクロの写真が好きだからという事なのですが、色に関しては見る環境によっても大きく左右されるので、表現する上で色に関する正解を見出すのが自分には至極困難だからかもしれません。もしくは色に関する自分の正解をあまり信用していないからかもしれません。

長島大三朗 初インタビュー|写真を撮る制作過程で自分を発見する「孤独における特異点」とは? art-culture181210-daizaburo-1-1200x794

——なぜ、写真を撮るようになったのですか?

生きるために自己を表現する武器が自分には必要で、写真を始めた当時の自分には、あらゆる表現方法の中で写真ならできるのではと思ったからです。

——ご自身のスタイルに影響を与えたと思う人はいますか?

肯定も否定も含めて沢山いすぎて個人名をあげるのは難しいです。誰かの模倣をしているつもりは無いですが、面白いと思った表現は沢山あるので、それらは確実にインプットされていると思います。中でも映画と漫画から受けた影響は大きいと思います。

——被写体はどうセレクトしているんですか?また、被写体として惹かれるものについて教えてください。

衝動的に撮影しているので特に選んでいるという感覚は無いです。ただ目の前にあって少し異物感のあるものに惹かれているかもしれないです。美しい風景を撮りたくて旅をする。そういう感覚は基本的には無いです。

ただ表現としては人間の普遍的な部分を真っ当に描いているものが好きですし、表層的な面白さや美にはあまり惹かれないです。

——好きなものを3つ教えてください。

漫画 井上雄彦「リアル」
己を肯定するという意味で最も大きな影響を受けたものかもしれません。

映画 北野武「HANABI」
ある意味で自分の理想的な生き様を教えて頂きました。

スポーツ
アスリートは全員尊敬の対象です。

——どんな音楽を聴いていますか?

その時々でいいと思ったもの。曲よりは歌詞と声が重要。

——好きな映画と好きなシーンについて教えてください。

本当に沢山あるのですが、 強いて言うならば「湯を沸かすほどの熱い愛」の宮沢りえさんが「生きたい」と言うシーン。

本当に強烈な”生”への渇望を見事に表現されていると思います。

——長島さんはご自宅にある暗室で自ら現像をしていると伺いました。スマートフォンなどで簡単に撮れて、プリンターからすぐ印刷が出来る写真に比べ、時間もお金もかかる手法です。その違いや良さを教えてください。

デジタルとアナログの一番の違いは失敗が出来る事だと思います。

なるべく納得いくまでプリントはし直しますが、理想的な仕上がりというのは自分の中には基本的には存在しません。そういう曖昧な感覚を強引にでも一枚の画にしてくれるのがアナログの良いところであり、だからこそ自分の手で撮影からプリントまで完成させるというのは、自己陶酔を表現という土俵に上げる為の最低限の責任かもしれません。撮影したネガを見て「何じゃこりゃ、しょうもな」と思う事も多々ありますが、プリントしてみて、「こんなの撮れたんか」とカタルシスに浸れる様な写真も過去に何枚かはあります。

自分の頭の中で完全にコントロールされて出来たものに魅力をあまり感じないというか、多分、自分のクリエイティビティを基本的には信用していないというのが根本にあるのかもしれません。

今回の写真展では、どうしても自分のプリント能力では不可能な為、手焼きでプリントしたものをデジタルの力で拡大したものがあるのですが、オリジナルのプリントも会場には持っていくので見比べてもらうのも一興かと思います。

仕事を含め、誰かの為に撮るものに関しては失敗があまり無いので躊躇なくデジタルを選びます。フィルムで撮影するのはお金や時間が掛かりますが、デジタルも突き詰めればそこは変わらないと思います。

——今回の展示に出展される写真を拝見すると、孤独は感じるけれど寂しくはないと感じました。そして「solitarational singularity(孤独における特異点)」というタイトルを見て、孤独であること、そして他と異なることを肯定している様な気がしました。ご自身はどのように考えセレクトし、コンセプトやタイトルをお決めになられたのでしょうか?

最初の質問でも答えたのですが、写真展のコンセプトは作品をプリントする過程で決めたもので、元々のコンセプトなどは無く、製作過程で発見した自分をまとめてみようというのがコンセプトになります。

タイトルに関しては、展示する写真がどの様な衝動、感覚で撮られたものかを客観的に見た事で思いついたものです。 人がいない画をわざわざ切り取っているという事は、きっと孤独を魅力的に感じていたのかもしれませんし、写真を撮るというのはある種孤独を追求する事にも繋がっている様な気がしました。そして孤独を追求したにも関わらず、他者に表現して見せるという事に感じた矛盾は、それらの感覚の特異点に存在するのではないかという解釈のもと、今回のタイトルに辿り着きました。

ただ、今回の写真展に関わらず、人間は根本的に一人で生きていて、社会的な正義では無く個の正義を最優先して生きるべきだと思っています。その上で生きやすさや生きづらさみたいなものを加味して選択すれば良いと思います。皆が皆、自分が本気で信じる正義を追求すれば求めるものにさほど誤差はない様な気がするので、平和な世の中になるのでは無いかと思います。

長島大三朗 初インタビュー|写真を撮る制作過程で自分を発見する「孤独における特異点」とは? art-culture181210-daizaburo-2-1200x798

——テーマの元となった「重力の特異点」は宇宙的な響きを持っているように思うのですが、どこでその言葉を発見したのですが? また、どういった宇宙観をお持ちですか?

御仕事で撮影させていただいている業界の中で、ここ数年シンギュラリティという言葉を良く耳にしており、その考え方に興味を持つ様になりました。簡単に言ってしまえば、AIが人間を超える時が来ることを示唆して使われている単語なのですが、調べてみると特異点という意味で、本来色々なものと組み合わされて使われている事が分かりました。

数年前に、舞踏の百木 俊介と共作した「重力との邂逅」という写真展をさせて頂いたのですが、その時から重力という目には見えないが地球上の全てのものに作用している力に興味があり、孤独という概念にも似たような感覚を覚えました。

宇宙感というのは考えた事が無いですが、宇宙からは様々な成り行きに抗う事の無意味さを強く感じます。死生観に似ているかもしれないです。

——他に挑戦したいアイデア・テーマはありますか?

今回の写真展で色々な事を考えるきっかけを頂いたので、次回は写真だけに関わらず、表現するという事にもっと特化した作品展をやりたいと思っています。

——写真というメディアが誰でも扱えるようになった昨今、ご自身の撮るものは変わりましたか?

あまり変わっていないと思います。というよりは、ずっと撮り続けているシリーズもあれば、今回の写真展の様に衝動的に撮りためた物もあり、写真は同時並行で色々なテーマと向き合って作品を作る事ができるのも面白い事だと思います。

——Instagramについて何か思うことはありますか?

色々な写真や映像が見れるので面白いですが、数字や目に見える情報に翻弄されてしまい、物事の本質を全く鑑みずに優劣がつけられてしまう社会が更に加速されていくのはつまらんなぁと思います。

ただ、表層的な評価は持続せずに廃れていくと思っているので、 巻き込まれない様にせにゃなぁとは思います。

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——お気に入りのカメラはありますか?

機材にはあまりこだわりがないので、普段使っているカメラについて言えば、 画が綺麗なのでハッセルブラッドは好きです。Nikonは頑丈そうな感じが好きです。

今一番使っているのはLomographyのfisheyeというカメラです。 今回の写真展にもそれらで撮影したものがあるので探してみて下さい。

——いま、最も興味を持っているモノ・コトは?

デミアン・チャゼル監督の次回作と、是枝裕和監督の次回作が気になります。

デミアンチャゼル監督の“セッション”が大好きだからです。ララランドで大作映画も成功させましたし、次回作が近々公開されるようなのでとても期待しています。是枝裕和監督はパルムドールを撮って、次の映画で初めての海外進出作という事でこちらも大変気になります。

——今、やりたいことはありますか?それはなぜですか?

今やりたいのは今回の写真展を完成させることです。

——10年後、どうなっていたいですか?

自分がどうなっていたいというのは特にないですが、自分を偽らずに生きていられたら成功ですし、死んでしまっていたとしてもそれはそれでいいです。

——読んでいる方に一言お願いします。

稚拙な文章に長々と御付き合い頂き有難うございました。

正直、自分を表現するというのが極めて苦手なので、もし私に御興味を御持ち頂けた様でしたら、写真展の会場におりますので是非一度実物に会いに来て、 僕という人間をどの様に見たか御享受頂ければ有り難いです。

色々と御話を聞かせて頂きながらビールでも奢って下さい。

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ステートメント

今回の写真展は過去に撮り溜めていた写真の中から、
人が写っていない風景や、
平面的に被写体と向き合ったものを主にセレクトした。

孤独との向き合い方が根本にあり、
世界に己しか存在しないかのような風景やスナップ、
孤独の末(特異点)に真夜中の遊具を撮影したものがある。

それはまるで人類無き世界に生き残った自然、
そしてヒトの手によって作り出された無機物の残骸の様でもある。

個展会期中、12月16日(日)19時から、ゲストに俳優の阿部進之介が登場しトークショーが開催。映画『デイアンドナイト』の公開を1月26日(土)に控える阿部進之介と作品作り、表現についてがトピックになるとのことで、日本映画の最前線で活躍しているアクターの話が聞ける貴重な機会となる。ぜひ足を運んでみよう。

EVENT INFORMATION

大三朗 写真展
Daizaburo Photo exhibition
「solitarational singularity」

長島大三朗 初インタビュー|写真を撮る制作過程で自分を発見する「孤独における特異点」とは? art-culture181129-daizaburo-1-1200x1703

2018.12.12(水)〜12.18(火)
WEEKDAY 15:00-22:00 
HOLIDAY 14:00-21:00
ANAGRA(東京都千代田区平河町1-8-9 地下一階)

詳細はこちら

TALKSHOW INFORMATION

俳優 阿部進之介 × 写真 長島大三朗

長島大三朗 初インタビュー|写真を撮る制作過程で自分を発見する「孤独における特異点」とは? art_culture180416_anagra_-1200x900

2018.12.16(日) 19:00〜
ANAGRA(東京都千代田区平河町1-8-9 地下一階)
尚、入場の際に500円のドリンクチケットを御購入頂きます。

阿部進之介 プロフィール
82年大阪府生まれ。03年、映画『ラヴァーズ・キス』でデビュー。近作に映画『神さまの轍 -checkpoint of the life-』『栞』、ドラマ『軍師官兵衛』『下町ロケット』『BG~身辺警護人~』などがある。『アウト&アウト』が公開中。2019年は企画主演を務める映画『デイアンドナイト』が公開を控えており、映画『キングダム』などの話題作も公開予定。

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長島大三朗