仮面のピアニスト・ランバート(Lambert)。アーティスト名以外の情報、本名・年齢・生年月日・出生国は非公表となっており全てが謎に包まれている……。

3年前に突如登場し「Lambert Rework」と称されたカバー作品を公開。そして、2014年にベルリンのインディ・レーベル〈Staatsakt〉から『Lambert』、2015年に『Stay in the Dark』と立て続けに作品がリリースされた。

これまでに行ってきたライブでは、1度も仮面を外すことはなく、ランバートの素顔を知る者は誰もいない。

その謎めいた仮面と人々の琴線に触れる幻想的なピアノが話題を集め、クラシック最高峰〈デッカ〉のポスト・クラシカルに特化した新レーベル〈Mercury KX〉から、2017年5月に『スウィート・アポカリプス(Sweet Apocalypse)』がリリースされた。日本では〈ユニバーサル〉から2017年7月5日(水)に待望のリリースとなる。

Lambert – Sweet Apocalypse (Live)

今回は、最新作のジャケットを手がけたアーティストmokiとの関係性、オアシス(Oasis)、ハイム(Haim)、デヴィッド・ボウイ(David Bowie)、フェニックス(Phoenix)などを含む多種多様なジャンルの音楽をカバーしている彼の音楽的背景などを訊き、謎多き仮面のピアニストの正体の片鱗を探ってみた。

text by Qetic

Interview:ランバート

——アルバム・ブックレットの冒頭に「このプロジェクトをAnela Adlihtam Anojに捧げる」とありますが、どのような人物なのですか?

私にとって、とても特別な人のことです!

——moki(『スウィート・アポカリプス』のジャケットを手がけたアーティスト)と出会ったきっかけは?

ある日、mokiからメールをもらいました。「私は、仕事中によくあなたの音楽を聴いています。もしよかったら、あなたのために絵を描いてみたい」と。そこで私も彼女の絵を見てみたところ、私たちには共通するものがあると感じました。どちらも独自の世界を創造して、そこに身を潜めるのが好きなんです。

——このアルバムにおけるmokiとのコラボレーションの方法について教えてください。できあがった曲にインスピレーションを受けて、mokiが絵を描いたのでしょうか。それとも曲作りの段階からmokiとディスカッションをしているのでしょうか。

その両方です。私たちは、世界の終末には、どこか甘美な側面があるのではないかと話し合いました。というのも、滅亡後の世界を舞台にした映画やドラマでは、つねに一筋の希望が残されていますよね。社会的な関係性においては、非常によい方向に機能するさまが描かれることが多い(たとえば『ウォーキング・デッド』では、人々がグループ内で互いを理解し合い、助け合います)。次に私たちは、このトピックに関するアイディアや素材の断片を持ち寄りました。私がmokiにタイトルトラックの“スウィート・アポカリプス”のピアノ・ヴァージョンの音源を送ると、彼女は絵を描きはじめました。その中に荒れ模様の雲が描かれているのを見て、私はそれを音楽で表現するためにドラムとホーンをレコーディングしたのです。

【インタビュー】オアシスからショパンまで!広大な背景を持ち琴線に触れる音を紡ぎ出す仮面のピアニスト・ランバートの正体に迫る interiview_lambert_1-700x700
『スウィート・アポカリプス』

——アルバムの特設サイトで、1曲ずつに対して「QUOTE」と題された言葉が書かれていますが、これらはすべて本や歌詞からの引用ですか? それとも、あなた自身やmokiの言葉も入っているのでしょうか。アルバム最後の曲“ジ・エンド”の《This is the end. My only friend the end.》はドアーズの歌詞ですね。

ほとんどがmokiの言葉からの引用です。なぜなら彼女は、世界の終末に対する芸術家や活動家の視点に関して、多くの時間を費やして調査していたから。

でも、“ジ・エンド”に関しては、ジム・モリソン(Jim Morrison)の言葉を引用しました。私はドアーズ(The Doors)があまり好きではありませんが、モリソンが“ジ・エンド”という曲について次のように語っているのを聞いて、面白いなと思ったのです。彼は、なぜ我々は「生」よりも「死」を恐れるのか、「生」の方がより深く我々を傷つけるのに、と問いかけていました。そして人生の終わりには、ある種の救済が存在することを望んでいました。それは世界の終末に関しても通じるものがあると私は思います。つまり、希望の探求です。

——アップライトピアノにマイクを立てている映像を見ましたが、特徴的な音色もご自身で作っているのですか?

私はドイツの北東にあるシュヴェリーンという街から運んできた、とても古いピアノを使っています。ハンマーと弦の間にフェルトをはさんで、レコーディングではハンマーに非常に近い位置にマイクをセッティングしました(低音部にはColesのリボンマイク、高音部には2本のNeumann KM184というマイクを使用)。けれど私は、そういった技術的な機材とは関係なく、音楽には魔法のようなことが起きると信じています。

In the studio with Sweet Apocalypse

——「14歳のときに出会った先生によってインプロヴィゼーションの道が開かれた」とインタヴューで語っていらっしゃいましたが、それについて詳しく教えてください。

先生は私の家の近くのアパートに住んでいて、私を地下鉄の駅で拾い、バイクの後ろに乗せて家まで連れて行ってくれました。彼はジャズ・ミュージシャンで、私にジャズ・スタンダードを即興で弾くための魔法のようなルールや構造を教えてくれました(のちに私は、これらのルールを破っても良いことも学びました)。そして、他の人と演奏するときのインタープレイの面白さにもすぐに惹かれました。私はとても早い時期からクラシックの基礎的な作曲が苦手だと分かっていたので、自分で作曲し、即興で演奏していきました。先生はそんな私を応援してくれました。6年後に私が街を去ることになったとき、それまでに私が書いたすべての曲をまとめた分厚いファイルを渡したのですが、先生はまだ持っているかな? 私はすべて失くしてしまったんだけど……。