ランカシャー出身の女性エレクトロポップ・シンガーソングライター、リトル・ブーツが新作をリリースしました。リトル・ブーツと言えば、デビュー前から「BBC SOUND of 2009」で第1位に選出、YouTubeで公開した名立たるアーティストのカヴァーが話題となる中、同年アルバム・デビュー。全英5位(ゴールドディスク獲得!)、オーストラリア4位など世界中で大ヒットし瞬く間にスターダムに駆け上がっておりました。そんな彼女、ちょこちょことMVやシングルをリリースはしていましたが、フルアルバムはなんと超絶久しぶり、まさかの4年ぶりです!

気になる新作のタイトルは『ノクターンズ』(ノクターンは夜想曲という意味)。その表題通り、一枚通して聴いていると、まるで「夜遊びに行って帰ってくるまで」の情景が思い浮かんでくる作品となっています。センチメンタルな浮遊感漂う“Motorway”から始まり、ビートが妖しげにうねる“Broken Records”、メロウなパーティ・アンセム“Beat Beat”、 “Mortorway”とは逆の爽やかな浮遊感が感じられる“Satellites”でラストを迎える……1枚通して聴くことを激しくオススメしますが、1曲ごとにシャッフルして聴くのも面白いかも。というのは、エレクトロ・ポップ作品の中には、シングル・カットされている曲だけが良曲でそれ以外は微妙、ということもよくありますが、本作はどの曲もシングルでリリースされても納得な珠玉の名曲揃いですからね。

さて、この上質なエレクトロ・ポップ作品をリリース後に、さらなる飛躍を遂げるであろうリトル・ブーツことヴィクトリア・クリスティーナ・ヘスケスに、本作のことや気になるMVのこと、昨今のエレクトロ・ミュージックについてなど聞いてみました。

Interview:Victoria Christina Hesketh (Little Boots)

Little Boots – Every Night I Say A Prayer

――1stから4年間とかなり間が空いてからのリリースとなりますね。まずは、その間どのような活動をしていたのかを教えて下さい。

4年間、新曲を書いたりレコーディングをしたりツアーをしたり、世界各国を回ってライブをしていたから、とっても忙しかったわ。新曲に関しては、実は今回の新作に収録されているものよりも、もっと多く書いていたのよ。

――早速ですが新作『ノクターンズ』について伺っていきたいと思います。本作はトラック“Broken Record”以降は特にクラブ色の強い音になっていますね。ダンス・ミュージックへの傾倒が色濃く影響された作品とのことですが、特にインスパイアされたDJや音楽があれば教えて下さい。

前にとあるフェスティバルでDJをした時、行き帰りにずっとマドンナのアルバム『コンフェッションズ・オン・ア・ダンスフロア』を聴いていたの。本当に素晴らしいダンスポップアルバムだったから、「何で今のダンスシーンってこういうアルバムが無いんだろうね」って車の中で友達と話してたのよね。なんだか私には、最近のダンスミュージックってどれも同じように聴こえていて…。でも、今の時代であっても、独自のイマジネーションをとかを入れたら、こういう素晴らしい作品が絶対に作れるはずだと思ったの。それから、多くのダンスミュージックやディスコの歴史について調べてみたり、古いレコードを聴いて本作を制作したの。それらにはすごくインスパイアされたわ。

――タイトルが「夜想曲(ノクターン)」で「夜」をイメージしているそうですが、真夜中、寒い中一人クラブへの道を急ぐところから始まり、クラブで踊り、少し休憩、徐々に眠りに落ち、その後は明け方まで踊ったり少しウトウトを繰り返して朝を迎える……1枚を聴いてそのようなイメージが浮かびました。本作を1枚通して聴くときには、どのような情景を思い浮かべて聴いてもらいたいですか?

本当にそのイメージ通りよ! 自分が説明しなくてもそう思って聴いてくれているのはとっても嬉しいわ。このアルバムは正に「夜の旅」っていうのがイメージになっていて、聴いている人にはいろんな夜の旅の経験を想像してもらいたいなと思っているの。私も旅とか色々なものから影響を受けてこの作品を作っていったから、皆にもそれぞれ色んな旅をしてもらいたいなと思っているわ。

――その「夜の旅」というイメージを元々コンセプトとして考えていたのですか?

最初はコンセプトアルバムとして書き始めてはいなかったわ。でも、仕上がってから聴くと「夜の旅」っていうテーマがあるのかな、と思ったのよ。あと、自分で聴きかえしてみると、他にも色々な影響が本作に現れているな、と感じたわ。まず、自分が世界中を経験していたパーソナルな旅という経験、次に自分のソングライティングに影響を及ぼしたものも本作を通して出てきているし、あとは自分が体験した浮き沈みとかが全体的に現れているかな。今回はプロデューサーと一緒にスタジオに入ったから、1曲1曲を聴いていて良いな、と思うのもあるし、全体としてもしっかりと1つにまとまっている気がする。そういった形で1つのコンセプトとして仕上がっていったのかも。

――そうだったんですね。次に本作の楽曲についてですが、それぞれトラックごとにストーリーがあるそうですね。特に他のタイトル名と並べて見ると目立つ“Crescendo”、水が滴るイメージとあなたの影が白黒映像で繰り返し映されるMVが印象的な“Mortoway”、そしてシングルにもなる “Broken Records”について詳しく教えてほしいです。

“Crescendo”
音楽の単語でもある“Crescendo”は、物事が大きくなっていくっていうことを表現するためにチョイスしたわ。例えば人ともめ事をしている時に、すごく小さなことでも雪だるま式にどんどん事がエスカレートしてしまって、最終的に2人で怒鳴り合いになってしまうような事ってあると思うの。私自身すごく頑固で、そういう経験がけっこうあったから、そのことについて書いている曲なのよ。

“Mortoway”
逃避行をテーマにしている曲よ。それと同時に、私の体験を歌っているの。私は幼い頃、小さな町で育ったの。だから大都会ロンドンに対して憧れを持っていたのよね。なんだかすごく楽しそうで自分の抱えている問題を全て解決してくれそうだなと思っていて。だから、自分が車を運転出来るようになったときには、ライブとか色んな場所に車で行っていたの。その時に夜に車でMortoway(高速道路)を走ることが多くて――その背景を歌詞でも歌っているんだけど――で、実際に憧れを持っているところに出てきて、自分が抱えている問題が解決されると思いきや、街にでたらもっと違う問題が出てきたのよね。その体験についても表現しているのよ。

“Broken Records”
この楽曲の大きなテーマは「誰かを忘れたくても頭の中に残っていて、忘れられないわ!」というのもの。実は前作のアルバムに収録されている“Stuck on Repeat”のパート2でもあって、さっき言った大きなテーマとは別に自分のソングライティングの方法とか意識も表しているわ。ポップソングを書く過程や、ポップソングを書く時の気持ちについても同時に表わしているのよ。

――次に、本作の豪華な参加者について教えて下さい。今回は敏腕プロデューサー〈DFA〉の創設者ティム・ゴールズワーシー、またメトロノミーのジェイムス・フォード、ヘラクレス・アンド・ラヴ・アフェアのアンディ・バトラーが参加されていますが、それぞれどのような経緯でプロデュースや参加が決まったのですか?

もともと彼らの大ファンだったしすごく尊敬しているアーティスト達だったんだけど、今回のコラボレーションに関してはかなりナチュラルな形で起こったわ。前作に関してはレーベルを通して、マネージャーに話がいき…っていう、なんだか機械的な感じだったんだけど、今回は友人関係だったりしたから、そういった意味でね。元々アンディは自分のライブを見に来てくれていた友達だったし、ジェイムズは私と同じマネージャーだったから、よくカフェで会って話すことがあったのよね。ティムに関しても、アンディや自分のマネージャーを通じて知り合いになったから、やっぱり自然な流れだったの。元々彼等の音楽も大好きだから、自分のアルバムに彼らのエッセンスが入るっていうのは、すごく幸せ。それに、彼らと一緒に今作を作り上げられたのは自分にとってもすごく光栄なことだなと思っているわ。

――次はいくつかMVについてお聞かせ下さい。“Every Night I Say A Prayer”のMVは白黒を基調とし、ゲイのダンサー達が、クネクネしつつも、変なポーズで決めるところは決めていて、マドンナの“VOUGUE”のMVを彷彿させました。美しくもありますが少し滑稽でもあるこのMVは何からインスパイアされたんですか?

このMVはね、80年代初頭のニューヨークのシーンに「ボーギング」っていうシーンがあって、そこからすごくインスピレーションを受けたものになっているの。実はマドンナもそこから影響を受けてそのビデオを作ったのよ。ボーギングはニューヨークのドラッグクイーンのから影響を受けているムーブメントで、すごく自由で、その頃のディスコやアーリーハウスをすごく表現しているシーン。『パリスイズバーニング』ってニューヨークのドラッグクイーンをモチーフにした映画があるんですけれども、そこからは特に影響を受けたわね。

――そうだったんですね。次回のMVについても何か教えてもらえませんか?

いま作っている“Broken Record”のミュージックビデオは70年代のローラースケートディスコにインスピレーションを受けたミュージックビデオになっているんだけど、ローラーディスコレイブ的な感じのビデオが出来ると思うわ。今回はライブバンドを入れて、ライブ形式のビデオになっているから、それもすごく楽しかったな。すごくアットホームな雰囲気の中で出来たし、その場にいた観客も素晴らしいったので、きっとすごく良いビデオが出来ると思うわ。楽しみにしていて!

――あなたがデビューしてから4年の間にEDMがお茶の間にも浸透しましたよね。中にはただその音が流行りで売れるから、という理由で取り入れて、そのせいで結果どれも似たりよったりのサウンドになっているのではないかと強く感じています。あなたの新作では特に今市場で流行っているようなサウンドは入っていないと思いましたが、エレクトロシーンの最前線にいるあなたは、現在過剰なまでに氾濫しているこのEDMブームについて、何か思っていることなどありますか?

実は私、EDMっていう言葉がすごく嫌いなのよね…。だって、EDM=エレクトロニックダンスミュージックっていうことを説明しているでしょ。でもそれって、どんなエレクトロダンスミュージックでもいいはずなのになんだかトレンドになっちゃっている気がするのよね。ダンスミュージックってすごく楽しくて皆が踊りだせるようなポップミュージックであるべきだし、本当に自分の作りたいものを作るべきだと思っているの。でも最近のトレンドって全て一緒で、いつか絶対にこのブームが去るっていうのが見えているものだから嫌だな~と思っているのよね。だから私はクラシックなダンスアルバムを作りたいと思って本作を作ったのよ。

――最後に、今後の予定や目標を教えて下さい。

アルバムがリリースされて、それと同時にアメリカとイギリスのツアーが決まっているの。日本にも早く来たいなと思っているわ! あとはアジアも回れたらいいなと思っているんだけど、夏にはいろんなフェスティバルへの出演も予定しているの。あと、今年の夏にまたレコーディングを開始してもっと新しい楽曲を書きたいなと思っていて。今回は前作のようにあまりギャップを開けずに新しいアルバムを出せるといいな。今作に収録されなかった楽曲もたくさんあるから、それらも含めて早い形で皆に新しいアルバムを届けられるといいな!

(text&interview by Yuka Yamane)

Little Boots – Broken Record

Release Information

2013.05.22 on sale!
Artist:Little Boots(リトル・ブーツ)
Title:Nocturnes(ノクターンズ)
Hostess
HSE-5008
¥2,490(tax incl.)
※日本盤はボーナストラック1曲、歌詞対訳、ライナーノーツ(by 新谷洋子)付