90年代中盤のデビュー以来、映像喚起力の高いサウンドスケープを描くバンドとしては右に出る者のいないモグワイ。つい昨年も『消えたシモン・ヴェルネール』(10年)で知られるフランスの映像作家、ファブリス・ゴベールが手がけるドラマ『レ・ルヴナン(Les Revenants)』のサントラをバンド名義でリリースしたことは記憶に新しいが、早くも通算8枚目のスタジオ・アルバム『レイヴ・テープス』が完成した。

不穏にうごめくシンセ・フレーズや、空気を切り裂くようなギター・フィードバック、そしてスチュアート・ブレイスウェイトの貴重な生歌(!)も披露されるなど、否が応でも『レ・ルヴナン』との関連性を疑わずにはいられない本作。とはいえ、曲タイトルではいつも以上に遊んでみたり、某ラジオの音声をわざわざ人力で再現してみたり、「制約」から解き放たれたモグワイのサウンドはやっぱり最高に刺激的だ。2月には<Hostess Club Weekender>初日のヘッドライナーとして、およそ2年ぶりの来日も果たす。スチュアートと並ぶバンドのもう1人の頭脳、バリー・バーンズに話を訊いた。

Interview:Barry Burns(MOGWAI)

Mogwai – “The Lord is Out of Control” (Official Video)

90年代当時の俺たちは、レイヴ・パーティーに行くにはまだ若すぎたんだ。
でも、そこで年上の人たちとカセット・テープを交換したんだよ

――こんにちは。お元気ですか?

まあまあだよ。そこまで忙しくはないんだけど、先週引っ越したばかりでさ。未だに荷解きしてるんだ(笑)。段ボールに囲まれて退屈だよ。

――じゃあ、質問に答えながら荷解きしてもらっても全然かまわないので(笑)。

無理無理! 俺、一度にひとつのことしかできないんだ(笑)。

――わかりました(笑)。では、インタビューを始めさせて下さい。最新作『レイヴ・テープス』は、ドラマのサウンドトラックとして作られた 『レ・ルヴナン』(13年)の世界と地続きになっているような気がします。実際、トラックはほぼ同時進行で作られたのでは?

『レ・ルヴナン』は去年作ったんだけど、今回は制作スパンがかなり短くてね。2日酔いのまま次に進んでる感じ。いつもはアルバムとアルバムの間に2年半は設けるんだけど…。だから、前のレコードの影響が今回のアルバムに濃く出てるんだと思うよ。ギター・エフェクト、シンセサイザー、オルガンとか、使った機材も同じだしね。だから地続きになってるように聞こえるのもわかる。でも、意識してそうしたわけじゃないんだ。

――あなた自身、2つのアルバムに共通したものを感じられますか?

まあね。2枚ともロー・キーだし、本当に必要なものだけが詰まったシンプルなサウンドだと思う。でも、これも2枚ともそういうサウンドにしようと考えたわけじゃないんだ。やっぱり、それぞれの制作期間に時間を空けていなかったっていうのが、2枚のアルバムに繋がりを感じられる一番の理由だよ。

――『レ・ルヴナン』のスコアでは「初めて第三者の指示を受けながら作曲した」とも語っていましたが、制約のある中で音楽を作ることはチャレンジングな経験でしたか?

いや、そこまでじゃない。曲を書いて、それをメールで第三者に送って、「ここを変えてくれ」、「ここをもっと長くしてくれ」、「もっと楽器を乗せてくれ」ってが返事が返ってくるのは良い経験だった。オーケストラの指揮者がいるみたいな感じ。普段の俺たちのレコードの作り方とは違うけど、そのおかげで映画とより繋がりを感じられる作品が仕上がったと思う。いつものモグワイのレコードを作ろうとしてたら、そうはならなかったんじゃないかな。

――『レイヴ・テープス』というタイトルには、どこか不思議でノスタルジックな響きもあります。これはどのようにして生まれた言葉なのでしょう?

90年代初めの話なんだけど、当時の俺たちはレイヴ・パーティーに行くにはまだ若すぎたんだ。でも覚えていたのが、俺たちより少し年上の人たちとカセット・テープを交換したんだよ。もらったテープは出来の悪い、ただ早いビートが繰り返されてるだけの音楽で、あまり好きな作品じゃなかったけど(笑)。でも、そういうテープをもらって聴いたっていうのが、今思うと面白いなと思ったんだ。しかもベッドルームでね。ああいうのってベッドルーム・ミュージックじゃくて、もっとファクトリーとかウェアハウス寄りのミュージックだもんね。だから、レイヴ=ノスタルジックなサウンドってわけじゃない。ノスタルジックなサウンドに関して言えば、それはもっと70年代とか80年代のホラー映画の方がそうだしね。ジョン・カーペンターとかさ。レイヴとはまた違うんだ。

――秘密結社のようなアートワークも興味深いです。コンセプトがあれば教えていただけませんか?

デイヴ・トーマスってやつがスリーヴをデザインしたんだけど、彼が参考にするためのイメージやフィルム、アーティストが何も思い浮かばないっていうから、俺たちが70年代の『Phase 4』っていう蟻の映画をすすめたんだ。すごく賢い蟻の話で…かなり変だろ(笑)? 幾何学的な映像やシーンがたくさん出てくるんだけど、彼がそれを見て、25パターンくらいのデザインを送ってきてくれたんだ。で、そこからベストなものを選んだ。音楽だけじゃなくて、アートワークも毎回完成させなきゃならないからね。とりあえずこんな感じになったってわけ(笑)。

――ポール・サヴェージを再びプロデューサーに起用した最大の理由は?
 
前回(11年の『ハードコア・ウィル・ネヴァー・ダイ・バット・ユー・ウィル』)がすごく楽しかったからっていうのが理由のひとつ。あと、彼はコントロールするのがすごく上手くて、はっきりと何が機能して何が機能しないかを言ってくれるんだ。遠慮して何も言えない人たちも何人かいるけど、彼は違う。お互い20年近く活動してるから、彼らも俺たちに何をすれば良いか完璧にわかってるんだよ。「いや、それはダメだろ」って助言をしてくれる人がいるっていうのは大切だね。しかも彼は、本当に、超、超、落ち着いた奴なんだ。決してイライラしたり、怒ったりしない。そういう人間と作業するのって、やりやすいんだよね。

――普段はあまり連続で同じ人は起用しませんよね? 2作連続で共通のプロデューサーを迎えたのは、デイヴ・フリッドマン以来だと思いますが。

そうそう、普段はやらない。たしかにデイヴはそうだったね。やっぱり変化も良いものだから、同じプロデューサーを連続で迎えるっていうのはあまりやらない。新しいプロデューサーと仕事するのは、新しいメンバーをバンドに迎える感じなんだ。アレンジを変えるのも良いことだからね。だから、また次回もポールを雇うかはまだわからない。そうしたいけど、次のレコードを作る時の気分によるな。

――あなた達がたびたびアビー・ロード・スタジオを採用する理由はどこにあるのでしょう? 『ジダン 神が愛した男』(06年)もここでマスタリングされていますが、映画音楽を数多く手がけているというのも理由に入りますか。

安いから(笑)。ただそれだけさ。他のスタジオを借りるのは高いからね。前回はポールのスタジオでレコーディングしたけど、かなりお金がかかったから、今回は自分たちのスタジオでレコーディングしたんだ。長期間使えば、その分お金もかかるからね。

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