さまざまな課題が降りかかるエンターテイメント業界。

4月25日にYouTubeにて配信された対面型ラジオ『やまだひさしのタク(宅)アンリミテッド』では、人気DJ:やまだひさし氏の進行のもと、TERU(GLAY)、SOIL&”PIMP”SESSIONS社長、origami PRODUCTIONS対馬芳昭CEOら15名以上が集結し、各自の置かれている状況や課題について話し合った。

同放送へライブハウス代表として出演したのは、青山月見ル君想フ(以下、「月見ル」)の店長、タカハシコーキ氏。

コロナショック以降、多くのアーティストがライブハウスが無料配信を行うなか、「月見ル」では、有料ライブ配信に挑戦している。

今回は、有料配信に踏み切った背景と、厳しい状況のなか、ライブハウスが届けられる価値について聞いた。

(聞き手=中村めぐみ @Tapitea_rec)

Profile:タカハシコーキ(青山月見ル君想フ店長)

Interview:逆境のライブハウスがあえて取り組む「ワクワクする音楽体験の創造」とは|青山月見ル君想フ店長 タカハシコーキ interview200501_moonromantic_1
Photo by Shiho Aketagawa

1982年3月29日生まれ、神奈川県横須賀市出身。慶應義塾大学卒業。2009年月見ル君想フ入社。2014年より店長に就任、ブッキングマネージャーも兼任。

月見ル君想フでは、「パラシュートセッション」や「すべての音楽人の為の英会話教室」など、オリジナリティ溢れる企画を打ち出してきた。

MoonRomantic ChannelTwitter

どんなときも前向きに、クリエイティブに物事を解決する

━━コロナショック以降、どのような思いでここまで来ましたか。

いずれ、お客さんを入れてのライブ、イベントができなくなるであろうことは、早い段階で予想はついていました。

というのも、月見ルは社長の寺尾(Twitter:@budhan)ならびに、中国人スタッフ、台湾人スタッフが日々積極的に中華圏と意見交換を行っており、日本よりも感染拡大の早かった中国では、ライブハウスや音楽フェスティバルを運営する際、オンラインライブに切り替えた例がある、との情報も入ってきていたからです。

寺尾ブッダさんのTweet

━━もともと中華圏からの情報を受取りやすい環境なのですね。

2月以降、悩ましい状況がつづくなか、開催に踏み切った、「BIG ROMANTIC JAZZ FESTIVAL 2020」(2月22日開催)では、危機意識の高いスタッフや、中国、台湾の対応を参考に、お客様、出演者、関係者、合計約1,000人ならびに全ての会場に対して、全員の検温、マスク着用と消毒の義務、さらに問診ブースを設置するなど、当時できることはすべて行いました。

BIG ROMANTIC JAZZ FESTIVALで心残りだったのは、防疫上の観点から中国の『Power Milk』の来日をキャンセルしたことです。リアルタイムのライブ配信も検討したものの、準備期間や技術的な課題により諦め、予め収録しておいたライブ動画を上映しました。この時から、ライブ配信で音楽の価値を届けることを意識するようになりました。

━━現在、無料配信が主流のなか、独自のプラットフォーム「MoonRomantic Channel」にて有料ライブ配信をはじめた背景は?

コロナショックを受けて、無料配信が増えていく様子を見ていて、「アーティストにも、ライブハウスにも収入のない状況が続いて、音楽業界に未来はあるのだろうか?配信でも、お客さんに価値を感じてもらえるライブを制作するべきでは?」と感じました。

投げ銭の仕組みがあるYouTubeのスーパーチャットの利用も検討したものの、利用条件のひとつである「チャンネル登録者数1,000人、合計視聴時間4,000時間のハードル」の壁をスピード感を持って超えるのは、僕らの活動規模では厳しいと判断し、有料チケットによる配信をはじめました。

━━コロナショック以降、有料配信をはじめる以前も、月見ルさんではオリジナルグッズを展開し、価値の創造に取り組んでおられる印象です。

月見ルの核心には、「どんなときも前向きに、クリエイティブに物事を解決しよう」という哲学があります。ですので、厳しいなかではありますが、救済感があるものではなく、「かっこいいもの、誰かが幸せになれるようなものを創りたい」と考えています。

━━グッズなど手に取りやすいものと比べて、コンテンツ配信は、無料で見られるものをつい選びがちです。付加価値を生むためにどのような工夫をしていますか。

配信をはじめた当初は、「いつものライブを普通に配信すれば良いのでは」と考えていました。しかしそれでは、動画サイトにて無料で見られるライブ映像との差別化がむずかしく、お客様にとって月見ルの配信を選んで頂く理由がなくなってしまいます。

ですので、現在月見ルでは、いつものライブに加え、月見ルの配信だからこそ見せられるもの=普段のライブでは見られないものを見て頂くことにこだわっています。

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4月25日実施の児玉奈央さんの配信ライブ。
序盤では、部屋の中から配信しているようにも見えていたが
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背景のスクリーンを外すと、「月見ル」のシンボルである満月が現れた

そして「普段のライブでは見られないもの」を追求していくと、もともと僕自身が大事にしている活動コンセプトの「ワクワクする音楽体験」につながっていることがわかりました。

これまで、このコンセプトの下開催したのは、80回以上続けている月見ルの名物企画「パラシュートセッション※」や、いたるところでコラボレーションが起こっていたBIG ROMANTIC JAZZ FESTIVALです。

※パラシュートセッションとは、2組のバンドが対面するようにセッティングして1曲ずつ交互に演奏をして、セットリストを決めずに進んでいく、スリル満点の2マンライブ。お客さんは、普段の楽曲を聞きつつ、普段とは違う環境で予想のつかない展開を楽しんで頂けます。

つまりこれまで大事にしてきた「どんなときも前向きにクリエイトする」という哲学「ワクワクする音楽体験」にヒントがあり、オンライン配信でも基本的にやっていくことは変わらないなと思っているのが現状です。

━━これまで開催した有料配信について、リスナーさんの反応はいかがでしたか?

地方ツアーが中止になってしまったバンドに対して、地方へ行く代わりに無観客ライブの配信をしたところ、「やってくれてよかった!」という反応をもらいました。

━━配信ライブの価値を上げるために、現在も試行錯誤中とのこと。取り組んでいることはありますか。

遠隔セッションができれば、海外アーティストとの共演も実現できます。技術的な問題は解決済なので、企画でテストしていく段階です。また、演出についても、PVを作っていくような意識で、いろいろ試して行こうと思っています。

━━攻めの施策だけではなく、安全対策についてもお聞きできましたらと。「東京都感染拡大防止協力金」の要件として、無観客配信を行う場合も三密の状態を作らないことが挙げられていますね。

現状はできるだけ少人数編成のアーティストに出演していただき、スタッフも最小限としてもらえるようお願いしています。もちろん会場側も最小限のスタッフで運営しています。

━━ありがとうございます。付加価値を生むことと、安全に配信を行うことを両立しているのですね。

さまざまなものがオンラインに移行する時代、プラットフォーマーが果たす役割

━━エンターテイメント業界は逆境に立たされるなかで、協力して課題を乗り越える動きが広まっています。ライブハウスのミッションについてどう考えていますか。

今は自分たちのシステムを構築して、安定した配信をおこなうことで精一杯ですが、次の段階として、MoonRomantic Channelをプラットフォームとして提供することを検討しています。月見ルの企画以外のイベントも配信できる体制を整えることで、音楽業界全体に貢献できるからです。

お客様に価値を感じていただける番組を配信して、アーティスト、ライブハウス、コンサートに関わる人たちが食べていくための流れのひとつとして機能したいですね。

さらに月見ルの強みである、海外とのブリッジ事業を掛け合わせることで、これまで海外向けに発信できなかった方たちを応援する力にもなっていけましたらと。

━━今後、ライブシーン全体としてどのような流れになっていくでしょうか。

エンターテイメント業界を取り巻く状況は厳しいのですが、この抑圧された状況のなか、現状とうまく付き合う試みや反発を形にしていくことで、実を結ぶことや、生まれていくものがあると思います。

━━全国でライブハウスを運営する方たちや、音楽業界の方たちへ伝えたいことはありますか。

今は耐え忍んで、1つでも多くのハコが生き残れるように工夫する時期だと思います。通常の営業ができるようになるまでには、半年以上かかるでしょうし、あるいは、通常の営業はもうできないかもしれない。

僕らは、「耐えてきたけれど、もうダメだ」って思うのではなくて、ライブハウスも進化していくことで乗り越えたいです。月見ルでは進化するためのトライアルを進めているところですので、助け合っていけたらと思います。

━━有料配信に興味を持ったお客様へメッセージをお願い致します。

これまでライブハウスに来て頂いていたお客様に、同じ環境で音楽を届けられるのはかなり先になってしまうのが、仕方ないこととはいえもどかしいです。

その代わり、オンライン配信企画では、なるべくライブ感を失わず、ワクワクする音楽体験を届ける試みをしています。もし好きなアーティストのライブ配信がありましたら、ぜひチケットを買って、視聴してみて下さい。

そして、これまでライブハウスに足を運んだことがない方や、ご家庭の事情などでライブハウスから足が遠のいてしまった方にも、オンライン配信をきっかけにライブハウスを知ったり、またライブハウスに足を運んでもらうきっかけになれたら良いですね。

何より、月見ルの有料ライブ配信は、ワクワク楽しみながら見て頂くために制作しています。お客様の声を聞いて進化していきたいです。

MoonRomantic Channel

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