Interview:Justin Hawkins(The Darkness)

ヴァレンティア島という蛹に篭って、そこから孵化してついに飛び立つ

——大復活を果たした前作『ホット・ケイクス』リリース後に、レディー・ガガとのヨーロッパ・ツアーなど長期的なワールドツアーに出ていましたね。その経験は新曲作りへ何かインスピレーションを与えましたか?

インスピレーションか、うーん……ツアー中も曲を書こうとはするんだけど、実際良いものを作るのにはかなり労力が必要で、良い曲を作るためには止まって集中しなきゃいけないんだ。とはいえツアー中に書いた曲も2曲あるよ。ひとつはアルバムにも入っている“Wheels of the Machine”、もうひとつはその前にリリースした“The Horn”っていう曲さ。(ツアーは)自然と一段落ついたときに作曲期間に向かうエネルギーをくれるっていう意味でインスピレーションを与えてくれると思う。そういう自然なインスピレーションのサイクルを作ってくれるんだ。

——新作のレコーディングはアイルランドのヴァレンティア島で行われたそうですね。曲作りからレコーディングに至るまでメンバーチェンジがあったりとドラマティックなようでしたが、今までのアルバムの制作に比べて、今回の環境での制作は作品づくりにどのような影響がありましたか?

今回の環境はそういった色々な変化から来るドラマティックなことから逃避して、本当に大事なことに集中する助けになったよ。自分たちの家にいて日常生活を送っているとそういうことから影響されやすくなるけど、仕事をするために自宅から遠く離れた場所に行くと重要なことに集中することができたんだ。そこに関わる人々も含めて、外部の色々なドラマはフェードアウトしていってそれほど重大なものではなくなるんだ(笑)。一旦それらの人々がいなくなったら、また先に進んでいかなきゃならないのさ。集中すべきタスクが目の前にあると、次のステップへ進みやすくなるし、隔絶した環境にいることはその助けになるよ。なんて言ったらいいのか分からないけど、蛹の中にいるような感じなんだ。孤独な青虫が葉っぱをむしゃむしゃ食べて、ヴァレンティア島という蛹に篭って、そこから孵化してついに飛び立つような——バンドにもクイーンのメンバーの息子でもあるルーファス(・テイラー)がドラマーとして加わったし、これから蝶になって空へ羽ばたくってところだね!

——この場所を選んだ決め手はなんだったのでしょうか?

島のことはフランキー(・ポーレイン/ベース担当)の兄から聞いて知ったんだ。彼は島に家を持っていて、とてもインスピレーショナルな場所だって教えてくれた。とても変わった気候で、興味深い歴史を持っている場所なんだよ——1890年代後半には島から北米のニューファウンドランド島にケーブルを敷いて、モールス信号を送っていたらしいんだ。つまりは電気通信の走りだよね。そういう意味で当時はとても先進的な場所だったんだけど、今でもその頃の時代のまま止まってしまったような所で、そんなところも好奇心が掻き立てられる場所なんだ。

——島で何か新たな発見などはありましたか? ヴァレンティア島でどうやらあなたは禁煙に成功したとか。

ははは、島にいる間に禁煙に成功したけど、島から戻ってきたらまた吸い始めたよ(笑)。実際今日も煙草を吸おうかと思ったんだけど、やめておいたんだ。だから今日「は」禁煙に成功したと言えるね(笑)。発見については、それといって無いかな……ずっと引きこもって作曲していたからさ。良いヴィーガンのクレープ屋なら見つけたよ! 田舎でそんな場所があるなんて変な感じだけど、これがなかなか良かった。あと、スレートの採石場は見に行ってみて面白かったよ。ヴァレンティア島は沢山のスレートを採掘しているんだけど、この採石場は海に突き出したような見た目で、まるで違う惑星みたいな風景なんだ。新しい『スター・ウォーズ』の映画の撮影にも使われたらしいよ。まるで月の上にいるみたいで、もしも月の表面が月の石の代わりに粘板岩で覆われていて、沢山のアイルランド人が歩いていたらあんな感じだね(笑)。

▼ヴァレンティア島の様子▼
Valentia Island – tourismTV.wmv

ヴァイキングの文化が俺たちが成長する上での環境の一部となっていた

——ヴァレンティア島関連でもう1問。以前は“性”をテーマにした歌詞が多めでしたが、今回は自然や侵攻など、性とは少し異なるパワーをもったテーマも目立つように感じますが、これも島からの影響だったりしますか?

(テーマの変化は)それが人生だからさ。予期しない変化があるものなんだ。それにこれまでにも多少そういうテーマは扱ってきたよ。でも島の環境は恐らく俺たちをこれまでとは違う環境に置いたことで変化を与えたと思う。とはいえ、別に俺たちはコンセプト・アルバムを作ろうとしたり、意識的にテーマを変えたりしたわけじゃない。あくまで出来る限り自然にやっているだけで、ザ・ダークネスにとって制限はなにもないんだ。(バンドの)皆が納得さえすれば、世界中の何についてでも書くよ。だからその時に感じていることをそのまま書いているだけさ。おそらく今回は色々なドラマがあったから、自然と“征服”や“愛”というテーマに引き寄せられたんだと思う。これまでにも扱ってきたテーマとそれほど変わってはいないけど、それぞれのテーマの分量が変化したんじゃないかな。

——そうなのですね。“Barbarian”、“Roaring Waters”の2作品では侵略や侵攻をテーマにしていますが、特にこのようなテーマのどんなところに惹かれますか?

俺とダン(・ホーキンス/ギター)はイースト・アングリア(イングランド東部の一地域、元イースト・アングリア王国)で育ったんだ。そこがヴァイキングの領地だった場所だったから、ヴァイキングの文化が俺たちが成長する上での環境の一部となっていて、自然とインスピレーションを受けていたんだよ。それに、(ヴァレンティア島のある)アイルランドでは、北アフリカから来たムーア人の侵略を受けている土地も一部あったんだ。ムーア人は小さな村を襲って男や女や子供を攫って、北アフリカに連れ帰って海軍などで働かせたらしい。この間どこかで読んだけど、彼らが連れ去られた何世代か後にその人々と連絡がとれた時、彼らは北アフリカでの暮らしに満足していたんだそうな。もちろん強制労働みたいなことはあったらしいけれど、アイルランドでの暮らしよりもそっちでの暮らしの方が良いと感じていた人も多かったみたい。このように住む環境が人に与える環境とか、過酷な変化を耐えることはある意味自然災害と似たようなものだと思うし、それが何年も後に及ぼす影響とかいったものはすごく興味深いと思ったんだ。

——10曲目“Conquerors”では、メインボーカルをフランキー(・ポーレイン/ベーシスト)が担当しています。この試みはどのような経緯で決まったのでしょうか?

曲を書いていた時、フランキーがメロディーのアイデアを提案したんだ。皆でジャムをして、コードを鳴らしているところに彼が歌い出してさ。そのときのフランキーの歌い方は俺自身のアプローチとは全く違っていたんだけど、それが曲にちょうど合っていたし俺たちはそれが気に入ったんだ。この曲で彼がメインボーカルをとるのが適任だったのは明らかだったから、皆アルバムでもフランキーに歌ってほしいと思ったんだよ。それにクイーンも同じことをやっていたし、イーグルスだってシンガーは一人だけじゃなかった。俺も、エゴとかは抜きにして、彼がこの役割に相応しいと思ったんだ。でも彼は歌うことに慣れてなくて緊張するからライヴで歌うことには消極的なんだよね。なんとか説得しようとしているんだけどね。すごく良いシーンになるだろうし、ファンの皆もきっと喜ぶはずだよ——是非セットリストの最後にやりたいね! でも俺の言うことには耳を貸さないし、実現するにはオンラインの署名運動を始めて彼を説得しないといけないな。

唯一聴きどころじゃないのは曲間の無音部分だけだね

——アルバムタイトル『ラスト・オブ・アワ・カインド(最後の生き残り)』にはどんな想いが込められていますか?

想いやメッセージというのは特別ないかもしれないな。っていうのも、アルバムにそのタイトルの曲があって、皆「この曲が一番良い、これをタイトルにしよう!」って感じで決まったからさ。俺は特に所謂タイトル・トラックってやつだとは思っていないけど……俺はずっと『ザ・ダークネス 4』ってタイトルが良いと思っていたんだ。フォリナーの『4』やレッド・ツェッペリンの『IV』が昔から好きなんだよ。それにいつも、殆どのバンドにとって「4」っていうのは良いターニングポイントだと思っていたんだ。4枚アルバムを作れるほどバンドが長続きするっていうのは祝うに値することだしさ。だから、もしこのアルバムのタイトルを『ザ・ダークネス 4』にしていたら、「俺たちはまだここにいるぞ」ってことがタイトルのメッセージになっていたね。

——「生き残り」という意味では、このタイトルにも通じるところがあるように思えます。

そうかもしれないね。大抵バンドの最初の3枚のアルバムでは自分たちの(アイデンティティを)確立している段階で、俺たちの場合はその一枚目がたまたま大きなヒットになったけど、今のザ・ダークネスのサウンドはその頃とは違っている。今もごくたまにファースト・アルバムを聴くことがあるけど、あまり楽しめないんだ。ところどころにはエキサイティングな部分もあるし、幾つかの曲は良い曲だけど、今の「孵化後」のダークネスの方がずっと好きだね、曲も、アプローチも、パフォーマンスの面でも、今の方向性の方が遥かに納得がいっているよ。

——本作でザ・ダークネス・ヴァージン(ダークネス初心者)を捨てる読者に向けて、新作の一番のお気に入りの楽曲や、本作の聴きどころについて教えてください!

1番気に入っているのは “Roaring Waters”かな。ヴァースがエアロスミスのグルーヴィーなリフっぽくて気に入ってるんだ。そしてヴァースが終わると毛色が変わって、レッド・ツェッペリンみたいな感じになる。そしてコーラスはホワイト・スネイクかな。それに長くて、野心的で、沢山のハーモニーがあって、他のどの曲よりも出来にとても満足しているし聴いていて楽しめるよ。アルバム全体で言うと最初の聴きどころは“Barbarian”だよ、壮大なパワー・リフで始まって、アルバムのトーンを決定づけていて、その後の“Conquerors”ではフランキーがボーカルを担当しているんだ……聴きどころだらけで、アルバム全体がひとつの大きな聴きどころみたいなものさ! 唯一聴きどころじゃないのは曲間の無音部分だけだね。でもそれらのおかげで一息ついて、襟元を緩めて次の曲へ準備することができるんだ。今年の、そして多分去年と来年も含めて、最高のアルバムだと言えるね!

“孵化して空に飛び立つ所”をThe Darknessに直撃! music150427_the-darkness_jk

『ラスト・オブ・アワ・カインド』 ジャケット

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