オルタナティヴR&Bをグラミー賞にノミネートされるほど高い作品性とポピュラリティーを兼ね備えたものに昇華した、ジ・インターネット(The Internet)

日本でも広く知られるきっかけになった『エゴ・デス』から約3年ぶりのアルバム『ハイヴ・マインド』が今年7月にリリースされた。多数のゲストを迎えた前作に比べ、バンドの親密なムードが味わえる、現代的なメロウネスを湛えた本作。

『ハイヴ・マインド』からの2ndシングルである“ラ・ディ・ダ”は、これまでのジ・インターネットらしいメロウネスに加え、ラテンのリズムを大胆に導入したことでも新鮮な驚きを与え、今ではライブの定番曲に。ゲスト・アーティストには、ホーンセクションを担当したLA新世代ネオ・ソウルバンド<ムーンチャイルド>が参加しているのも聴きどころ。

同曲のミュージックビデオではメンバーのオフショット映像も盛り込まれ、ロードムービー・タッチの仕上がりが魅力で、サプライズゲストに親交の深い水原希子が登場しているのもおなじみだ。

今回はこの “ラ・ディ・ダ”をWONKの演奏でカバーし、ゲストボーカルにMALIYAを召喚するという、興味深いコラボレーションが実現。実は以前の来日公演にも訪れ、楽屋で記念ショットを撮るなど、メンバーとの交流もあったWONK。いつかコラボしたいという、お互いの思いがあった中、今回のカバー企画が持ち上がったのだという。

世代的にもジャンル的にも親和性を感じさせる彼らにとって、ジ・インターネットの存在はどんな影響があるのだろうか。ボーカル・レコーディング直後の長塚健斗(WONK)とMALIYAに、話を聞いた。

Interview:長塚健斗(WONK)&MALIYA

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——“ラ・ディ・ダ”のカバーもそうなんですが、お二人がジ・インターネットの音楽性やバンドとしての存在をどう捉えていらっしゃるのかやWONKとMALIYAさんの関わりなどをお伺いできればと思います。ちなみに最初の接点はどういうところだったんですか?

MALIYA WONKのベースの井上幹くんは小学校の同級生で(笑)。それを全然知らずに普通にあるイベントで一緒になって、お互い薄々気づいていました。「あれ? 同級生だったよな」みたいな感じで……そこからだよね?

The Internet – La Di Da (Official Video)

長塚健斗(以下、長塚) 恋人との出会いみたい(笑)。「どっちから告られたか」みたいになっている。

——(笑)。それはライブの時ですか?

長塚 ライブの時です。CDを出す前ですね。

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——ボーカリスト対談なのでお互いにどんな印象を持っていらっしゃるか、本人を目の前にしてなんですけど(笑)。

MALIYA (長塚)健斗は同い年なんですけど、オールマイティにできるなっていう人。英語もペラペラだし。さっきもレコーディングするのは初めてだったんですけど、全部自分で仕切ってくれたんで、そういう印象ですね。

長塚 全然できないんだけど(笑)。僕から見たMALIYAちゃんは、「歌うめえな」っていう、まずその印象で。自分の声をちゃんと分かっているじゃないですけど、得意不得意だったりとか、そういうところも含めて表現の仕方が、「分かっている」というか。そういうシンガーって、いるようであんまりいないからレベル高いなと思いますけどね。

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——長塚さんにとって「分かっていて、かつ上手い」シンガーとはどんな定義ですか?

長塚 めちゃくちゃうまい黒人のシンガーとか、いわゆる「この人、めっちゃ歌上手いな」っていう感覚的な問題ですけど、自分の声を信じているっていうか。個っていうものがちゃんとあって、それが表現に出てくる人が上手い人だと思っていて。今日初めてレコーディングしたんですけど、MALIYAちゃんの歌はそういうところでキャパあるなっていう印象です。

——長塚さんから見るとMALIYAさんは自分のことを客観視できていると?

長塚 そうですね。自分の声をよく分かっているし、弱いところも強いところも含めて、表現が上手だなと。

——そんなMALIYAさんのソロ1stアルバムのタイトルが『ego』だって言うのも面白いですね。

MALIYA 自分、エゴが強いな(笑)

MALIYA 1st Full Album “ego”(Teaser)

——エゴが強い弱いと言うより、エゴそのもの?

MALIYA そうですね。自分そのもの。

——ジ・インターネットの前作は『エゴ・デス』だったというのはなんだかシンクロしますね。

MALIYA シンクロする。

長塚 間違いなく。

——お二人はジ・インターネットをいつ頃から聴いていますか?

長塚 僕は『エゴ・デス』で好きになった感じはあって。それからかな、その前の作品も聴き始めたのは。それで、一気にファンになったので。

——もう3年前の作品だと言うのも驚きです。

長塚 3年前なんですか? こわ! 去年ぐらいだと思ってたわ。

MALIYA すごい。最先端をいつも行ってるよね。

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——『エゴ・デス』のインパクトってなんだったんでしょう。

長塚 なんか「あ、これバンドなんだ」とは思ったけどね?

MALIYA 確かに。私も思った。

長塚 来日公演も遊びに行って見たんですけど、「あ、バンドだわ」って言うのはありましたね。シンガー一人のワンマンとか見に行くと、サポートのメンバーがいるじゃないですか。そういう人たちが作る音とバンドメンバーで普段からライブでやっているパフォーマンスって、ちょっと違うと思っていて。バンドならではの良いとこ悪いとこはたくさんあると思うんですけど、それがライブですごく出ていたんで、そういうのが面白かったですね。

——悪いところって?

長塚 「こんな雑なパートあっていいんだ」と思って。多分、個々のプレイヤーが普段スタジオミュージシャンで、サポートとして組んだバンドとかだったら、仕事感がすごい出ると思うんですよね。そうではなくてバンドのライブだともっとラフというか。僕らがWONKでいつも結構ラフにやっているところもあるんで、そういうところは近しいところがあるなって感じたんですよね。

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——MALIYAさんはいつ頃から?

MALIYA “ドンチャ”が出た時に初めて聴いて「え、めちゃくちゃかっこいい」ってなって調べましたね。私も最初はサウンド的にバンドじゃないと思ったんです。打ち込み系の女のシンガーが歌ってると思って、調べたらビジュアルもいけてるし、それからハマってっていう感じですね。

The Internet – Dontcha

——なるほど。『エゴ・デス』のジャケ写って、すごく新しくなかったですか?

MALIYA 新しいし、ちょっと笑うとこもあって、「仲よさそうだな!」って。ほんとに仲がいい仲間が集まって、「ちょっと音出してみない?」って感じで作ったんだろうなって雰囲気が音からもジャケットからもするしっていうので好きですね。

長塚 シド(・ザ・キッド)がまず女性なんだ? って写真だけ見た時に驚いて。あと、ジ・インターネットって名前、ずる! と思った(笑)。

——確かに(笑)。フェイバリットナンバーはありますか?

長塚 僕は“ギャビー”って曲あるじゃないですか? あの曲をなんかふとしたタイミングでかけますね、夜とか。

MALIYA 私はさっき言った“ドンチャ”が結構好きかな。“ガール”も好きだったけど、“ドンチャ”の衝撃で、「わー、こういうの作りたい」と思ったの覚えています。

The Internet – Girl (Official Video) ft. KAYTRANADA

——ご自身の音楽とかボーカルに影響はありましたか?

長塚 影響ないって言ったら嘘になるし、めっちゃあります。最近のウィスパー系のボーカリストって結構いますけど、その中でもシドってちょっと異質だなと思っていて。もちろんキャラクターも含めてイメージがあるからだと思うんですけど、ライブ見ていてもブレないんですよね。そこがすごいというか、ただ細かい表現が上手いだけじゃなくて、ウィスパーでもパワフルだなっていう印象がすごいあるんですよね。だから逆にああいう表現の仕方ってどうなんだろうな? って考えさせられた存在ではあるんで。そういう意味で色々影響は受けていますね。

——確かに内面的な表現なのに強い印象ですね。

長塚 うん、そうそう。

MALIYA 私はどっちかといえばトラックがめちゃくちゃかっこいいし、でもちゃんとキャッチーなのがいいなというか、私もそういうのを作りたいなというか。声質的にも全然違うんですけど黒人のパワフルな声っていうよりかは、私もどっちかというとちょっと細い声なんで、近いような感じがして。こういう風にトラックとシドの声のギャップがあるのも面白いし、こういうのありなんだなと。逆にボーカルが強かったら、今の時代にはもしかしたら合わないかもしれない。普段の日常に添えないというか。でも、シドは声が聴きやすいから。そういうのとか、音作りとか曲作りで影響は絶対にされていると思います。

長塚 ライブだとちゃんと声を張るところはちゃんと張るんですよね。しかもちゃんと上手い、それがすごいなと。

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——このバンドはメンバーがそれぞれすごいじゃないですか。シドもソロやっているし、スティーヴ・レイシー(Steve Lacy)も若いのにいろんな引き出し持っていて。

長塚 末恐ろしいですね。でも年齢が近いというか、世代的にも近しいというのもあって、僕らは勝手に親近感を抱いたりとか、だからそういうのも含めて好きだし、意識しているバンドなんですよね。

——そもそもの背景が日本人とアメリカ人では違うとしても、聴いてきた音楽とかなんとなく近しいんじゃないか? と思うところとかありますか?

長塚 多分、この世代で音楽をやっていて、ちょっと目立っている人って、だいたい聴いている音楽同じなんじゃないかな? と思うですよね。それこそ、これいろんなところで話すんですけど、多分みんな(ロバート・)グラスパー(Robert Glasper)聴いているんですよ。グラスパーも聴くし、ハイエイタス・カイヨーテ(Hiatus Kaiyote)も聴くし、バッド・バッド・ノット・グッド(BADBADNOTGOOD)とかも聴くんですよね。で、最近の打ち込みとエレクトロとかサブスクでカテゴライズされるような音楽って、みんなフォローしていると思うし、ジャズも掘っていると思うんですよ。そういう意味で聴いている守備範囲みたいなものはみんな幅広いから、近しくなって当然じゃないかなと僕は思うんですよね。

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——今の20代のアメリカのブラック(ミュージック)の人たちはインディーミュージックを通っている感じがするし。

長塚 まさにです。

——そして新作の『ハイヴ・マインド』は、また『エゴ・デス』とは雰囲気が変わって。どんな印象を受けましたか?

MALIYA どんどん新しいことっていうか、置いていきまではしないんですけど、新作とかMVとか上がるたびに「また新しいことしている」と思う。新しい音とか、そういう印象でしたね。だから今回カバーした“ラ・ディ・ダ”も、「あ、こういう感じなんだ?」みたいな。想像してなかったような感じの方向から来るというか。だからいつも面白いなと思うし、ずっと追いたくなるっていうのはありますね。なんか追わないとどんどん遅れちゃうみたいな感じはあります。

——“ラ・ディ・ダ”は何が意外でした?

長塚 なんかこんなにワーワーする曲もあるんだなというか、コーラスも重なっていて。今回やっていても、原曲は声の厚みがすげえなと思ったし。

MALIYA セリフあるしね(笑)。

——この曲だったからお二人で歌うことになったのかしら? と思ったり。

長塚 そうなんでしょうね。まぁ難かったね?

MALIYA 難しかった!

——WONKのバージョンはどう組み立てようと?

長塚 でもカバーであって、リミックスじゃないんで、そんなに大きくガラッと変えるとかではないはずだったんで、多分変わるとしたら、セリフの部分のコード進行変えたりとか、コーラスの重ね方を違うライン録ってみるとか。あとは歌い手が違うからもちろん響きも違いますし。原曲を崩しちゃいけないからって意味で逆に難しかったです。リミックスだったら好きにやっていいじゃないですか?

——他のボーカリストが入ったカバーはWONKでは初めてですか?

長塚 というかカバー自体が初。ライブではやるけど。音源は初ですね。

——どこまで曲としてそのニュアンスを残すのか? とかあったと思うのですが。

長塚 アプローチが難しかったですね。なんか俺はサビしかほぼ歌ってないけど(笑)。

——原曲もほぼ意味らしきことは歌ってないように思えますが(笑)。

長塚 「なんて歌ってるんですか?」ってとこから始まったもんね?

MALIYA うん。「どんな歌?」から始まって。でも深読みしすぎずに、楽しい歌というか(笑)。深読みしすぎないほうがいいのかな? っていうのもありますね。

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——MALIYAさんは特段意味が明確じゃない歌詞の時はどういうふうにアプローチするのですか?

MALIYA 完全に音に寄るので、聴いていて気持ちいい、シドのパートがほぼラップっぽい感じだったんで、歌っていうよりかは、そういうアプローチで気持ちよく乗れるところに重点を置く感じですかね、今回は。それがすごく難しかったし、楽しかったですけど。

——発語の楽しさも含めて仕上がりを楽しみにしています。

長塚 楽しみにしていてください(笑)。

MALIYA 今の段階なんで、まだ完全な仕上がりは分からないですけど、原曲ほどワーワーしてない、ダウナーというかちょっと大人っぽい感じかなと想像しています。

——先ほどの話に関連して、だんだんどの国も今の同世代の音楽は接近してくるんじゃないかというお話ですけど、これからのR&B、ヒップホップ、ジャズがハイブリッドしている音楽は進化していきそうですか?

長塚 この流れっていやまだまだ始まったばかりじゃないですか。ちょっと前ですけど、イスラエルのバンドが来た時にそっちの方のテイストが入っているからすごく新鮮だったし、それこそもっとアフリカンの音楽も出て来ていいと思います。まだまだ無限に音は出て来るんだろうし、新しい音色とかも増えるでしょうし。同じ構成でも音色違ったら全然違いますし、そういう意味で新しいバンドも出てくると思いますけどね。

——そういう潮流の中でジ・インターネットってどういう存在なんでしょうか?

MALIYA 今の時代が全体的にそういう流れになっているけど、ジャンルは関係なくクロスオーバーしていて、ジャンルの壁はどんどんなくなっていくと思うんですけど、ジ・インターネットもその一つかな。R&Bでもあるし、ちょっとヒップホップもあるし、ちょっとジャズ要素もあるみたいなクロスオーバーしているバンドなのかなという印象はありますね。しかもそれがバンドというところも面白いですし。

長塚 多分いろんな音がミックスしている音楽やっていますみたいな、ジャンルがごちゃ混ぜですってバンド、今、結構いると思うんですけど、ジ・インターネットの音ってジ・インターネットの音じゃん?

MALIYA うん。

長塚 聴いたら分かるじゃない? 「この感じね」って。シドの声聴いたらもちろん分かるし、ベースの音色とかすごく独特なところあるから、そういう意味で、「これってジ・インターネットっぽいよね」って言われる音をずっと作っているバンドだと思うから、そういう意味で周りのバンドよりも一歩先に行っている存在かなと。

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——インテリジェンスとポジティブさとストリートがちゃんと出会ったというか。

長塚 まさに、そうだと思います。

——最後にもしジ・インターネットと何かできるとしたらしたいことはありますか?

長塚 一緒に曲作りたいです。曲作りたいし、ライブしたいし、ツアーしたいっす(笑)。もう、やりたいことしかないっす。飲みたいし(笑)。

——東京案内とか?

長塚 ああ、したいっす。めちゃくちゃ旨いラーメン屋とか。

MALIYA ああ、いい(笑)。

——全部吸収してくれそう。咀嚼力のありそうな人たちなので。

長塚 咀嚼力のありそうな人たちってすごいわかります(笑)。アニメの話してぇ〜。サンダーキャット(Thundercat)は『ドラゴンボール』マニアだけど、ジ・インターネットのメンバーにも絶対いますよ。ジャパニーズアニメ好きそう。話したい!

——(笑)。“ラ・ディ・ダ”の仕上がりとともに、何か実現してくれることを期待しています。ありがとうございました。

取材の時点で曲は完成していなかったのだが、完成した音源をジ・インターネットに送ったところ絶賛。世界の視線も集めるWONK+MALIYAのカバーと、海を超えたコラボの続きに期待せずにいられない。

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WONK&シド・ザ・キッド

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Photo by Kohichi Ogasahara

WONK × MALIYA 『La Di Da (The Internet Cover)』ティーザー映像

RELEASE INFORMATION

『ラ・ディ・ダ』

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WONK feat.MALIYA
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