みっつめ:スポーツプロデューサー 世界ゆるスポーツ協会代表 澤田智洋
スポーツ弱者も強者も関係なくなる。”ゆるい“という言葉から生まれたスポーツで世界を変える。
世界ゆるスポーツ協会の目的は、スポーツ弱者を世界からなくすこと。
僕を「ゆるスポーツの澤田」として知っている人が多いかもしれないです。僕自身が運動音痴だったこともあって、スポーツ弱者を世界からなくしたいと思った。そのために協会を2015年に立ち上げて、日々新しいスポーツを発明しています。今は70種目ぐらいできていて、活動は多岐に渡ります。日本コカ・コーラや百貨店協会、吉本興業、港区など企業や行政、自治体と組んで新しいスポーツを作ったり、イベントにしたり、売ったり。「スポーツ弱者」とは、運動したくてもできない人たちのこと。運動音痴もそうだし、ご高齢者の方、障害のある方、妊婦さんなど様々。こういう人たちに向けたスポーツを作りたいと思ってはじめました。なのでゆるスポーツの現場は一流アスリートの方もいますが、今まで本当にスポーツをやっていなかった人たちが、プレーヤーとして汗をかくという、新しい光景が広がっていますね。
“ゆるい”から生まれるスポーツ、その言葉の印象を裏切るくらいにこだわり抜く
ポイントなのは“ゆるい”という言葉。“YURU”は日本特有の言葉で英語に直訳できない。それが僕は好きで、日本人としてもっと活かした方がいいなって感じるんです。“ゆるい”って一般的には“ゆるキャラ”のイメージが強い。それってイコール、ちょいダサとか、一見チープなイメージを持ちがちですが、僕は全然違うと思っていて。この言葉は、“リベラル”で”オープン”で”ウェルカム”で “ポップ”で”インクルーシブ“で、って多様な意味合いが含まれていると高尚な解釈をしてるんです。世界にも類を見ない、価値の高い言葉。なので、“ゆるスポーツ”は、アウトプットにはめちゃくちゃこだわる。「あれ?なんかこれカワいくない?」「おもしろそうじゃん!」という強い印象がつくことで、スポーツに腰が重かった人たちがはじめて腰を上げる。何かをゆるくするには、高度な戦略とクリエーティビティが必要なんです。実は。
【公式】エレクトリック温泉PV
【OFFICIAL】BABY BASKETBALL「オールプレイ」
AGC、世界ゆるスポーツ協会と新スポーツ「○×スペース™」を開発
アスリートもそうじゃない人もみんな同じくらい下手になる。「ハンドソープボール」を開発
ゆるスポーツのひとつに「ハンドソープボール」という競技があります。手にスポーツ用ハンドソープをつけてハンドボールをするのが特徴。試合前に「スターティング・ソープ」をつけて、試合中にボールを落としたら「アディッショナル・ソープ」を追加しなきゃいけない。ボールを落とせば落とすほど、どんどん手がヌルヌルになっていきます。これはハンドボールが基になっていて、元ハンドボール日本代表キャプテンの東俊介さんが、ハンドボールをもっと普及させたいけどどうすべきかという課題を持っていました。ならば、誰でもプレイできる新しいハンドボールを作って、それをきっかけにハンドボールが広がれば良いのではとご提案したんです。実際に東さんにも参加してもらっていますがが、元日本代表アスリートだって関係ない、手はヌルヌルです。みんな同じくらい下手になるんです。むしろハンドボールに慣れている人がいつもの感覚でやろうとすると、滑っちゃう。「ハンドソープボール」においては、そのプロ視点が余計な力になってしまうんですね。体験会の前半はほぼハンドボール講習なんです。どう投げるかとか基本的なルールを学んだり。後半ではじめてハンドソープが出てくる。結果として参加者のみなさんは「ハンドボール面白かったね」といった言葉が自然とでてくるようになるんです。そういうアプローチで、いろんな競技団体とゆるスポーツを開発してますね。
【OFFICIAL】ハンドソープボールPV
ゆるミュージック始動、楽器「タイプシンガー」を開発中
世界ゆるスポーツ協会では、ゆるいスポーツをいっぱい発明することによってスポーツプレイヤーを増やすことをしていて。それを今度は音楽にも応用できないかなと思っているんです。ある統計によると本当にミュージシャンになれる人は少数だけれど「音楽をやりたい」と思っている人は、6-70%くらいいると。想いと現実に大きなギャップがあって、僕はそれを埋めたい。それで今仕込んでいるのが「世界ゆるミュージック協会」です。
すでに音楽レーベルや楽器メーカーもこの企画に賛同してくれていて、動き出せそうなのです。「世界ゆるミュージック協会」では、ゆるい楽器を増やすことによってミュージシャンを増やす。明確には新しい楽器作りをやっていくということです。例えばいま「タイプシンガー」という楽器を開発中でして。みんなパソコンのタイピングって毎日めっちゃやってますよね。ブラインドタッチもできて、とんでもなく早い人もいますよね?それで僕気づいたんです。「タイピングの指の動きって、ピアニアストの指の動きと似てる」。だったら、キーボードを楽器に置き換えたらいいじゃんって。そう思ってからはもう、タイピングしている人たちをビジネスマンとして見れないですよ。「今日も熱心に楽器練習しているな」と思っちゃってます。つまり、ビジネスマンやブロガーのみなさんもうミュージシャンとして仕上がってるんですよ。あとはキーボードを楽器に仕立てるだけですね。世界ゆるスポーツ協会は、日本独自の技術を、埋もれてる技術を、スポーツに生まれ変わらせること。こういうアプローチでいくつも開発しています。それと同じことをゆるミュージックでもやりたい。日本の技術を使ってどんどんゆるい楽器を作るとミュージシャンが増えて音楽産業が盛んになる。ミュージシャンが増えると課題曲が必要になる、それで既存のミュージシャンの曲こそ活きてくると思うんですよね。
「ゆるカル」を作ることで、人の人生を少しだけ変えられる
ゆるミュージックは音楽業界に、ビジネス的にも貢献できると思っています。やっぱりトップミュージシャンはトップミュージシャンであって、ゆるミュージシャンとはフィールドが違う。ゆるスポーツも同様で、既存のスポーツでいうと「アスリート周り=トップスポーツ産業」ですよね。より速く、高く、強く、上へ上へ、昨日より前へ、といったような。そのアスリートを山で例えると、山頂をどんどん上に伸ばしていく。だけど、それだけだと細長い山になる。山の土台が不安定になってしまいますね。
だからその裾野を広げて支えることが大事なんです。しかもゆるく。ゆるスポーツの大事なポイントはスポーツ産業に“ポップ”軸を入れることだと思っていて。僕はゆるスポーツをトップスポーツとは違う「ポップスポーツ」と解釈して、ポップアスリートを作っている。彼らは「昨日より速く!強く!」ではなく、ゆるスポーツをプレイしているときに「より面白く」「よりとっつきやすく」なる。カラフルでクリエイティブになる。そういう人たちの層を山の下に広げること、スポーツ産業という山において裾野を広げる発想です。つまり「ゆるミュージック」で作られるミュージシャンも、既存ミュージシャンと競合関係じゃなくて、超強力補完関係になるんですよ。
僕は人が幸せそうにしている姿が好きで、悲しんでたり困っている人を見ると、なんかしたくなっちゃうんですよ。これは上から目線とかでもなんでもなくて、衝動的に。「ゆるスポーツ」や「ゆるミュージック」みたいな「ゆるカル(ゆるカルチャー)」をもっと作っていきたい。すると、スポーツを見たり音楽を聴くだけじゃなく、スポーツプレイヤーやミュージシャンという主役になれる。自分で新しいスポーツや新しい楽器を発案することで、さらに主役になれる。こういう連鎖のなかでみんなが楽しそうに人生をよりよくしていく姿をみることが、すごく満たされる。そのために「ゆる産業」をもっと発展させていきたいですね。本気です。
よっつめ:福祉クリエイター 澤田智洋
切断ヴィーナスショーやTecho School。常識を覆すポップでクリエーティブな福祉活動。
福祉の世界に見出す価値、クリエイトすること
僕は、綺麗ごとではなくて、人ってそれぞれすごくいいなと思ってるんです。面白くない人なんて一人もいない、価値がない人はマジでいないと。それは価値を見つけ出せていない周りが悪いんじゃないのって思うのです。社会のなかで目立たないとか、見出されていない人たちってけっこういるんですよね。例えば障害のある方々。彼らにはそれぞれの価値がすごくあると思っていて、でもそこに取り組む人がまだまだ少ないんです。僕自身は2013年からそこに着目して活動をしはじめたんですが、これは「道に置かれっぱなしの神輿」だなと思ったんです。神輿って、人が担ぐことにより価値が生まれる。でも神輿が道端に雑に置いてあったら不要なものだと思ってしまうかもしれない。福祉業界にはそういう神輿が沢山あったんです。だから僕は「よし担ごう!」と思って。それで彼らの価値を見出すことをクリエイトすれば良いなって。神輿は不思議なもので、はじめは僕と数人で担ぎ始めると、共通の価値が膨らんでいって、担ぎ手が増えていくんです。
一方向からみた違和感は美しい価値へと変わる。「切断ヴィーナスショー」をプロデュース
2015年から義足女性のファッションショー「切断ヴィーナスショー」をはじめました。これまで都心部や京都などで述べ9回やらせてもらいました。その中で ASOBISYSTEMが主催している「もしもしにっぽん」というイベント内ででんば組.incのパフォーマンスがある同じ日にショーをやらせてもらったりしました。義足ってファッションアイテムとして魅力的だと感じて、だからそこに振り切ってみたらいいんじゃないかと。ショーの中では、服自体を凄くシンプルにすることもあります。義足と彼女たちの存在感が一番引き立つようにしたかったのです。プロのモデルでもないし当然ウォーキングの訓練をしているわけでもないのですが、でも彼女たちはステージの上でめちゃくちゃキラキラしてるんです。実際に切断ヴィーナスショーが始まると、必ずといっていいほど周囲の人たちは釘つけになります。それは「ボルトが速く走ることで人類の可能性が更新される」に近いような、彼女たちから人間の強さやまぶしさを感じるからなんだと思います。
「切断ヴィーナスショー」2016.7.30
様々なアプローチでクリエイトする。あそどっぐの「寝た集」や忍者型ロボット「NIN-NIN」
他にもいくつかあるのですが、熊本で活動している脊髄性筋萎縮症の寝たきり芸人「あそどっぐ」という人がいます。彼のネタは、はじめてみた人は「笑っていいのかな」と戸惑うかもしれないです。でも、めっちゃ面白いんです。そんな中、カメラマンの越智貴雄さんという方から「あそどっぐの写真集を作りたい」と声がかかったこともあって2017年の8月に発売しました。写真集の題名は『寝た集』にしました。写真集の構成として彼の言葉がちゃんと立つようにしたかった。あそどっぐにお願いしたのは一言ネタ、千本ノック。ネタを毎週のように出してもらい、それをこちらで取捨選択し、越智さんの写真と当てはめて作っていきました。全身動かない、毎日寝ている彼だからこそ、あそどっぐにしか生み出せないネタが詰まっています。本当にこんなお笑いは見たことないって思いますよ。他にも最近は、身体の機能をそれぞれ必要な他人同士でシェアをする忍者型ロボット「NIN-NIN」の開発などもやっています。福祉クリエイター活動で僕は、0→1を行うケースもあれば、あそどっくのように1→10、10→100を担当することもあります。自分にできることは、なんでもやりたいんです。
未来の働き方を手帳先生から学ぶ、「Techo School」を開校
3月3日には「Techo School(手帳スクール)」を開校しました。今ってみんな次の働き方をすごく模索しますよね。そんな中でいろんなバズワードが飛び交ってるけど、どうしたら良いか分からない。昭和平成型の働き方でいうと「あの先輩みたいにキャリア積む」というのが正解だったけれど今はこれという正解がないからすごく大変。経営者だけじゃなくて、みんが自分起点で働き方を作っていかなきゃいけない、AIとの棲み分けも含めて。この難しい課題を攻略しているフロントランナー、先輩たちが実は日本に山ほどいるんです。その先輩たちは共通したものを持っていて、それが手帳。「障害者手帳」です。日本で障害者手帳を持っている人は850万人程いると言われているのですが、その中で新しい働き方を実践している人たちがいるんです。全盲の弁護士、耳が聴こえない映画監督、車椅子のヒッチハイカー。そんなとんでもない人たちを集めて教壇に立ってもらう、そして健常者と呼ばれてる人たちに働き方を教えるという形のイベントをやりたいと思ったんです。それで「手帳スクール」をやりました。障害者手帳を持ったイノベーターに学ぶ働き方。手帳先生に「こんな働き方あるんだ!」という事実を教わる。彼らの働き方は、未来の働き方なんですよね。企業に合わせるのではなくて、社会と自分をマッチさせるというか。僕もこんな風にやってみようって思える、価値観を逆転させられる機会になったと思っています。
いつつめ:漫画家 澤田智洋
コピーライター、音楽家、スポーツプロデュース、福祉クリエイターのかたわらで実は漫画を連載。
ひたすらコツコツ続けてみる漫画
小さいときから漫画を描くのが好きだったんです。それで実際に描いてみようと思ってはじめました。一時代を築いたフリーペーパー「R25」で『キメゾー』という漫画を6年ほど連載していました。“決まり文句じゃキマらねえ”がキメゾーのパンチライン。このキモキャラ、アニメ化もされました。その後も漫画でコラム描いたり、キャラクター作ったり地道にしています。
むっつめとななつめ:絶望人と希望人
極端な絶望と、極端に希望に溢れる日々。自分のなかにある光と影が自分をつくる。
ある日突然、絶望人になる
とんでもなく絶望的になる時期が年に何回かあるんです。まったく人に会いたくない期間。普段は人間がすごく好きなんですが、ある瞬間に突然、不気味に思っちゃう時があるのです。人間ってまず基本顔に毛が生えてないじゃないですか。もし全身の毛を剃られた犬を見たら「うわ!」ってなると思うんですが、それと同じ感覚になってしまう時があるんです。で、人間はなんで毛を失ったんだろうと思いを馳せることがあります。かつては全身毛で覆われているから冬もしのげていた。だけど今は冬になると「寒い」と言って毛でできた耳あてしたりするじゃないですか。「なんで毛なくしちゃったの!その進化正しいって自信もって言える?」って叫びたくなりますね。なんというか人間がカタカナのヒトに見える時期があります。そういう期間は人に会うのは最小限にとどめて、本ばっかり読んでますね。プラトンとか。1年に計2週間くらいですかね、なります。そんなときはなるべく前髪を伸ばそうとしますね。
毎日が遠足。年間350日、ポジティブな希望人
絶望はいつもなんとなくやってきます。天気みたいな自然現象です。そして、同時に希望もいきなり戻ってきます。僕は基本的にポジティブ野郎。悩みはあまりないですし、高齢や障害など、どんなことを突き出されても、全部ポジ転換する自信があります。ほぼ毎日が希望に溢れているんです。ほんとにいつも「あれもやりたいこれもやりたい、うあー!」となって寝たくないですね。そして翌朝起きた時から「今日超楽しい!」って思えます。アホみたいですが(笑)。毎日遠足みたいな。だけど1年のうちの2週間はとんでもなく絶望的。そのどちらかが混ざる日はないのです。
やっつめ:父 澤田智洋
息子のおかげで僕は一回死んだ。そこから広がった新しい世界と個人として伝えていきたいこと
障がい者を知ること、その出会いと人びとに魅了される
僕には5歳になる息子がいます。彼には視覚障害があります。産まれて3ヶ月目に異常がわかって、命に別状はないけれど障害が併発しているから手術をしなくてはいけないと。その時ばかりは、あらゆる神に彼の幸せを祈りましたね。でも息子がそうだとわかって、僕は実際に障がい者と接したことがなかったので、まずどういう人たちなのかを知るためにたくさん本を読みました。でも古い文献も多くて、ちゃんとアップデートされてなかったんです。ネット上にもあまり正確な情報がない。どうしようかなと思った時に、実際に障害のある人たちに会いに行こうと思って、企業やスポーツ団体などに足を運びました。2ヶ月間でおそらく150〜200人くらいに会ったんです。そうしたら、完全にその世界にハマってしまったんです。「面白いなこの人たち!」って。聞くエピソードすべてが新しいんです。例えば視覚障害の人で「澤田さん、聞いてくださいよ。ペリエを家のテラスで飲もうとしたら超すっぱくて。そうしたら奥さんになんでポン酢飲んでるのって言われたんです」とか。パリジャンを気取りたかったのにポン酢飲んでしまったと。他にも、義足の友人が自転車に乗ってて、車と衝突しそうになって転倒。怪我は無かったけれど、義足が取れちゃって、それをみた相手の運転手さんから「ギャー!足取れた!」って驚かれたとか。とにかく聞いたことない話ばかりを明るく、楽しく話をするんです。息子のために調べてたら、だんだん障害のある人たちと一緒にいるのが楽しくなってきちゃったのです。
人が大きく変わるとき、未来をつくる力がはたらく
愉快な話を聞きながら、同時に彼らの悩みも耳にするようになりました。僕は広告の仕事をやってきた経験で、みなさんにアドバイスをしているうちに、障害のある方の多くが日常的にスポーツができてないことがわかった。そこからゆるスポーツという発想につながったりもしています。息子に障害があると分かったとき、これまでの自分はそこで一回死んで、再び新しい人生を僕自身もらったと思ってます。息子はまだ5歳だけれど、心の底から人生の師匠、命の恩人だと思っています。マイノリティーという言葉はありますが、メジャーはマイナーからしか生まれないんです。マイナーは伸びしろしかない。そこがすごく魅力的ですね。あと「障がい者」って言葉は、「多様者」と置き換えてもいいんじゃないかと思ってます。
いま僕には複数の顔があります。これからもきっと止まることはなく、どんどん次のなにかを作っていきたい。いっぱい希望を持ちながら、たまに絶望しながら。
interview by Asami Shishido