『リフレクター』から4年。アーケイド・ファイアが最新作『エヴリシング・ナウ』で示す本物の「バンド」の在り方 music_arcadefire_5

『エヴリシング・ナウ』は、前作『リフレクター』で飛躍的に進歩した音楽的インスピレーションをさらに拡張し、改めてアメリカと現代社会の在り方に向き合った作品と言えるだろう。プロデュースには、マーカス・ドラヴスの他に、ダフト・パンクのトーマ・バンガルテル、パルプのスティーヴ・マッキー、ポーティスヘッドのジェフ・バーロウらが参加。リチャードは彼らの貢献について、こう語っている。

「トーマに限らずスティーヴ、ジェフ・バーロウ、マーカス・ドラヴス、みんなに言えることだけど、曲ごとにバンドの新しいメンバーになって、一定の役割を果たしてくれたような気がするよ。プロデューサーという一歩引いた立場で、全体を見渡して指示を与えるというんじゃなくて。僕ら自身よりも新鮮な視点を持つ、対等のコラボレーターだね。」

結果として、これまでで最多のプロデューサーが加わったクレジットとなっているが、それらの人選はまさしく適材適所。現代的なEDMともDTMともまた違う、生音のバンド・サウンドを活かしたダンス・ビートのプロダクションを目指してトーマ・バンガルテルに協力を仰いだのは明白だし、パルプは市井の人々の悲喜こもごもの暮らしをディスコ・ビートに乗せてブリット・ポップの寵児となったバンド。つまり、「今」という時代に合わせて、少しずつ失われつつある表現の一つひとつが本作の核になっている。

「僕らはアルバムという表現形式を尊重することに100%情熱を傾けているし、『エヴリシング・ナウ』もまさにそういう問いかけを含んでいる。表現形式やアートの境界線がぼやけつつある今、いかにしてその価値を守ればいいのか――と。もちろん、たくさんの多様な音楽を簡単にアクセスできる、最近の音楽の聴き方には、すごくいい面もある。僕の世代は、そういう今のシステムに想いを馳せていると、すごく年をとったような気分になったり、逆にまだまだ若いぞっていう気分になったりする(笑)。常に変化し続けている音楽の聴き方にしても、音楽の在り方にしても、複雑でミステリアスで、考え始めるとキリがないよ。」

リチャードがそう言うように、リード・シングル“エヴリシング・ナウ”のイントロとなる冒頭曲とラストが繋がり、円環を描くコンセプチュアルな構成にも、徐々に薄れゆく「アルバム」という概念への批評性が表れている。

Arcade Fire – Everything Now (Official Video)

アバのようとも評された、バンド史上最もキャッチーなアンセム“エヴリシング・ナウ”は、《君が今まで観てきた映画がひとつ残らず君の夢の隙間を埋め尽くす》《今まで僕が聴いてきた曲がひとつ残らず一斉に鳴っている、とりとめもなく》という歌詞にストリーミング時代への風刺が込められた一曲。SNSの普及により自己承認欲求が肥大化し、結果として自殺願望を持つ若者が急増している世相に言及した“クリーチャー・コンフォート”は、セレーナ・ゴメスが製作総指揮を務めたことでも話題を集めたNetflix製作のドラマ『13の理由』にも通じるテーマを扱っている。最初はパンキッシュな演奏で歌われ、続いてカントリー調に未来的なエフェクトを振りかけたような音楽へと変奏される“インフィニット・コンテント”~“インフィニット_コンテント”の二曲は、ツアーのタイトルにもなっていることからも分かる通り、本作の中でも重要な意味を持つ楽曲である。

Arcade Fire – Creature Comfort (Official Video)

「今、すべて」にアクセスできる無限のコンテンツを手に入れた現代社会への(皮肉のきいた)祝福。それなのに、生きている実感(“サイン・オブ・ライフ”)を感じることができない現代社会への呪い。最後に繰り返される《もう元通りには戻れない/僕たちは帰るべきところにまた辿り着けるということにしておけばいい》という言葉には、絶望しかないのか、それとも希望があるのか。アーケイド・ファイアは明確な答えを用意せず、また最初へと立ち戻り、同じ問いかけを繰り返す。まさに、その迷いこそが欠点も栄光も全てひっくるめた、今を生きるという体験なのだと言っているかのようだ。

Arcade Fire – Signs of Life (Official Video)

今や音楽産業において隅に追いやられてしまった、メンバーの個性がぶつかり合い動かしていく本物の「バンド」の在り方。複数のプロデューサー、ソングライターによる分業制が当たり前となった今のポップ・シーンとは異なる、本当に意義のあるプロデューサーの人選と起用。流行りのダンス・ミュージックに目配せするのではなく、70年代から続く多様な歴史に連なる形での豊穣なエレクトロニック・ミュージック、ダンス・ビートへの挑戦。そして、音楽や歌詞のみならず、SNSやインターネット配信まで駆使して展開される、社会への鋭い視座。『エヴリシング・ナウ』は、ありとあらゆる要素を通して現代の様相を浮き彫りにした、批評性の塊のような傑作だ。デビューから15年あまり、これまでリリースした4枚のアルバムで、「世界最高のバンド」と呼ばれるほどの存在となったアーケイド・ファイアは、またしても歴史的な名盤を作り上げた。その唯一無二の才気は、いまだに衰えを見せる気配すらない。

Arcade Fire – Electric Blue (Official Video)

『リフレクター』から4年。アーケイド・ファイアが最新作『エヴリシング・ナウ』で示す本物の「バンド」の在り方 music_arcadefire_1
photo by Guy Aroch

RELEASE INFORMATION

エヴリシング・ナウ

2017.07.28(金)
アーケイド・ファイア
SICP5572
¥2,400 (+tax)
紙ジャケット/初回生産限定:透明プラスティック・スリーブ
解説・歌詞・対訳付き
[amazonjs asin=”B072M7NR2J” locale=”JP” title=”エヴリシング・ナウ”]

1 Everything_Now (continued) エヴリシング_ナウ(コンティニュード)
2 Everything Now エヴリシング・ナウ
3 Signs of Life サインズ・オブ・ライフ
4 Creature Comfort クリーチャー・コンフォート
5 Peter Pan ピーター・パン
6 Chemistry ケミストリー
7 Infinite Content インフィニット・コンテント
8 Infinite_Content インフィニット_コンテント
9 Electric Blue エレクトリック・ブルー
10 Good God Damn グッド・ゴッド・ダム
11 Put Your Money on Me プット・ユア・マネー・オン・ミー
12 We Don’t Deserve Love ウィ・ドント・ディザーヴ・ラヴ
13 Everything Now (continued) エヴリシング・ナウ
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text by 青山晃大