HIPHOPの出会いと受け継がれる「王道感」

——現時点ではあまり日本のHIPHOPは聴かないかもしれませんが、そもそものHIPHOPとの出会いは?

最初に聴いたのはZeebraさん。地元にTSUTAYAができて行ったときに、たしかライブDVDのジャケットを観ておふくろに「この人、日本人じゃないよね?」って聞いて。そのときジブさんは髪を編み込んでて、まず見た目が超カッケーって思いました。そのあとに名古屋や……横浜のウェッサイが好きになって。逆に最初は海外のHIPHOP聴いてるやつはダサイぐらいに思ってました。

——それは何歳ぐらいのときですか?

小学校4年生なので……10歳とかですね。

——ずいぶん早いHIPHOPとの出会いですね。

あと2個上の兄がいろいろ聴かせてくれました。最初に向こうのラッパーでカッコいいなって思ったのはT.I.。若くて、スタイリッシュな感じがいいなと思った。なのでアトランタとか、サウスのHIPHOPには影響を受けてます。

——そこから実際にラップを始めたのは?

中2のときに、僕の兄が太ってる先輩の友達のことを「こいつミート、ほんでもってニート。そんな感じだよ」って。そのときは「うーん……ダジャレっぽいな……」って感じだったんですけど、その兄が捕まってたんでT-Pablowと3人で、手紙でリリックのやり取りをしてました。そしてある先生が、ノートをくれたんですよ。そのノートにひたすらリリックを書いて、兄弟と手紙のやり取りで「そのライン良いね」「外出たらラップしような」とか言い合ってました。

——そのときにリリックの書き方は学んだと。

はい。そんなときにお世話になってた兄ちゃんみたいな存在の人がやるクラブのイベントがあって、その人に「向こうのギャングはラップもできんだよ」って言われて。ステージで後ろからポンって押されてやったら、ある程度できちゃったんですよ。それが15歳ぐらいです。

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——その後に<高校生RAP選手権>ですか?

そうですね、そこでパブロ(当時K-九)が優勝したんですけど、僕は一回戦で負けてしまって。その後に沖縄にジブさんのライブを観に行きました。

——それはZeebraさん直々のお誘いで?

はい。その前に会ったときにジブさんに「ライブ観に来いよ」って言ってもらってて。そのときにステージに出してもらったんですよ。

——ステージに上がるまでにそんなエピソードがあったんですね。

僕とラップの始まりの部分ですね。沖縄では4000から5000人の前でライブというかフリースタイルして。ジブさんが「こいつらヤベーからよ!」とか言ってくれました。その後1年間、“いない”期間があったんですが、地元に戻ってきたら第4回の<高校生RAP選手権>の応募があって。「これは運命だな」と思って出場したら優勝。そこからいろいろ大丈夫になった……って感じです。

——あの優勝に至るまでにそこまでのエピソードが……。ちなみにZeebraさんと最初会ったときはどんな感じだったんですか?

ジブさんの誕生日パーティーに地元の先輩が連れて行ってくれたのが最初です。写真撮ってくださいって言ったら、「いくつ? ラップやってんの?」「やってます」みたいな会話からフリースタイルして。そしたらジブさんが飛び跳ねて、なんかホント……映画みたいにマネージャーに抱きつきながら「ヤべー奴やっと出てきたぞ! いますぐ連絡先交換しろ!」って。そこからさっきの沖縄の話に繋がる感じです。

——おお……めちゃくちゃ興奮しますね。

そのときジブさんに「いま、ラッパーとしてメシ食えてる奴、何人いる? 10人言ってみ」って言われて。パッと考えて5人ぐらいしか答えられなかったんですよ。「だろ? 10人答えられないだろ? このゲームに参加させちまって悪かったな。応援してるよ」って。それ聞いてカッケェ……って思いました。

——男前ですね。生い立ちやスタイルは異なりますけど、BAD HOPの「王道感」は、どこかZeebraさんから受け継いでいるものなのかなと。

好きなんですよね、僕ら。今回のアルバムで「王道感」はすごく意識しました。トレンドなことはやってると思うし、新しいことにも挑戦はしてるんですが。

——トレンドを掴みつつも、スタンスやリリックがこんなストレートなのは最近聴かないなってぐらいに真っ向勝負ですよね。

影響受けたアーティストがみんなそうなんですよね。Zeebraさん、オジロさん、般若さん、ANARCHYさん、AK(-69)さんとか。それぞれスタイルは違うけど、みんな王道じゃないですか? なおかつ全員頂点にいる。アルバムをつくるにあたって、そういう王道感はこれからも意識していこうと思ってます。

——先ほど名前を挙げた人たちが突き抜けすぎちゃって、以降、ここまでハッキリと王道感を出すラッパー、クルーってしばらくいなかったような気がします。それも若い世代で。

それ……めっちゃ一番うれしいっすね。たしかに挑戦する人がいなくて、それに挑戦してるなって、言われて気がつきました。あの人たちみたいな立ち位置って言ったら変ですけど、あそこに行きたいなって思ってます。

——結局、王道があるからこそ亜流が生まれると思うんですけど、しばらくその王道が不在だった。それに関して言えば、BAD HOPのみなさんはバックボーンに持って生まれたラッパーとしての才能がありますよね。

やっぱり……オシャレなものもカッコいいと思うんですけど、極端に言えば僕はヤンチャなラッパーしか好きじゃないんですよ。悪いことやってるとかじゃなくて、「尖ってる」人が好きなので。

——HIPHOPに必要悪ってあると思うんですよね。

こういうこと言うと勘違いしてると思われるかもしれないですけど……ヤンチャしてたときに、若くて自分たちより悪い奴らは存在しない、ぐらいに思ってたんですよ。昔の人でヤンチャな方ってめちゃくちゃいるじゃないですか? その人たちに比べたら何でもないと思いますけど、その人たちの意志を継いだ…。

——もしかしたら最後の世代……。

若いときにドカンとか長ランでみんなリーゼントやって……そういうのって東京とかで聞いてもいなかった。それはひとつの例ですけど、そういうことを説得力持って歌えるラストのラッパーなんじゃないかっていう自負はあります。

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