量より質――ジュリアンの頭の中を具現化した
音楽レーベル〈カルト・レコーズ〉に、あなたは何を期待する?

くも悪くも、ジュリアン・カサブランカスはブレない。ザ・ストロークスのフロントマンとして2000年代最高のロック・アイコンとなったわけだが、ツアーを終えればブクブクと太るし、髪の毛に羽根飾りをつけたファッション・センスは「?」だし、オン/オフ問わず超マイ・ペース。でも、どこか憎めないし、愛さずにいられない。彼が09年に立ち上げた〈Cult Records(カルト・レコーズ)〉は、そんなジュリアンの頭の中をそのまま具現化した音楽レーベルと言えるだろう。

もともとはジュリアンのソロ・アルバム『フレイゼズ・フォア・ザ・ヤング』(09年)をリリースするために生まれた〈カルト・レコーズ〉だったが、いよいよ今年から本格始動。日本国内ではストロークスの盟友ベン・クウェラーなども擁する〈MAGNIPH〉がディストリビューションを行う。すでにアナウンスのあった通り、レーベル第2号アーティスト(第1号はもちろんジュリアン)としてNYのロック・バンド、ザ・ヴァージンズとサイン。彼らの約5年越しの2ndアルバム『ストライク・ジェントリー』をリリースすることになった。

ヴァージンズといえば、ファッション・ピープルやセレブに見初められてライヴ・デビューするやいなや、イギー・ポップ、パティ・スミス、ソニック・ユースといった錚々たるメンツの前座を経験、TVドラマ『ゴシップガール』に代表曲“Rich Girls”が起用され、<フジロック・フェスティバル>で初来日も果たすなどスターダム一直線のバンドだったが、長期間のツアーが原因で失速、開店休業状態に。今やオリジナル・メンバーはドナルド・カミング(ヴォーカル&ギター)を残すのみとなったが、彼らを再び表舞台に引っ張り出そうと働きかけたのが、同じくNY出身でバンド活動の悲喜こもごもを味わったストロークス=ジュリアンだったというのは興味深い。

「ザ・ヴァージンズの音に初めて触れた瞬間、なんて最高なバンドがNYにいたんだ! って驚いたよ。そして、彼らは絶対に後世に残るようなクラシックなロック・アルバムを作れると確信した。だから、今回自分のレーベルでアルバムを発表できて光栄だよ」(ジュリアン・カサブランカス)

ウェブサイトや一連のアートワークから漂うレトロ・フューチャー感は相変わらずだが、筆者はジュリアンの審美眼と先見の明を信頼している。何しろ「BBC SOUND OF 2013」で第1位に輝いたLAの3姉妹バンドHAIM(ハイム)のダニエル・ハイムを、3年以上も前に自身のソロ・ツアーのメンバーとして帯同させていたのだから(ダニエルは当時のジェニー・ルイスのツアー・メンバーでもあり、両バンドで来日も遂げている)。そして〈カルト・レコーズ〉は、次なる一手としてUSインディー界の裏プリンスことハー・マー・スーパースター(過去にストロークスの前座も務めた)と契約を交わし、4月に彼の5thアルバム『バイ・バイ・セヴンティーン』をリリース予定。さらに、近未来的なシンセ・サウンドを鳴らすLAの「C O L O R」というバンドのEPと、英国マンチェスターの人気グループ=エヴリシング・エヴリシングの6曲入りEP『Cough Cough』も手がけたようだ。個人的な願望としては、ネオン・ネオン(スーパー・ファーリー・アニマルズのグリフ・リースによるエレクトロ・ユニット)の来るべき2ndアルバムのアメリカ流通に関わったりすれば、もっと面白いことになると思う。ネオン・ネオンのデビュー・アルバム『ステンレス・スタイル』(08年)には、ストロークスのファブリツィオ・モレッティとハー・マーも参加していたのだ。

レーベルの声明文によると、「量より質」。ワールドワイドなヒットは望めなくても、誰かの人生を劇的に変えてしまうようなーーそんな“カルト”で素晴らしいアーティスト/バンドをこれからも紹介してくれることだろう。

(text by Kohei Ueno)

Review:The Virgins/Her Mer Superstar

ハイプと葛藤を乗り越えた、起死回生の2ndアルバム

フロントマンのドナルド・カミング以外のメンバーは総入れ替えとなり、まさに起死回生の2nd。前作のリリース当時はオサレ・セレブ御用達バンドということもあり、「いけ好かない」イメージを持っていたリスナーも多いだろうが、今作では良い具合にラフで生々しいロックを聴かせてくれる。一音一音に、枯れたヴォーカルに、言葉の隅々に、ミュージシャンとして生きることの葛藤や覚悟が滲み出ているのだ。苦労したんですね…(泣)。とはいえ、M3“Flashback, Memories, and Dreams”のようにキザでチャラかった昔のヴァージンズを思わせるナンバーも収録されているので、ファンはご安心を。アートワークに描かれた紙マッチみたいに、優しく(gently)ハートに火をつけてくれる快作。もうハイプ・バンドなんかじゃないぜ。(UK)

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Artist:The Virgins(ザ・ヴァージンズ)
Title:STrike Gently(ストライク・ジェントリー)
CULT RECORDS / MAGNIPH
XQJH-1022
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スーツもタイもいらない、体脂肪率高めの濃密R&Bワールド

ジャスティン・ティンバーレイクに対するアングラからの回答? 絶対にトム・フォードのスーツ&タイなんて似合わないSEXYハゲ=ショーン・ティルマンが帰ってきた。4年ぶり5作目となる本作は、ジム・イーノ(スプーン)が所有するオースティンのスタジオ「Public Hi-Fi」にて生バンドで録音され、ソウルフルでファンキーな歌声とグルーヴが炸裂する濃密R&Bアルバム。J.Loやケリー・オズボーンにも楽曲提供するなど優れたソング・ライターでもある彼だが、全曲ほぼ2~3分で収めたトラックはどれも激キャッチーで、モータウンやスタックスの黄金期を彷彿とさせるほどヴィンテージ・ライクな味わいもある。M2“愛のプリズナー”はストロークスのファブとの共作。ピッチフォークがどんだけ酷い点数をつけるのかも要注目だ。(UK)

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Artist:Har Mar Superstar(ハー・マー・スーパースター)
Title:Bye Bye 17(バイ・バイ・セヴンティーン)
CULT RECORDS / MAGNIPH
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