90年代に入ると、イギーのコラボ人脈はさらに拡大。アークティック・モンキーズの曲タイトルにもなった『ブリック・バイ・ブリック』(1990年)では、現在〈ブルーノート・レコード〉の社長も務めるドン・ウォズがプロデュースを買って出ており、B-52’sのケイト・ピアソンやガンズ・アンド・ローゼズのスラッシュらも合流し、かつてなくバラエティに富んだアルバムとなった。イギー&ウォズは1999年の『アヴェニュー・B』でも再タッグを組んでおり、メデスキ・マーティン・アンド・ウッドら凄腕メンバーの演奏に乗ったイギーの激シブなヴォーカルが堪能できる。この「歌もの志向」は、2012年に発表され、大半をフランス語で歌い上げたカヴァー・アルバム『Après』の布石だったと言えるかもしれない。

Iggy Pop – Candy

↑ B-52’sのケイト・ピアソンをフィーチャーした“Candy”は、高揚感あふれるポップ・ロック。ちなみにケイトは、YUKIや佐久間正英らと結成したNiNaとしての活動を憶えている読者もいるのでは?

Hollywood Affair

↑ 『アヴェニュー・B』のボーナス・トラックに収録された“Hollywood Affair”では、イギーの大ファンでもある俳優ジョニー・デップのギターをフィーチャー。映像はフランスのTV番組で共演したときのもの

止まらないラヴコールと、衰え知らずのカリスマ性

そして2000年代のイギーにとって最大のトピックスといえば、ストゥージズの復活だろう。その後もイギーの右腕的存在となるザ・トロールズの面々を従えた『ブチノメセ!(原題:Beat ‘Em Up)』(2001年)を経て、2003年にストゥージズは29年ぶりの再結成を果たす(ベーシストとして元ミニットメンのマイク・ワットが抜擢)。このタイミングでリリースされたのが、イギーのソロ名義にして事実上ストゥージズの復活作となった『スカル・リング』(2003年)だ。本作は先述のトロールズやストゥージズのメンバーに加え、グリーン・デイ、サム41、さらにピーチズらイキの良い後輩たちもフィーチャリングされ、お祭り騒ぎの様相を呈している。

Iggy Pop feat. Sum 41 – Little Know It All

オリジナル・メンバーのアシュトン兄弟が相次いで逝去するという憂き目に遭うも、ストゥージズとして2枚の新作をリリースし、ソロではミシェル・ウェルベックの小説『ある島の可能性』に触発されジャズ・ライクなサウンドを導入した『プレリミネール』(2009年)、続く『Après』とフランス文化への傾倒が著しかったイギー。しかし、数多くのラヴコールを受けて他のアーティスト/バンドの作品へ客演していたことは無視できないし、そこでは我々が求める自由でワイルドで容赦の無い「イギー像」をしっかりと体現してくれている。

2000年以降に実現したコラボをざっと振り返るだけでも、アット・ザ・ドライブイン、ピーチズ、エイジアン・ダブ・ファウンデーション、イーダ・マリア、スラッシュ、ミシェル・ルグラン、キャット・パワー、ケシャ、ニック・ケイヴ、布袋寅泰(!)、ニュー・オーダー、そしてカイリー・ミノーグ……と、錚々たるラインナップ。「自分の作品でイギーに歌ってほしい!」と願うミュージシャンがこれほど多いことにもビックリだが、この事実はイギーがカリスマ性にあふれたロック・アイコンであると同時に、優れたヴォーカリスト/表現者でもあることを如実に表わしているように思えるのだ。

次ページ:コラボ動画を一挙ご紹介!