冒頭で「フィンランドのインディ・シーンは他の北欧諸国に比べて遅れを取っている印象があった」と書いたが、フィンランドにインディ・ロックの土壌が皆無だったわけではない。ハイヴス、タフ・アライアンス、アイスエイジといったバンドには一歩劣るが、同国にもインディ・シーンを牽引するバンドは確かに存在している。その筆頭と言えるのが、過去に二度の来日も果たしているフレンチ・フィルムズだろう。

French Films – Think It Over

「フィンランドのザ・ドラムス」とも称され、軽やかでジャングリーなサーフ・ポップを鳴らす彼らフレンチ・フィルムズは、これまでに『イマジナリー・フューチャー』(2011年)と『ホワイト・オーキッド』(2013年)という2枚のアルバムをリリース。ヨーロッパやアメリカでの評価も高く、2013年にはミューズのヘルシンキ公演の前座を務めるなど、名実ともにフィンランドのインディ・シーンを代表するバンドと言っていい。

そのフレンチ・フィルムズにキーボーディストとして在籍していたサントゥ・ヴァイニオがバンドを脱退し、新たに結成したバンドがこのソニック・ヴィジョンズである。サントゥを含む5人がソニック・ヴィジョンズを始動させたのは2015年。ビッグ・ウェイヴ・ライダーズやブラック・ツイッグといった地元の気鋭アーティストが所属し、ヘルシンキのローカル・シーンの胎動を伝えるインディ・レーベルとして注目に値する〈Soliti〉と契約し、デビュー・シングル“ファインド・ア・ウェイ”をリリース。それを皮切りに、コンスタントにシングルを発表し、それらの楽曲がローカル・ラジオ局のヘヴィ・プレイとなる等、地元メディアの後押しを受けるようになっていった。

同時に、彼らは国内でもライブ活動も精力的に展開し、地元インディ・シーンの先輩バンドの前座を積極的に務めていくことになる。中でも大きいのが、サテライト・ストーリーズとの共演だろうか。彼らは、フレンチ・フィルムズ以上にフィンランドのインディ・シーンに貢献してきた地元の最重要バンド。トゥー・ドア・シネマ・クラブに通じるダンサブル&キャッチーなインディ・ロック・サウンドを鳴らし、過去にリリースした4枚のアルバムを通じてイギリス・ヨーロッパでの評価を確立している。

『ロスト・イン・ビトゥイーン』で日本デビュー!

北欧インディの現在。Communionsとも共振する新世代Sonic Visionsの音楽と背景 music_sonicvisions_2-700x589

フレンチ・フィルムズの元メンバーを擁し、サテライト・ストーリーズを筆頭とするフィンランドの先達との共演を経てきたソニック・ヴィジョンズは、フィンランド・インディの今後を担うバンド。彼らの日本デビューとなる作品が、これまでにリリースしてきたシングルを収録したミニ・アルバム『ロスト・イン・ビトゥイーン(Lost In Between)』である。

冒頭から打ち鳴らされる、クラウトロック譲りのタイトなビート。そこにシューゲイザー・ノイズとポストパンク流儀の蒼いリフが被さり、サイケデリックなロック・サウンドが立ち上がっていく。6分20秒の長尺の中で景色が七色に歪んでいく表題曲“ロスト・イン・ビトゥイーン”は、ソニック・ヴィジョンズが鳴らす音楽の特徴を端的に伝えるキラー・トラックだ。続く“イントゥ・イエスタディ”は初期のマイ・ブラッディ・ヴァレンタインを連想させるイントロから、オアシス譲りの節回しを見せるキャッチーな歌唱へと続く。

Sonic Visions – Lost In Between

Sonic Visions: Into Yesterday

彼らの音楽を要約するならば、80年代から90年代ブリティッシュ・ロックのエッセンスを吸収し、隠し味として北欧的なロマンティシズムを一さじばかり加えたサイケデリック・ロックだ。クラウトロックとニューウェイヴのダンス・ビートの間を行き来するドラム・ビート。3本のギターが時に分厚いウォール・オブ・サウンドを奏で、時に甘美なアルペジオのリフを奏でるギター・ノイズ。そこにモノクロームな佇まいも含めて、彼らと最も近いバンドと言えば、イギリスのホラーズだろう。実際、彼らはインタビューでホラーズの名作2nd『プライマリー・カラーズ』をお気に入りのレコードとして挙げている。

ただ、彼らはどうやら単なるニヒリスティックなポストパンク/シューゲイザー・バンドというだけでもなさそうだ。フェイバリット・バンドとして彼らが最も名前を口にしているのは、同じ地元フィンランド出身のハノイ・ロックス。80年代に活動し、ガンズ・アンド・ローゼズやスキッド・ロウといったバンドに影響を与えたグラム・メタル・バンドだ。ヴォーカルのサンディは、彼らのことを「世界一のロック・バンド」と呼び、賞賛を惜しまない。一聴するとシューゲイザー、ポストパンクといった冷淡なイメージが強いソニック・ヴィジョンズだが、その内側にはロックンロールに対する熱い情熱が宿っているということだろう。その熱さは、このEP収録曲中においても、“ライツ・ゴー・アウト”や“ナイト・ヘイズ”といった楽曲の躍動感のあるギター・リフに見え隠れしている。

Sonic Visions: Lights Go Out

ロックやバンド音楽が細分化し、世界中の地域における拡散の流れが続いている昨今。北欧インディだけをとっても多種多様で、今や同じカテゴリに収めることはなかなか難しい。だが、その中でもビッグな野心を持ち、インディ・マインドを保ちつつも、ポップであることや大文字のロックであることを厭わない、コミュニオンズのような若い世代のバンドが各国で新たな胎動を見せ始めている。ソニック・ヴィジョンズもその流れに追いつき、世界へと打って出ようとする気概を持った新世代なのは間違いない。このデビューEPを上梓し、今後イギリス、ヨーロッパへの本格的な進出も決定しているという彼らの未来に、ぜひとも注目しておいて欲しい。

RELEASE INFORMATION

ロスト・イン・ビトウィーン

北欧インディの現在。Communionsとも共振する新世代Sonic Visionsの音楽と背景 music_sonicvisions_1-700x700

2017.06.21
ソニック・ヴィジョンズ
RIMO-040
Rimeout Recordings
¥1,389(+tax)
[amazonjs asin=”B06Y46XY2K” locale=”JP” title=”LOST IN BETWEEN”]
詳細はこちら