アルバム・タイトル『Older』は、地球上での人生を終えて去ってゆく人に関する曲⑩のタイトルでもあります。ダヴィッド・ドナスィアンと私はアルバムのレコーディングを終えた時、全ての曲が、生と死と私たち自身を中心に展開していることに気づきました。“older”という言葉は、このアルバムを通して私たちが伝えたかったこと全てを言い表していると感じました。

――サウンド・プロダクションにおいてこだわったことは? サウンド面のインスピレーションを教えて下さい。

従来とは異なる手法で作ったため、このアルバムが帯びている色彩はこれまでと異なります。私とダヴィッド(プロデューサー兼アレンジャー兼コンポーザーであり、ヤエル・ナイムというプロジェクトにおける私の対等なパートナー)は、“メイク・ア・チャイルド”、“アイ・ウォーク・アンティル”、“トラップド”、“テイク・ミー・ダウン”を私と一緒に作曲しました。ひとりで作曲すると、色彩はより親しみやすいものになりますが、ほかの人と一緒に作曲すると新しい音楽的色彩、新しい可能性の領域が加わります。プロデューサーとしてのダヴィッドと11年間コラボしたのち、私は彼の音楽的影響にドアを開けました。彼はデンジャー・マウスやマイルス・デイヴィス、ジョン・バリー、ケンドリック・ラマーといったアーティストたちの作品を聴く人です。私も彼も聴いていて、ふたりの橋渡しをするアーティストはニーナ・シモンなんですが、彼女の音楽にはアメリカの黒人のソウル・ミュージックとヨーロッパのクラシック音楽がミックスされていて、どこまでも誠実で親密なのです。

Yael Naim – Dream In My Head

――ダヴィッド・ドナスィアンとあなたのパートナーシップはこの10年間にどのように変化しましたか?

ファースト・アルバムを制作した時、ダヴィッドは、彼と出会う前に私がひとりで密やかに書いた曲の数々を、“敬う”ことにこだわっていました。その結果彼の役割は、私の音楽的世界の中に入ってきて、私の曲をプロデュースして成長させることにあったんです。セカンド・アルバム『She was a boy』では、私たちはお互いの音楽の世界をミックスしました。プロデューサー兼ミュージシャンとしてのダヴィッドは、“ゴー・トゥ・ザ・リバー”などの作曲に関わり始め、私たちの作品にリズム面のアイデアをたくさん与えてくれるようになりました。ブラジルへ旅したことも、ダヴィッドの音楽的宇宙をもっと掘り下げたいという欲求を、私の内に植え付けました(ダヴィッドはクレオールなので)。最新作『Older』では一緒に親になって、4つの曲を初めて一緒に産み出しました。もしかしたら私たちは、自分たちの音楽の中でより成熟したのかもしれません。それぞれが音楽の中で自分を表現できるように。作業をしている時の私たちは、今もしばしば衝突します。でも以前ほどではなく、音楽的な意味でお互いへの理解を深めて、お互いの長所も短所もよく知っています。ふたりとも自分のスタジオを持っているので、必要に応じて一緒に作業をすることも、バラバラに作業をすることもできるんです。

ビートルズやケンドリック・ラマーからの影響も? ヤエル・ナイムを紐解く interview160323_yaelnaim_3

――“イマ”ではレイラ・マッカラをフィーチャーして、英語とヘブライ語とクレオール語、3つの言語で歌われています。この曲が生まれた経緯を教えて下さい。

レイラも私もちょうど同じ時期に母親になろうとしていて、そのことに関する想いをそれぞれに、自分の言語(私の場合はヘブライ語、レイラは、ダヴィッドの言葉でもあるクレオール語)と英語というふたりの共通言語で表現したんです。ひとつの曲にこれら3つの言語が同居するのは初めてのことで、私たちが好む生き方を象徴しています。つまり、カルチャーの共存と、異なる人たちが共有する敬意と絆を。共生に根差したこういう生き方から生まれる、新しい世代を象徴しているんです。ある意味、それが可能だということを証明していて、私たちはみんなで仲良く一緒に暮らす方法を探さなければならないと訴えています。

Yael Naim : Rehearsal for the song “Coward” with the Bardot Children Choir

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