ハーモニカやリコーダー、ピアニカといった学校教材用楽器から、エレクトリック・ギターやドラム、ヴァイオリン、トランペットなど100種類以上もの楽器を生産し、世界最大の総合楽器メーカーとして知られる、ヤマハ株式会社。1960年代からはエレクトーン、電子ピアノ、アナログ・シンセ等の開発製造をおこない、1983年には世界初のフル・デジタル・シンセサイザーの名機、『DX7』(ディーエックス・セブン)を発売します。それまでのアナログ・シンセサイザーでは出せなかった、ベルやエレクトリック・ピアノなどのきらびやかで金属的なサウンドは、1980年代の音楽シーンに大きなインパクトを与え、シンセサイザー・ブームを巻き起こす程の人気でした。

そして、1989年に同社はシンセサイザー一台でリズム、ベース、コードなど、すべてのパートを自動演奏できる、オール・イン・ワン・シンセサイザー『V50』(ブイ・ゴジュウ)を発売します。こちらの『V50』は、FM音源のシンセサイザー、PCM音源のリズム・マシン、8トラックのシーケンサーとデジタル・エフェクターが一台にまとまり、『DX7』では同時に一つの音色しか奏でることができなかったのが、『V50』では一台だけで楽曲を制作する事が可能になったのです。今回、その懐かしのオール・イン・ワン・シンセサイザー、ヤマハ『V50』をご紹介したいと思います。

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こちらがヤマハ『V50』です。筆者は本製品で音楽を作る面白さにはまり、打ち込みによる曲作りの基本を勉強できた、思い出深いシンセサイザーなのです。

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本製品は、FM音源のシンセサイザーと、8トラックのシーケンサー、PCM音源の迫力のあるドラム・マシンとエフェクターが内蔵され、これ一台だけで大まかな楽曲を作る事が出来ました。当時『V50』で作った曲をカセット・テープのMTRに録音し、ギターを重ね録りしてデモ・テープを作っていた思い出がよみがえります。

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内蔵されているシーケンサーはリアルタイム、ステップの両方で打ち込みが出来ました。筆者はリアルタイムで打ち込みをするのが好きだったので、『V50』から聴こえる「ピッポッポッポ」と言うカウントに合わせ、キーボードを弾いてMIDIデータを入力するのですが、最初のうちはタイミングがヨレヨレの曲しか作れず、そのうちに、クオンタイズすればMIDIデータがタイミング良く並ぶ事に気がつきましたが、元のデータがヨレすぎていたために、予想外のフレーズが出来上がってしまったり、でもそれが逆に面白かったりして、たくさん触っているうちに打ち込みで音楽を作る面白さにはまって行きました。

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その後、ビンテージ・シンセ・ブームの影響でアナログ・シンセに興味が移ったり、他社製品のシーケンサーで音楽を作るようになるなど、『V50』を使って音楽を作る事はなくなってしまいましたが、最近久しぶりに本製品を触ってみて、その硬く存在感のあるFMサウンドは、アナログ・シンセとは違うかっこよさがあり、再び愛着を感じるようになってきました。

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次に『V50』の特徴をざっとご紹介します。『V50』は4オペレーター、8アルゴリズム・タイプのFM音源が搭載され、クセのないクリアなサウンドが特徴です。シングルプレイ・モードでは1つの音色で最大16音まで出す事が可能。パフォーマンスプレイ・モードでは合計16音内で、同時に8音色を組み合わせ、打ち込みの演奏が出来ます。本体には100種類のプリセット・ボイスとプリセット・パフォーマンスが内蔵されていて、自分で作ったボイスやパフォーマンスは、それぞれ本体内に100種類まで保存する事ができます。

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そして、『V50』には8トラックのシーケンサーが内蔵されています。いくつかの楽器パートをトラックごとに打ち込めば、最大8トラックのアンサンブルを『V50』一台だけで作る事が出来ます。筆者は1曲ごとに制作する事が多く、あまり使う事のない機能でしたが、約16000音以内なら、8曲までシーケンサー上にロードしておく事ができ、続けて曲をプレイする事も出来ます。

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シーケンサーとは別に、本体には61音色のPCM音源のリズム・マシンが内蔵され、迫力のあるドラム・セット、シンセ・ドラムなどのリズム・パターンを、シーケンサーと一緒に鳴らす事が出来ます。気になる音色は、今聴くと懐かしい雰囲気が漂う「ドッタンドッタン!」という派手なサウンドです。最近はこういう音色はあまり使われていないと思いますが、80年代後期を再現した音楽を作るなら意外とマッチするかもしれません。

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そして、デジタル・リバーブ、デジタル・ディレイなど豊富なエフェクトも内蔵され、作った音色やパフォーマンス・データ、シーケンサーやリズム・マシンのデータは、別売りのメモリーカードや、3.5インチ、2DDタイプのフロッピー・ディスクに保存出来ます。ただし、シーケンサーのデータをメモリーカードにセーブする事は出来ない仕様になっています。

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当時、オール・イン・ワン・シンセの決定版と言われた『V50』は、大ヒットした『DXシリーズ』から、後に同社から発売されるミュージック・ワークステーション、『SYシリーズ』へと進化して行く中間に発売されたモデルでした。『V50』一台だけで大まかな曲作りが完結でき、デモ・テープを作るのに使い倒した思い出があります。今回久しぶりに触ってみて、デジタル感あふれる『ゴツッ』とした硬いシンセ・ベースや、きらびやかでアタック感のあるエレクトリック・ピアノなど、今でも使える音色が満載で、試しに『V50』の音をDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)に録音して曲を作ったところ、他のソフトウェア・シンセの音に埋もれない硬さと存在感のあるサウンドでした。そして内蔵されたPCMリズム・マシンの音色は、決して今っぽい音ではないのですが、派手な生ドラムや、シンセ・ドラムのタムなどは時代を感じるサウンドでとても新鮮です。DAW上にリズム・パターンを打ち込み、MIDIチャンネルを9に設定すると、MIDIケーブルを接続した『V50』のリズム音源を鳴らす事もできます。

さて、次はヤマハ『V50』に内蔵されている、なんとも懐かしいデモ・ソングをご紹介します。これを聴けば本製品がどういうサウンドなのか大体わかって頂けるかと思います。3曲続けてお楽しみください。

▼ヤマハ『V50』の懐かしいデモ・ソングはコチラ
YAMAHA V50 DEMO SONGS

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インターネットで中古品を検索すると、わりと低価格な『V50』を見つける事が出来るのですが、古い機種なのでフロッピー・ディスク・ドライブが故障しているか、バックアップ・バッテリーが切れたジャンク品扱いの物がほとんどの様です。実は筆者の『V50』もディスク・ドライブが壊れていて、セーブもロードも出来ない状態なので、今はシーケンス・データをDAW上に打ち込み、MIDIケーブルを接続した『V50』を外部音源として使用しています。ですが、もし内蔵のシーケンサーを使って楽曲を作りたい方は、リペア済みの完動品を探すのが良いでしょう。修理する技術がある方ならジャンク品を買ってリペアするのもありかと思いますが、いずれにせよ中古品を探そうとしている方は、フロッピー・ディスク・ドライブが壊れていると『V50』内蔵のシーケンサーで制作したデータをセーブできないので、その事を念頭に置いて購入する事をおすすめします。

では、もう一つ動画をご紹介します。デモ・ソングだけでなく、もっと色々な音色が聴きたいという方のために、ヤマハ『V50』の様々な音色を切り替えながら、フレーズやリズム・パターンを鳴らした動画を作りましたのでご覧ください。

▼ヤマハ『V50』の様々なサウンドや、リズムの動画はコチラ
YAMAHA V50 SEQ and RHYTHM Sound Variation

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ヤマハ『V50』の使用レポートいかがでしたでしょうか。『V50』は、DXシリーズ同様にヤマハのFM音源を採用したシンセサイザーなので、もし、FMのシンセサイザーが欲しいけど、新品が欲しいという方におすすめなのは、ヤマハから2015年に発売された『reface DX』(リフェイス・ディーエックス)という製品です。こちらの『reface DX』は、大ヒット・シンセサイザー『DX7』に代表されるFM音源が搭載され、これまでの物より音作りの幅が大きく広がり、簡単な操作で音色のエディットが可能。ミニ鍵盤を装備したコンパクト・サイズでスピーカー内蔵、電池でも駆動するのでどこでも気軽にプレイできる、新しいFMシンセサイザーです。シーケンサーもリズム・マシンも無くてよいのであれば、こちらの方が安心して使用出来るのでおすすめです。興味のある方はチェックしてみてはいかがでしょう。
一度はブームの過ぎ去ったFM音源ですが、先にも書きましたように『reface DX』の発売や、ヤマハのフラッグシップ・シンセの『MONTAGE』(モンタージュ)にも進化したFM音源であるFM-X音源が搭載されているなど、リバイバルの気配を感じます。筆者は『V50』をマスター・キーボードや外部音源として使い続けたいですし、ちゃんと修理して、内蔵のシーケンサーを使い80年代後期の雰囲気を再現した音楽を作ったら面白そうだと思いました。ヤマハ『V50』は筆者にとって打ち込みの基本を学び、たくさんの曲を作った、思い出のシンセサイザーなのです。

ヤマハ『reface DX』の製品ページはコチラ