魅惑的なワンカットMVの数々を紹介する本コーナー。第2回となる今回は、国内のアーティストによる映像作品を紹介させていただきます。

思わず魅了!ワンカットMVの世界を紐解く②サカナクション video150604_onecut_1

テクノロジーを駆使したロック・ミュージックをクリエイトするバンド、サカナクションが2010年にリリースしたシングル“アルクアラウンド”。この楽曲のMVは、メンバーが夜の街を歩き続ける姿がワンカットで撮影されています。

サカナクション – “アルクアラウンド”(MUSIC VIDEO)

ロックやポップミュージックにおけるMVの多くは、楽曲と映像をシンクロさせることに、その芸術性と快楽性の大部分が委ねられています。それが、ワンカットの映像となれば、それらをシンクロさせる技術力と難易度は一気に跳ね上がりますが、しかし、だからこそ、そこに新たな映像の求心力が生じるのです。

そして、このサカナクションのMVの凄いところは、”楽曲”と”歩行”という身体的アクション、そして、その二つに加えて、セットによって視覚化される”歌詞”という3つの要素がビデオの中で完全にシンクロし、観る者の聴覚と視覚を刺激してくるところです。

MVの中で、音楽に合わせて描かれる芝居やダンスや歌を口ずさむ唇の動きといった身体動作だけでなく、そこに”言葉”をプラスし、それら三位一体のエモーションをワンカットの映像で切り取ってみせた“アルクアラウンド”のMV。

その歌詞も一見するとバラバラにレイアウトされ形状的にも繋がりがない各オブジェが、オブジェの向きやカメラの位置を変えることで立体的に浮かび上がってくるという演出が用いられており、それらが一つの画面に収まることで、強いメッセージ性と快楽性を併せ持った映像が眼前に提示される仕組みになっています。

漢字やひらがなといった複雑な形状を有する日本語の美しさも同時に感じられるMVであり、一方で、ノートパソコンを用いた歌詞の表現などは如何にもテクノミュージック的で、バンドのイメージにも強くマッチしています。

実に日本的な情感に、テクノロジーが絶妙なバランスで組み合わさったワンカットMV。文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門、優秀賞受賞の実績は伊達ではありません。