今振り返ればジェシー・ウエアのシーンへの登場はジェイムス・ブレイクを初めとした「ダブステップ以後」のトラック/サウンドメイクをベースにしたシンガーが続々と現れ始めたタイミングと期を一にしており、事実彼女の最初のフックアップはサブトラクトとのコラボだった訳だ。しかし2012年発表のデビュー作『Devotion』は、そうした文脈で語るよりはずっと直球のR&B/ソウル・マナーを貫いたストレートな作品であり、今ではすっかり巨大なムーブメントとなった新世代のR&B隆盛の最初の大きな萌芽の一つだったという見方も出来るだろう。
ジェシーのデビュー作『Devotion』は全英初登場5位やマーキュリー賞へのノミネート(惜しくも受賞はアルト・ジェイに譲った)など大きな成功を収め、果敢にR&B総本山のアメリカ市場にも攻め入った。こうした動きに触発されたのかこの1、2年アメリカでもバンクスのような新世代の女性R&Bが台頭してきたことは知る人も多いだろう。
こうした文脈を踏まえてデビューから2年、ジェシー・ウエアがどんなセカンド・アルバムを作るのか個人的にも非常に興味深かったわけだが、10月にリリースされた最新作『Tough Love』は予想よりもぐっとポップさを増した瑞々しいアルバムになった。またジェシーにとって最大かつ最愛のアイコンであるシャーデーを想起させるソウルの下地は持ちながらも、エド・シーランを始めとしたコラボレーターやケイティ・ペリーからマルーン5までを手掛ける売れっ子プロデューサーのベニー・ブランコとツー・イン・パンチのコンビ=ベンゼルを迎えたことが大いに奏功したシンプルかつパワフルなポップ・ソングを堪能することができる。特にエド(・シーラン)との“Say You Love Me”やミゲルと共作の“You&I(Forever)”、“Champagne Kisses”ではハッキリとその成果を確かめることができるだろう。また前作ではサウンドに溶けこむように記名性が薄かったボーカルがずっと前面に出てきたことも変化として挙げられることができる。
つまりアルバム『Tough Love』はデビュー作『Devotion』と比べ「R&B/ソウル」をルーツとしながらも、ストレートにポップさを獲得したと同時にジェシー自身のキャラクターが図らずとも前面に押し出た親密度の高いアルバムと言って良いだろう。そして個人的には本作が持つポップネスには一人のアーティストを大きく飛躍させるダイナミズムを備えているように感じられ、「新世代のブリット・ポップ」なんていう大げさな言葉まで持ち出したくさえなるほどだ。
本取材は前回のメールインタビュー以来2年ぶり。ハネムーン直前の貴重なオフに自宅から電話取材を受けてくれたジェシー・ウエアにアルバム『Tough Love』での成長や彼女自身の変化、そして彼女が考える「ポップ観」について話を聞けた。
Jessie Ware – “Say You Love Me”
Interview : Jessie Ware
–––『Devotion』ツアーの後、あなたはとても疲弊してエネルギーが残っていなかったと聞きました。セカンドを作るモチベーションを取り戻したきっかけは何かありましたか?
とにかく曲を書いたっていうことだと思うわ。それが楽しいことに変わるまで。 あとはスタジオに戻って、本当に尊敬している人たちと仕事をしたことがこのアルバムを作り終えることに繋がったわ。
–––アルバム『Tough Love』を聴かせてもらいましたが、デビューからの着実な進歩が感じられる素晴らしいアルバムでした。特にボーカルがより前面に出て、シンガーとしての自信を感じました。自分では『Devotion』からの進歩をどう表現しますか?
まずは自分が何を感じているか適切に曲の中で表現できるようになったんだと思う。 あと『Tough Love』はよりポップで、その側面は(プロデューサーの)ベンゼルの助けが大きいわ。彼らはケイティ・ペリーからケシャまで色んなポップ・ソングを手掛けているから。私は全面的に「ポップな」作品を作りたかった訳では決してなかったから、スタジオでベンゼルとは喧嘩もしたし、同意しないことだってあったの。 ただ自分ではどんなサウンドをオーディエンスが聞きたがっているかも理解している自信があった。だから自分の中で方向性は明確だったのよ。だからこそ「これはやりたい」、「それはやるべきじゃない」と自信を持って提示することが出来たわけ。それがとても上手くいったということだと思うわ。
Jessie Ware – “Tough Love”