常に進化を止めないサウンドでシーンを席巻し、幾多のアーティストに多大な影響を与えてきたDC/PRG。その原点とも言うべき1stアルバム『アイアンマウンテン報告』(2001年)から2ndアルバム『構造と力』(2003年)、そして3rdアルバム『フランツ・カフカズ・アメリカ』(2007年)の初期スタジオ録音3作品をDC/PRG結成20周年を記念して11月13日(水)にリイシューが決定。

さらに菊地成孔自らが当時を振り返るコメントを発表。2020年代を目前に控えた今だからこそ2000年代の音楽シーンを振り替える意味でも重要な作品をぜひこの機会にチェックしよう。11月13日から始まる20周年記念ツアーもお見逃しなく。

菊地成孔コメント

菊地成孔主宰ビッグバンドDC/PRG結成20周年記念で初期スタジオ録音3作品がリイシュー|菊地成孔自らが当時を振り返るコメントも発表 music191025-dcprg-1

<1999年当時のこと>

バンドの着想は90年代初頭からありましたが、カヴァー曲(「circle/line」菊地雅章)の採譜とオリジナル曲のスコア化を経て、リハーサルスタジオに最初に入ったのが1999年末でした。世界はノストラダムスの預言や2000年問題が(どうやら)なさそうだという雰囲気と、何よりほとんどの人類が世紀末から新世紀へ跨ぐ、という時で、ネットという麻薬も今ほど蔓延っておらず、世界では目を覆うような内戦や紛争も絶無ではありませんでしたが、やがてそれらも集結し、「21世紀は争いのない<心の世紀>にしたい」的なオプティミズムで温まっていました。音楽は渋谷系やDJ先導の初期のクラブジャズなど、お洒落で高踏的で快楽的な感じでした。リズムに揺らぎや混沌を求める等というのは夢のまた夢、といった感じです。ですが僕の内部では「21世紀は、戦争や内紛がもっと醜悪な形になって、経済も愛悪化する」といった予感がありました。これがいかに、病的なまでに時代とアゲインストしていたかは、タイムマシンに乗って1999年まで来ないとご理解頂けないと思います。僕は生死を彷徨う難病を克服したばかりで、生命としての勘が鋭くなっていたんだと思います。来るべき時代に備えるのがジャズの特命だと思っており、すぐに準備に入りました。今回、我々の初期3作をP-VINEさんにリイシュー(サブスク解禁)して頂く運びとなったことをとても嬉しく思います。中でも、デモ盤もない、ライブハウス回りの、意味不明な音楽をやるバンドに契約書を差し出し、ちょっとしたマスヒステリーの中に突き落とし、3年間はマネージャーもやってくれ、僕らと世界のあらゆる運命を変えてくれた、生涯の恩人、又場クン(当時、P-VINE RECORDS A&R)に神聖なまでの感謝のバイブスを送ります。

<「アイアンマウンテン報告」について>

盤のタイトル、収録曲、曲順、曲名までが、製作前から全て、ミリ単位の精緻さで決まっていました。レコーディングで生じる演奏上のミスや混沌の全てに既視感があり、それは、恐らく、世界のジャズ史上でも最も長時間に及んだ編集作業を全て終えて、ミックス、マスタリングの終了まで途絶えませんでした。今ではもう考えられない集中力と憑依の力が、僕らがシットインしたスタジオ全体に漲っていて、僕らは新しいバンドのレコーディング、というより、何らかの、世界側からのミッションを遂行するのだとしか感じていませんでした。かといってスタジオが異様な緊張感に包まれていた。とかではありません。非常にリラックスした興奮とともに、全ては進みました。アルバムタイトル、楽曲タイトルに、僕のオリジナルは「ミラーボールズ」しかありません。あとは全てテキスト引用された物です。これは戦争、というより「戦場」に関するアルバムで、というか、音楽の中にある戦場の側面を、戦争が起こって行く生成過程と最大限まで共振させた作品です。20世紀までの、としますが、地上戦の構造と音楽の構造との共振の数値として、これを超える作品を僕は知りません。不安と恐怖が快楽であり、戦闘が健全さと繋がっている、という極秘事項を音楽で表現した、数少ない音楽の一つだと自負しています。

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『アイアンマウンテン報告』

<「構造と力」について>


「アイアンマウンテン報告」のリリースパーティーが渋谷クラブクアトロでセッティングされたのは2001年9月14日です。つまり「よし。あと3日だ」という夜に、あの同時多発テロがあり、僕は、ミッションの遂行が順調であることを確認しましたが、そのままパニック障害を発症しました。このアルバムが仏語タイトルと英語タイトルと日本語タイトルを持っているのは、パリのスタジオで録音し、ライナーノートも含め、文字情報を全てフランス語にする予定だったからです。パニック障害の発症によって、パリへのフライトはなくなりましたが、クリエイトの力は倍返しで得ることになりました。このことは今でも音楽の神に感謝しています。何せこの作品と、前期のスパンクハッピーの代表作「ヴァンドーム・ラ・シック・カイセキ」は、作曲作業と録音作業が全て並行して、つまり僕は、パニック障害の発症により、生まれて初めて、アルバムを二枚同時に製作したのでした。今同じことをしろと言われても、絶対にできません。この作品から、僕はPCによるデモ制作、つまり作曲にMIDIを導入し、生演奏に変換可能な技法上の臨界点まで追及し、収録される6曲のリズム構造が、全て違うように、まず最初に6パターン作ってから楽曲化しました。発表当時は、ファンクジャズのミニマリズム平均から見て、あまりに多弁的で音数が多かったが故に、これはファンクでもジャズでもないと批評されましたが、アフロビーツやエレクトリックマイルズが、昭和というのどかな時代の色眼鏡から剥離し、正しく咀嚼されきった現在に於いては、何が起こっているか、リスナーがパノラマの動体聴力で見通せる、つまりポップな作品だと思っています。

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『構造と力』

<「フランツカフカのアメリカ」について>

合衆国とイラクの酷い戦争は、ある意味で00年代のカルチャーも経済もバッドリードし、リーマンショックによるシャットダウンまでそれは続きました。僕のミッションの終了を感じ、活動を終わることにしました。この作品さえ、アルバム名、楽曲共に僕のオリジナルではありません。全ては、検索し、歴史を再構築してみてください。「構造と力」で、PC使用の作曲を、少なくともこのバンドでは終えたと思った僕は、本作ではほとんど作曲をしていません。バンド活動中にメンバー全員が培った、ポリリズム、マルチBPMキーピングのスキルに全面的に依拠し、全てのチューンは、数小節の汚いメモ書きだけでレコーディングされています。初期衝動、PCによるシュミュレーション構築、集団即興のブランディングという風にバンドは発達を遂げ、この円環は現在でも閉じたまま、どの状態にいるかだけが動いています。全ては2001年から2007年までの6年間で遂行されたことです。後の音楽史に我々が何を与え、何を奪ったかは、何を捨てられ、何を奪われたかは、今回のリイシューを機に、特に現在の若いジャズファンにジャッジメントして頂きたい。僕は、1999年から、「楽に若者が聴けるようになるまで、まあ20年はかかるな」と思っていました。未来に向けて音楽を建築し、実演し、維持し、世界と共振して行く事だけが、僕を症状から救出し、治癒し、それをリサイクルする原動力であり、それは現在も変わりません。

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『フランツ・カフカズ・アメリカ』

RELEASE INFORMATION

DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN

2019.11.13(水)初期3作品再発
『アイアンマウンテン報告』PCD-20412【CD】¥2,000+税
『構造と力』PCD-20413【CD】¥2,000+税
『フランツ・カフカズ・アメリカ』PCD-20414/5【2CD】¥2,000+税

20YEARS HOLY ALTER WAR – MIRROR BALLISM DC/PRG

2019.11.13(水)愛知県 THE BOTTOM LINE
2019.11.14(木)大阪府 BananaHall
2019.11.26(火)福岡県 BEAT STATION
2019.11.28(木)東京都 新宿BLAZE

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