川本舗は、テン年代の音楽シーンを語る上で欠かせない最重要キーマンだ。米津玄師、wowaka、ナノウらを生み出した、ボカロ文脈から派生したインターネット発アーティストによるインディペンデントレーベル〈BALLOOM〉でのリリースはもちろん、その後も、ジャンルの壁を飛び越えた活躍が話題となっている。それこそ、カヒミ・カリィ、野宮真貴、山崎ゆかり(from 空気公団)、大坪加奈(from Spangle call Lilli line)、YeYeをゲスト・ボーカリストに迎えるなど、渋谷系以降のポップシーンのターニングポイントとも言える“特異点”を切り取る、多彩な表現スタイルが興味深い。

そんな古川本舗が、新曲“HOME”のMVにてリスペクトする巨匠・岩井俊二とコラボレーションしたことに注目したい。仮面をかぶる少年少女が、夜の学校で蛍とともに戯れるファンタスティックなヴィジュアル世界。まさに、ファン号泣、岩井ワールドを120%体感出来る満足度高いセッションだと言えるだろう。もちろん、これまでも古川本舗は映像作品に力を注いでいたことを忘れてはならない。哀しくも美しい繊細で儚い世界観を紡ぎだす音世界&映像美。そう、まるで短編映画を観るかのような感動の余韻が、古川本舗ワールドの魅力のひとつであることは間違いないはずだ。あらためて彼が生み出した映像世界を検証していきたい。

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