GDJYB「時間とお金が常に付きまとう大きな問題。バンド自体が忙しくなってきているから、ボーカルSoftとドラマーHeiheiは、広告代理店のフルタイムの仕事をやめて、デザインなどの仕事をフリーでやりながら、バンドに費やす時間を作ることにした。ギターのSoniやベースのYYは楽器の先生をやったりしてる。そうやってなるべくバンドや音楽に時間を使える環境を作って、アーティスト活動を続けていこうとやっていってるわ。

彼らと接していて感じるのは、DIY精神。音楽でメシを食ってるわけじゃないから、そりゃそうなんだけど、tfvsjsのAdonはプロのデザイナーだし、GDJYBのSoftもHeiheiもデザインができて、みんな自身の作品のデザインワークは自分たちでやる。Music Videoのディレクションもそう。tfvsjsのレストラン「談風:vs:再說」はベースのSeanが料理長で、予約をしないと入れないぐらい今や人気店となっている。ちなみにイタリアンを基調とした創作料理で、驚くほどうまい。音楽でメシを食ってないし、この都市ではそもそも音楽でメシを食うという価値観自体が存在しない。だから音楽を始めるということは、最初から限りなく純粋な自己表現なわけだ。tfvsjsの音楽について、Adonはこう話す。

tfvsjsの音楽は、自分たちの感情や考えを密接に反映していて、感情的だし、政治的だし、時にリサイクル分別箱のデザインがダサいことに対する怒りだったりもする。音楽はできる限り制限されず、自由でいることが重要で、多くの妥協で成り立っている生活の中で、音楽だけは自己表現の最後の楽園みたいなもんだと思う。世界を変えるために音楽を創ったりはしていないけど、自分でもまだ理解しきれていない「自分自身」を変え、探し求めるために音楽を創っている気がする。

じゃあ、彼らの音楽や表現はどのようなモノに影響を受けて生まれたのだろう。昨今MONO、envy、toe、LITEみたいな日本のインデペンデントなアーティストがアジア各国を頻繁に周っていてシーンを切り拓いていったこともあり、彼らを含めた日本のアーティストの影響が大きいのでは、と想像をしていた。だってもう、香港のみならずアジア各国のインディーロック系ライブに行けば、まあどこに行ってもtoeのTシャツをめかしこんだオーディエンスを必ず目にする。だが、どうやらそれらが大きな影響を与えているという想像は、日本人にありがちな、アジアにおける日本至上主義のとんだ勘違いだった。

tfvsjs「音楽以外では、香港自体がインスピレーションとなってるよ。香港は決してラブリーな街ではないし、悪くなっていってるのが分かる、めちゃくちゃな状況なんだ。そんな中で生活している人々も破滅的になってきているし、2014年の「雨傘革命」は、香港の歴史上でも最も大きな運動だった。けれど、ちっとも政治的には何も変わらないんだ。だから政治に期待するのは間違いなんだって気付かされたし、希望は本当の人間関係やコミュニティにしかないんだって思った。

GDJYB「私たちの音楽は、よく社会的な解釈が強く入っていると言われる。実際はそんなにいろんな社会問題に強く言及するつもりはないんだけど、香港ではあまりにひどい問題が起こり続けるから、私たちの生活に影響を与えるし、それを避けることはできないのよね。中にはもっと個人的で、人間関係や愛、アイデンティティについての歌もあるのよ。

香港ではここ何年か、学生を中心にした非常に大きな運動がいくつも起きている。音楽の話から多少お堅い話になっちゃうけれど、切っても切り離せない問題なのでちょいとお耳を拝借。香港は1997年にイギリスから中国に返還される。ただ中国は香港に対し、中国の社会制度とは異なった自治を50年間認めるという、「一国二制度」という形をとることになる。しかし、時が経つにつれ、その認められたはずである一国二制度が香港の人たちにとって、侵害されていくと感じるような出来事が多々起こるようになった。tfvsjsが言及した2014年の「雨傘革命」もその一つで、これは香港の行政長官を決める選挙に関して、自由な立候補が阻まれる選挙制度を中国政府が定めたことで、香港の学生を中心に大規模な民主化要求運動が起こったものだ。

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「雨傘革命」 2014年9月〜11月
Photo by Viola Kam(V’z Twinkle)

音楽がビジネスとは無関係のところにあって、自分自身の内側からのみ生まれる純粋な表現であればあるほど、生活を取り巻くこのような状況はダイレクトに表現への影響を及ぼす。そもそも音楽とビジネスが多かれ少なかれ、強く結びついた価値観の中にいる日本人のアーティストとは、音楽との関係性が大きく異なるんだ。もともと彼らの音楽を聴き始めた当初は、こんなこと知りもしなかったし考えもしなかったが、内部からふつふつと湧き上がる怒りとも言える原動力が、彼らの音楽をユニークに仕立て上げていることを後から知ることとなった。現代の香港製レベル・ミュージック。

音楽を聴く上ではこんなことは知らなくたってもいい。それは、音楽だから。ただただ耳を傾け、リズムとメロディーに身を委ねればいい。けど、こういう背景を知った上で聴いてみるのもひとつだと思う。一粒で二度美味しくなることもあるはずだ。

最後に、「tfvsjs」と「GDJYB」の名前の由来について。ちなみに読み方はひねくれてなくて、そのまま素直にアルファベット読みします。

tfvsjs「“頹廢vs精神”(Tui Fei vs Jing Shen)という広東語のアクロニム(頭字語)で、意味は「デカタント(退廃的)vs 精神」という、自分が高校の時に創った、あまり意味を為さないフレーズからきてるんだ。

GDJYB「GDJYBは、香港の伝統料理である雞蛋蒸肉餅(Gai Dan Jane Yuk Bang)のアクロニム(頭字語)です。雞蛋蒸肉餅は、ミートローフと卵を蒸した料理で、ボーカルのSoftのママが好きで。普通は卵に塩を入れるんだけど、SoftのママはいつもSoftに、塩を入れないほうが健康にいいからそのまま使いなさいって言ってたの。それが私たちのバンドのスタイルにそのままマッチしたから、バンド名にしたのよ。つまり、香港の伝統的なモノなんだけど、ちょっとスペシャルな要素があるってところ。私たちの音楽は香港の社会的な問題や、街のフィーリングを歌ってるけど、ちょっとおかしくて、変わった方法で表現してる。それを表してるバンド名だと思ってます。

両バンドとも本当に偶然、広東語から生まれたアクロニム(頭字語)でした。この由来にもやっぱり香港というアイデンティティが込められているんですね。てか、DAI語じゃないですか。

次回は、香港のインディー・ミュージック・シーンに大きな貢献をしている、イベンター兼レコードレーベル兼レコードショップ「White Noise Records」のオーナーとのインタビューを交えてお届けします。その後、他のアジアの国へと移っていくのでお楽しみに。

吉本 翔(May 16, 2016)

RELEASE INFORMATION

アジアン・インディー・ミュージックシーン 〜vol.1「香港」with tfvsjs and GDJYB〜 music160520_bakuretsu_1
[amazonjs asin=”B01EGDOSNQ” locale=”JP” title=”=≠= (equal unequals to equal) / GDJYB”]
tfvsjs / GDJYB

発売元:BAKURETSU INTERNATIONAL

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