新型コロナウイルスの出現は、私たち人間に対する何かの贖罪なのか?収束に向かう途中で世界各地で勃発する様々な問題を目にする度、そんなことを思う。ジョージ・フロイド氏の痛ましい暴力死事件は“人種差別のパンデミック”と呼ばれ、世界中で“Black Lives Matter”のフラッグを掲げた大規模なデモが行われた。ベルリンにおいてもアレクサンダー広場にて開催され、集結した15,000人によって一帯が埋め尽くされた。これが厳戒態勢の敷かれたロックダウン直後だったら一体どうなっていただろうか?その一方で、ローカルクラブはそこだけ世の中から取り残されてしまったかのように重く暗いシャッターが閉じたままである。それに対するデモは、クロイツベルク区のシュプレー川でボートレイヴという形で行われ、こちらは1,500人以上が集まった。

個人的な意見を言わせてもらえば、どんな問題においてもまず声を上げ、それに伴い行動することは非常に大切だと思う。それが出来なくなってしまったら私たちはもはや人間ではなく、家畜同然となってしまうからだ。しかし、コロナによって溜まった鬱憤を深刻な人種差別問題と混同させたり、犯罪といった間違った矛先に向かって欲しくない。事実、ボートレイヴが開催された同日、同じくクロイツベルク区にある友人の働くバーは強盗被害に遭っている。

前置きが長くなってしまったが、コロナ時代は私たちがこれまで見えていなかった、もしくは、見て見ぬ振りをしていたいろんな問題が浮き彫りになり、局面に立たされていくのではないかと感じている。社会、政治は当然ながら、このコラムでも散々伝えてきている自分の人生の資産といえる音楽は復興と呼べるほどの支援と努力とアイデアが必要となってきているのだ。

そんな中で、前回に引き続き、ベルリン在住のアーティストへのインタビューをお届けしたい。今回は、ソロ、バンド、プロデューサーとして活躍するドラマーの青島主税、以前にもインタビューゲストとして登場してもらった世界中で活躍するSUDOによる2組の男性アーティスト編となります。取材はロックダウン中に行ったものとなりますが、是非ご覧ください。

まずは、ドラマーの青島主税から動画インタビューから。

Interview:青島主税

──ベルリンに住んで何年ですか?

7年程になります。

──新型コロナウイルスの存在を知ったのはいつどのような形で知りましたか

1月の前半に、中国の武漢市で新型ウイルスが猛威を振るっているというニュースをインターネットでみたのが最初でした。

──アーティストとして、どのような影響を受けましたか?(可能な範囲で構いません。)

予定していた多くのコンサートがなくなりました。

3月の中旬にLeipzigで進撃の巨人のコンサートを演奏する予定でした。このコンサートはかなり大規模なコンサートで、フルオーケストラと合唱隊、バンドの計150人程がステージ上で大型スクリーンに映し出される動画と合わせて演奏する予定でした。3000人から5000人のオーディエンスの規模で、チケットもほぼ完売してました。日本からも進撃の巨人の劇中で歌っているシンガーさんが来る予定でしたが、残念ながらキャンセルになりました。2019年の12月からVolksbühne Berlinというドイツの国立劇場で定期的に公演している「Legende」という演劇があるのですが、こちらも3月の中旬から公演が全てキャンセルになりました。Klunkerkranichという屋上のバーがあるのですが、そこも定期的に演奏しています。そこでのライブも4月以降のイベントはなくなりました。いつ再開するのかは未定です。後はプライベートのギグがいくつかなくなりましたね。

──ロックダウン中の今、毎日何をしていますか?音楽面であればそれも教えて下さい。

ここぞとばかりに制作活動をしております。後はドイツ語を勉強したり、適度に運動したり。この機会にもっと勉強しなくてはと思い、最近は近代史、経済や政治の動画なども観てます。

──今この状況になって、改めてあなたにとって音楽とはなんですか?これまでと価値観は変わりましたか?

僕にとっての音楽は生活であり、情熱であり、人生を豊かにしてくれるもの、そして自分のアイデンティティーです。価値観は変わりましたね。本当にいつ何が起こるかわからないし、日々過ごしていたものが当たり前ではなく、かけがえのないのものだったと改めて思いました。そう思いながら暮らしていても、人間は忘れやすいのですぐに同じ過ちを繰り返してしまいます。なので、もう一度感謝と謙虚さを忘れずに生きていかなければと思いました。

──終息後にやりたいことはなんですか?

ライブですね。ミュージシャンと会場とオーディエンスが作り出す化学反応は今は味わえないので。

PROFIELE

青島主税

コロナ時代に音楽はどう存在するのか?ベルリンで生きるアーティストスペシャル編Vol.2 200608_berlin_interview_02

青島主税はベルリンを拠点としたドラマー、コンポーザー。フィンランドなどで活躍した画家、青島三郎のもとに四人兄弟の次男として静岡県浜松市に生まれ、幼い頃より芸術に触れて育つ。14歳でYAMAHAドラムスクールに通い始め、高校卒業と同時にパンスクールオブミュージックに進学。その後、プログレッシブロックバンド、ZANZOに加入し、アメリカの<SXSW 2005>などに出演。2007年にはアメリカはボストンにあるバークリー音楽院の演奏科に入学し、2011年同校学士課程を修了。2913年に活動の拠点をベルリンに移す。ベルリンではドラマーとして、ロック、ジャズ、エレクトロニックミュージック、バルカンビートなどを演奏し、2019年12月からはベルリンの国立劇場Volksbühneにて、演劇「Legende」を定期的に公演中。作曲家としてはアーティストとのコラボレーションやショートフィルム、ゲーム音楽などの作品を作曲。2020年3月にはCAPCOMからNintendo Switchにリリースされた「深世海 into the depths」の楽曲を担当。それに伴いオリジナルサウンドトラックも絶賛発売中。

オフィシャルサイト

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「深世海 into the depths」オリジナルサウンドトラックSpotify

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続いて、SUDOによる動画コメント&インタビュー

Interview:SUDO

──ベルリンに住んで何年ですか?

丸6年です。

──新型コロナウイルスの存在を知ったのはいつどのような形で知りましたか?

たしか2月中旬頃にネットニュースで知りました。驚いた事があったのですが、ちょうど昨年末に中国・武漢でのライブの仕事の話があったんです。結局出演には至らなかったのですが、今から思うと…人智を超えた何か時別な計らいがあったのかもしれないと思っています。

──アーティストとして、どのような影響を受けましたか?(可能な範囲で構いません。)

決まっていたギグがことごとく中止や延期になりましたね…ギグは僕もお客さんもお互いに音楽を肌で感じられるので、その機会がなくなってしまったことは非常に残念です。しかし今回の事はもはや自分だけの問題ではなく、会場のクラブは勿論、世界中の人々の命が脅かされるという今までの人生で最大級の災害だという点で、一刻も早い収束を願うばかりです。ただ、悶々として生活するのは心身ともに健康ではないので、今だからこそできることはないかと日々考えています。例えば街中でも、普段はテイクアウトを提供していないレストランもサービスできるようにしていたり、オンライン授業をやっている学校も多いですし、皆それぞれに工夫をしています。僕もこの機会にできることをしたいなと…。改めて音楽の素晴らしさに気付きましたし、それをみんなとも共有したいので、この状況になったからこそ何かできることはないかと模索中です。

──ロックダウン中の今、毎日何をしていますか?音楽面であればそれも教えて下さい。

音楽制作が仕事なので、ギグがなくても基本的に自宅やスタジオにて曲を作っています。ライブが再開されたときに皆に楽しんでもらえることを目標に新しい曲作りに邁進しています。またそれ以外にもCMの曲やプロモーションビデオの曲作りもしているので、そちらの仕事にも一層繋がるように、基本はコロナ前と変わらずに毎日仕事をしています。ただ、ステイホームが掲げられているので、それを与えられた時間だと思って家族との時間も楽しみ、諸々と十二分に気をつけて生活をしています。

(*ロックダウン中に、KlunkerkranichからライブストリーミングにてSUDOのライブが配信された。)

──今この状況になって、改めてあなたにとって音楽とはなんですか?これまでと価値観は変わりましたか?

ギグが次々とキャンセルになったことで、人前で音楽をプレイし、お客さんの反応をみて次の曲を選ぶというライブ感がすごく楽しく、音楽の醍醐味であるという事を改めて感じさせられました。先の阪神、東日本大震災の時にも思ったことですが、人々が本当に困った状況では演奏の機会が持てず無力感を感じます。しかし、今回のコロナの状況に際してドイツ文化相が「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」と仰られたのを聞き、ベルリンで音楽活動ができることへの有り難みを本当に心から感じました。また、外出制限が発令されたことにより、皮肉にも大気、水質汚染が改善されている例が多くみられ、深い意味で色々と考えさせられています。

──終息後にやりたいことはなんですか?

仕事面ではもちろんギグがしたいです!僕もお客さんからパワーをもらえる場所なので。従来通りのテクノのDJ、ライブはもちろんですが、新たな試みとしてクラシックやジャズなど、他ジャンルのアーティストとのコラボレーションも目指しています。

生活面でいえば、気を遣うことなく思いっきり外に出たいですね。友達と会ったり、外食をしたり、電車や飛行機に乗って旅をしたり…今まで当たり前にできていたことを心から楽しめる日が一刻も早く来ることを願っています。

PROFIELE

SUDO

コロナ時代に音楽はどう存在するのか?ベルリンで生きるアーティストスペシャル編Vol.2 200608_berlin_interview_03

ISAO SUDOは日本とベルリンを拠点とする音楽プロデューサー・DJ。実の兄であるTAKASHIとテクノユニットSUDO名義でグラミー賞アーティストであるDUBFIREのレーベル『SCI+TEC』からEPをリリース。ヨーロッパを中心に世界中のイベントでプレイ。また、LOUIS VUITTONのインスタレーションやMizunoのPV楽曲制作等、ジャンルにとらわれることなく精力的な活動を続けている。

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最後に、
冒頭でも述べた通り、すでに私たちの生活は次のフェーズへと入っている。コロナとそれ以外のことも同時に考えて生きていかなければならない時代は、不可解で理不尽で不公平な世の中に怒りをぶつけるだけでなく、楽しみや新たな価値観を見出していかないととても辛いものになってしまう。だから、私はこれまで以上にエンターテイメントを心の底から求め、同時に守っていくべきことであると強く思う。

同企画に賛同してくれた友人アーティストに心から感謝するとともに、今後もこういったアーティスト企画を続けていきたいと思う。

ベルリンで生きるアーティスト・スペシャル編Vol.1

Interview & Text : Kana Miyazawa
Video : Ari Matsuoka
Photo by for a little beauty(Chikara Aoshima)