国籍、性別、年齢、宗教、肌の色、体型、それらは私たち人間を隔てるカテゴリーとなり、差別へと繋がってゆく。思想家トマス・モアが描いた“UTOPIA”は、そういった全ての垣根を取り払った人類における完璧な理想郷であり、現代社会における文化の最前線であるファッションにインスピレーンを与え、その思想と共に表現される。混沌とした今の世の中でファッションは一体どんな役割を果たし、何を伝えることが出来るのか?ベルリン発の新進気鋭ブランド“RICHERT BEIL”の最新コレクションと共に、自分たちの未来に向けたテーマとしてこの場に掲げたいと思う。

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3月12日、しとしとと雨の降る寒い夜、一面暗闇に包まれた工場地帯StorkowerStraßeの一角でランウェイショーは行われた。ベルリン発のユニセックスブランド“RICHERT BEIL”による2020/2021AWコレクションの発表である。1月のベルリン・ファッション・ウィークや他の国際見本市とあえて時期も会場もずらしての発表となったが、皮肉にもショーが行われたこの日は、今もなお世界中を震撼させているコロナウイルスが猛威を奮い始めた直後だった。しかし、そういった困難な状況の中で、400人以上のゲストを前に臆することなく、完成度の高い素晴らしいコレクションを披露したことに拍手を送りたい。

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今シーズンのテーマは「UTOPIA/ユートピア」。“RICHERT BEIL”にとっての“UTOPIA”とは一体何を意味するのだろうか?今回で3回目となるランウェイショーは、まず会場に“Cleanteam Berlin”というテキスタイルケアの工場を選んだ。かなりの広さを誇る工場内には、洗濯機やプレス機、染色機など、数え切れないほど沢山の業務用機械が並ぶ。そこに、ランウェイが作られ、ゲスト用のベンチが設置されるというユニークな演出である。

しかし、同会場を選んだのは単なるおもしろさからではない。同ブランドは、実際にここで再製造されたリサイクル生地や仕上げとなるプレス作業を行っており、リサイクルコットンで作られた限定のシャツや60年代のスウェーデン製ベッドシーツから再製造された生地でクラシックなシャツなどが誕生している。完成された美しい洋服に身を包んだモデルが歩くショーだけでなく、1着の洋服が出来上がるまでの工程の一部を披露することによって、ブランドと業者との信頼関係のもとにコレクションが成り立っていることを知って欲しいという意図がふくまれている。この日、会場内には白衣を着た工場スタッフの姿もあった。

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プラスチックを一切使用していないデッドストック生地で作られたネオンカラーの大きなバッグとXXLサイズのショッパー、前シーズンのコレクションに引き続きヴィーガンレザーを使用するなど、リサイクル生地以外にもサステナビリティーを取り入れている。

また、個人的に気に入ったのは、カモフラージュシリーズである。いろんな国の実際の軍服からインスパイアされており、エレガントなロング丈のトレンチコート、スポーティなアウタージャケットなど、デザイン性も機能性も高いアイテムとなって多数登場した。そして、カモフラージュと最もマッチングされる色合いとして、目の覚めるビビッドなオレンジ、レッド、イエローのトップスやパンツ、バッグなどが登場した。

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Photo by : Family Resort
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Photo by : Family Resort

ショーの演出、デザイン以外においても非常に良いと思ったことがある。それは、写真を見てもらえれば分かるが、モデルが統一されていないという点である。インディペンデントで世界的なメゾンブランドがほとんど参加しないのがベルリンのファッションウィークの特徴であり、近年はアジア人モデルの起用も目立ってきている。そのため、最初は気づかなかったのだが、ルックを再度確認すると、白人の男女、黒人の男女、アジア人の男女、年配の白人女性、確かではないがジェンダーレスであろうモデルが登場し、それは同時に先に述べた「ユートピア」を表現していることとなる。

「私たちは将来において、アイデンティティの自由とセクシュアリティの寛容さを信じています。
人間の尊厳にはサイズ、性別、年齢、宗教、人種はないのです。」
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Photo by : Oliver Wolff

デザイナーのJale RichertとMichele Beilが前シーズンのコレクション発表時に語った言葉であり、今シーズンにもそのまま引き継がれた。2人のデザイナーの名前を組み合わせて誕生したブランド”RICHERT BEIL”は2014年に設立され、ベルリンのファッションシーンにおいて着実に成長&地位を築き始めている。

トレンドだから、そうしないといけない時代だから、そういった理由からのサステナビリティーの取り組みは長くは続かない。何より今は未知なる新型コロナウイルスの出現により、私たちの生活は脅かされていると同時に試されているとも感じている。人間はもっと真摯に地球への配慮を考え、行動に移し、また、地球だけでなく、あらゆる差別をなくし、私たち人類そのものを互いに守らなければならない時がやってきたのではないだろうか。