“もしここがパリだったら、間違いなくレコ屋ではなく、高級レストランになってるよ。”
宮沢(以下、M) まずは、1周年おめでとうございます。先日のアニバーサリーパーティーも大盛況でしたね。今やベルリンを象徴するレコードショップの1つになっていると思いますが、その辺についてどう考えていますか?
Christian(以下、C) ありがとう。1年という短い時間の中で、ベルリンのシーンにここまでのインパクトを与えるとは自分でも思ってなかったよ。自分の限界を超える勢いでいろいろやってきたから、それを気に入らない人たちも中にはいるかもしれないね(苦笑)。だけど、シーンに影響を与え、実際に何かを生み出せるような人たちと一緒に仕事をしたいと思ってるから、今の状況は自然なことかもしれない。
それに、ちょうど昨日も友人と話してたけど、こういったコミュニティーが今も存在しているのは、やはり世界中でベルリンだけだと思う。例えば、アムステルダムやロンドンだったら、この広さの店舗を同じ家賃で借りられることはまずあり得ない。もしこれがパリだったら、大家は間違いなく、ここをレコードショップではなく、高級レストランにするだろうからね(笑)もっと人が集まるための場所として貸すだろうね。
ここは、世界中から何かを求めて人々が集まってくる。そうした人々のために、何か価値あるものを提供するのが自分の責任だと思ってるんだ。単に楽しいからやるというだけでなく、それが自分の使命だと思ってるよ。
M オープン当初から大きく変わったことはありますか?例えば、来客状況やアーティストの反応、メディアへの露出など。
C 変わったこと。まあ、個人的なことを言えば、この一年は自分にとってとにかくとてつもなく長い一年だったよ。今までの人生でこんなに働いたことはなかったし、とにかく今は時間がない。週5.5日くらい働いてる上に、家でも朝や夜に仕事してるし。本音を言えば、もっと店にいて、お客さんたちと会話して、店のソウルを感じたいと思うけど、コンピューターの前でメールの処理や他の雑務に追われていることも多い。レコードの運搬にも毎回同行しているしね。だけど、その結果として今のように沢山の人が集まる場所になったわけだし、何かを実現させたいと思ったら、とにかく動かないといけないから、うまくタイムマネジメント出来るようにならないとね。
それと、最初この店は秘密の倉庫みたいな場所だったんだ。でも、今では本当に多くの人が集まる場所になって、ロゴ入りのオリジナルTシャツとかも作ったりして、かなりオープンな存在になったよ。もっとゆっくり時間をかけて店を確立する予定だったんだけど、自分でも追い付けないぐらいすごいスピードで成長していってしまった感があるよね(笑)。
M ここまで早く有名になった一番の理由はなんだと思いますか?
C ここはある種の文化的なシーンの中心地だと思っている。単なる物を売るだけの店とは違う。だから、店の方針について、何か1つ決断をすれば、それがシーンに影響を与えていく。そして、その結果、他の店以上に、レコードを買う人やここに集う人のヴァイブスが集まってきたんだと思う。
M レコードの数もかなり増えていると思いますが、こだわっている点、特に力を入れている、注目しているジャンルやレーベルはありますか?
C 店のポリシーとしては、DJ指向の音楽をサポートすること。高価なレア盤ばかりでなく、一般的なレコードも幅広く取り扱うように心掛けてるよ。5年前はもっと安かったレコードが、今は有名になりすぎて逆に探すのが困難になったりしてる。有名なDJがかけたら、それをみんな欲しがるから、昔は5ユーロで手に入ったのが今じゃ50ユーロもしたりする。シーンに大きく影響を与え、史上に残るような名曲たちはもちろん素晴らしいし、取り扱ってもいるけど、本質としては、メインストリームからはちょっと外れたものを押しているかな。繰り返しになるけど、当初のプランは、こんなに店が急に有名になるはずではなかったから(笑)。
レーベルで言うなら、〈stickman〉かな。アーティストでは、初期のIan Pooleyだったり、あまり有名でないアーリーテクノレイヴだったり。〈Forbidden Planet〉からリリースされた、〈PCP〉(※Planet Core Productions:Aphex Twinのリリースでも知られる元祖カルト・テクノ・レーベル)から90年代初期にリリースされた名曲のリイシュー『The Mover』(※90年代初頭から数々の名義で多数の作品をリリースするMarc Traunerの別名義)のコンパイル盤だったり。レア盤ではなく入手しやすいけど、クオリティは高い音楽だね。
Ian Pooley – Chord Memory
M 特に売れているジャンル、レーベル、アーティストはありますか?
C 今は、90年代のテクノ、ブライトン・テクノ(ブライトンからきたテクノ)が一番売れているね。レーベルで言うと〈Blueprint〉、〈Downwards〉、〈Cosmic〉、〈Lost〉、〈META〉、アーティストならOliver Ho、James Ruskin、Surgeonとか、ストレートなテクノだね。