グザヴィエ・ドラン監督は、二十歳でデビュー作『マイ・マザー』でカンヌ国際映画祭監督週間に出品、続く『胸騒ぎの恋人』である視点部門、2014年の『Mommy/マミー』で審査員特別賞を受賞。グザヴィエ・ドラン監督の織りなす最新作『たかが世界の終わり』は、12年ぶりに帰郷する青年ルイと家族の織りなす物語だ。

喜怒哀楽が紡ぎ合う家族の間で寡黙を演じた主演ギャスパー・ウリエル。ギャスパーは、映画『ハンニバル・ライジング』、『SAINT LAURENT/サンローラン』などでも知られる。

カンヌ国際映画祭グランプリを受賞した本作についてインタビューを行った。

Interview:ギャスパー・ウリエル

「ドラン監督の演出は、他とは“少し”違うようですが……。」

インタビュー中盤、質問を始めるとインタビュアーにすかさずフランス語の通訳さんが、

「“すごく!”違う」と、ギャスパーさんの言葉を伝える。若き天才と称されるグザヴィエ・ドラン監督の演出方法とは?

「今まで仕事をしてきた監督とは全く違う演出で、私だけでなく共演した俳優さんも逸脱していると話していました。ドラン監督は明確なアイデアを持っているので、撮影の途中で演技を止めるのはしょっちゅうで、もう一回やってくれとか、新しいアイデアが生まれたのでそれをやってくれとか、本当に生き生きと監督と俳優の間の双方向で演出をしていました。」

逸脱……久しぶりに聞いた言葉に思わず辞書を引く……決められた枠から外れること……逸脱エピソード、ぜひぜひもっと聞かせて欲しい!

「普通だったらテイクが完全に終わってから演技のダメ出しをしますが、ドラン監督の場合は俳優がまだまだ演技を続けていこうと思っている所にセリフを被せてきて、こうやってくれ! と話しかけてきます。また、最初は音楽をかけていなかったのに途中で、かけ出したりと本当に特殊です。」

【インタビュー】New Movieのあの人。ギャスパー・ウリエル、映画『たかが世界の終わり』 614A2002-1-700x467

12歳から芝居の世界に入り、映画『ロング・エンゲージメント』『ハンニバル・ライジング』『SAINT LAURENT/サンローラン』に出演し、実力派俳優の階段を登るギャスパーさんも「このような演出をする人は知らない」と話す。撮影前にどんな役作りをしたんだろう。

「絶対やっておかなければならなかったことは、戯曲でも脚本でもそうですが、主人公のルイという人物の過去が殆ど描かれていないので、自分の頭の中で作りだすことです。ルイが一人で生きてきた過去ではなく、子供の頃家族と共有してきた体験を具体的にイメージしました。それはとても重要なことです。なぜならルイはほとんど何も語らず表情だけで反応するので、しっかり準備をすることで、家族の言葉に対して正確に反応することができるからです。」

これまでになかったドラン監督の演出に向き合いながら、これまでになかった寡黙なキャラクターを演じる。8日間という短い撮影ながらも、挑戦が多い映画だった様子。他の共演者さんとのかけ合いや撮影現場の様子はいかがでしたか?

「映画によっては葛藤のあるストーリーなので、テイクが終わった後もそれが残ることがあります。しかし私たちはプロなので役は役、現実は現実とメリハリをつけることができました。いがみ合った家族を演じても一旦カメラが止まれば、和気あいあいと過ごす撮影現場でした。ドラン監督は演出をするときは厳しいですが、現場にリラックスした雰囲気を作る人で、すごく陽気な感じで連帯感を感じさせてくれます。快適さを重視して、現場の空気を作ってくれました。」

【インタビュー】New Movieのあの人。ギャスパー・ウリエル、映画『たかが世界の終わり』 614A1984-700x1050
変わった演出であっても、良い映画を作るためのチームワークを大切するドラン監督。「やっぱり俳優ってサプライズを期待しているんです。テイクの間に予想してなかったことが起こるのは、割りと喜びを感じます。」と、ギャスパーさんが話すところからも俳優と監督の信頼関係が垣間見える。

ドラン監督を「アーティスト」と評するギャスパーさん。最後に監督の好きな作品について伺いました!

「好きな作品は『トム・アット・ザ・ファーム』ですね。理由は本作でも言えますが、自分が得意とする快適なテーマから離れてリスクを取った作品だからです。時にはリスクを取ってこれまでと違う自分に挑戦するのが、本当のアーティストだと思います。無駄なものをそぎ落としている、何か一つの成熟のいきに達した作品のように思います。」

Profile:ギャスパー・ウリエル(Gaspard Ulliel)

【インタビュー】New Movieのあの人。ギャスパー・ウリエル、映画『たかが世界の終わり』 614A1982-700x1050
1984年、フランス、ブローニューブランクール生まれ。12歳の頃からテレビを中心に俳優として活動する。本格的な映画デビュー作は、『ジェヴォーダンの獣』(2001)。続いてジャン・ピエール・ジュネ監督、オンドレ・トトゥ共演の『ロング・エンゲージメント』(2004)でセザール賞有望男優賞を受賞する。さらにハンニバルシリーズとして大きな話題になった『ハンニバル・ライジング』(2007)に出演し、世界的な知名度に。2014年には映画『SAINT LAURENT/サンローラン』で、ファッションデザイナー、イヴ・サンローランを演じた。主演を務めた、第69回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞最新作『たかが世界の終わり』は2016年2月11日から全国ロードショー。

たかが世界の終わり

2月11日から、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA他全国ロードショー。

監督・脚本:グザヴィエ・ドラン 原作:ジャン=リュック・ラガルス「まさに世界の終わり」
出演:ギャスパー・ウリエル、レア・セドゥ、マリオン・コティヤール、ヴァンサン・カッセル、ナタリー・バイ
配給:ギャガ 提供:ピクチャーズデプト、ギャガ、ポニーキャニオン、WOWOW、鈍牛倶楽部
後援:カナダ大使館、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
原題:Juste la fin du monde /カナダ・フランス合作映画/99分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/字幕翻訳:原田りえ
©Shayne Laverdière, Sons of Manua

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photo by Kohichi Ogasahara