世界最古の音楽レーベルとして知られるドイツの名門〈ドイツ・グラモフォン〉から正式にオファーを受け、世界初となるクラシック音楽のミックスCDを制作する――。こんなシンデレラストリーを手にした日本人がいるのをご存じだろうか。彼の名はAoi Mizuno

オーストリアのザルツブルクでクラシック音楽を学び、これまでにさまざまな欧州のプロオーケストラを指揮してきた他、東京では2016年にライブハウスで大音量で楽しむピアノリサイタル「東京ピアノ爆団」をプロデュース。2017年には若手室内オーケストラ「O.E.T(オーケストラ・アンサンブル・東京)」を立ち上げるなど、様々な角度からクラシックの魅力を広める活動をしてきた人物だ。

そんな彼が〈グラモフォン〉から今年の9月にリリースした世界初のクラシック音楽によるミックスCD『Millennials -We Will Classic You』は、サブタイトルで彼が敬愛するアーティストであり、現在映画『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒット中のクイーン(Queen)の名曲“We Will Rock You”へのオマージュが捧げられた、非常にユニークな作品になっている。その制作背景や作品に込めた思いについて、そしてクラシックの指揮者/DJでありながら、ロックやソウル、ヒップホップなど様々な音楽を横断するリスナーとしての興味について聞いた。

Interview:Aoi Mizuno

――9月にリリースされた『Millennials -We Will Classic You』は、名門レーベル、〈ドイツ・グラモフォン〉から出るクラシックのミックスCDに、クイーンの“We Will Rock You”にオマージュを捧げたタイトルが付いていることがとても印象的でした。まずはこのタイトルの由来について、改めて教えていただけますか?

メインタイトルの『Millennials』は、僕も含むインターネットネイティブな世代=ミレニアル世代のことですね。僕はその世代の人たちって、クラシック音楽から離れてしまっている世代だと思うんです。仮にクラシックに触れたいと思っていても、何をきっかけに触れればいいのか分からない。だからこそ、ミレニアル世代による、ミレニアル世代のためのクラシック・アルバムを作ろう、その入り口となるアルバムにしようというのが、『Millennials -We Will Classic You』の最初のアイディアでした。

――若い世代がクラシックから離れていることを実感しているからこそですね。

はい、僕はずっとそう感じてきたんです。一方でサブタイトルの「We Will Classic You」は、今言っていただいたように、僕が大ファンでもあるクイーンから取ったものです。僕は中学生の頃クラシックにはまったんですが、同時にクイーンのような音楽にも興味を持ったんです。クイーンは中学生の間に全アルバムを制覇するぐらい好きになりました。それもあって、「自分がアルバムを出す際には、絶対にこのタイトルにしよう」と、何年も前から決めていたんです。特に好きなのは、『クイーンⅡ』や『オペラ座の夜』のような初期の作品ですが、タイトルのキャッチフレーズとして「We Will Classic You」という言葉はめちゃくちゃ強いと思って。「これしかないだろう」と考えていたんですよ。

――「みんなを“クラシック”してやるぞ」というニュアンスですね。

「お前たちをロックしてやるぞ」が、僕の場合だと「クラシックしてやるぞ」になるということで(笑)。自分の活動にも直結するテーマに感じられたので、タイトルに決めました。

――Aoi Mizunoさんは、クイーンのどんなところに魅力を感じたんでしょう?

やっぱり、まずは「世界観」ですね。クイーンを聴くまで、僕はアルバムというものはただ「色んな曲が入っているもの」という印象でした。でも、クイーンのアルバムは交響曲のようにあるコンセプトに従って構成されていて、それぞれの曲はそのテーマを表現するパーツでしかない。そう気づいたところから、壮大な世界観に魅了されていきました。ブライアン・メイのギターは、それこそオーケストラに匹敵する魅力があると思いますし、フレディ・マーキュリーはオペラも好きな人でした。クイーンはハープシコードのようなバロック時代の楽器も取り入れたりしていて、そういうところにも魅力を感じましたね。

――その後、クイーン以外にもUKのロックを聴くようになっていったそうですね。

レッド・ツェッペリンもそうですし、あとはイエスのようなプログレにも興味を持ちました。「クラシックのよさ」と、「ロックのよさ」ってそれぞれ違うと思うんですが、「クラシックの魅力をどうキャッチーに伝えるか」という意味でも、クイーンは自分の人生のコンセプトに近い存在だったんですよ。「クイーンに出会っていなかったら、自分はここまで来ていなかったかもしれない」と思うほど、かなり大きな影響を受けたアーティストです。

――UKロックもそうですが、クラシック以外にも色々な音楽を聴いているそうですね。他にはどんな音楽を聴いてきたんですか?

そこから自分が高校生になる頃に、マイケル・ジャクソンが亡くなったんですよ。それまで僕は、R&Bやブラック・ミュージックにはあまり触れてこなかったんですが、マイケル・ジャクソンはアイドル的な要素がありつつも、プロフェッショナルなエンターテイナーでもあって、彼の音楽をきっかけにアメリカの音楽にも触れるようになりました。あとは、最近のアーティストだと……本当に色々な音楽を聴いているので難しいですが、ジェイコブ・コリアーはすごく好きですね。この間、日本でのコンサートにも行きましたが、改めて「天才だな」と思いました。この人はカバー曲のアレンジも素晴らしいし、ありとあらゆる音楽をクロスオーバーさせていて。YouTubeに上がっている長めのインタビュー動画を観ると、近代のフランス音楽の作曲法自体にも、かなり理解が深いようなんです。現代音楽の新たな作曲法も取り入れつつ、それを自分流にアレンジして、上手く彼の音楽に取り入れていると思うので、同世代にこういうアーティストがいることは励みになります。

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――一方で、PUNPEEさんのようなアーティストの音楽も好きだそうですね?

もちろんです。感覚としては単純に「好きで聴いている」という形ですが、「この現代にどういうものが受け入れられているのか」「何が新しいのか」を理解していないと、「クラシックを広めよう」と思っても、なかなか難しいと思うんですよ。その魅力をどう取り入れるのかは自分でも模索中ですが、クラシックだけでなく様々な音楽も聴いてきたことは、他のクラシック音楽家と僕の違う部分で、それが自分の強みになっているのかな、と感じています。

――普段はどんな風に音楽を探すことが多いのですか?

場合によって色々ですが、最近だとSpotifyのプレイリストで新しい音楽を知ることも多いですし、友達に教えてもらうこともあります。代わりに、僕はクラシックを教える感じで。

――なるほど。クラシックには詳しくない友達も多いんですね。

むしろ、そういう人の方が多いかもしれないです。もともと僕は、音楽家と仲良くなりたいというよりは、色々なカルチャーに触れて、自分の世界を広げたいと思ってきたんです。僕が住んでいたオーストリアのザルツブルクも――。

――音楽家に限らず、音楽が人々の生活の中に入り込んでいるんですよね。

はい。大衆の中に、音楽や劇場のようなものが組み込まれていて。そういう経験をして、「じゃあ日本はどうなんだろう?」と考えたときに、興味のある人は触れられる状況ではあるものの、多くの人々の生活にまで組み込まれているかというと、それはなかなか難しい部分があって。日本の伝統文化の歌舞伎にしても、当初は大衆の娯楽だったのに、今はセレブの楽しみになってしまっていて。そういう価値観を、僕たちの世代で変えていきたいと思っているんです。

――そのためにも、現代の様々なカルチャーを知っておく必要がある、と。

そもそも、僕自身もかなりの現代っ子なんですよ(笑)。SNS漬けの日々を送っていますし……。この間は小袋成彬さんのライブに行きました。彼のアルバム『分離派の夏』は、今年出た中でも本当に素晴らしい作品だと思っていて。ちょうどあの作品が出たのは『Millennials -We Will Classic You』の制作中だったので、直接影響を受けたわけではないですが、自分も「作品と呼べるものを作ろう」と、あの作品を聴きながら思っていました。最近はマーケティング重視のアーティストも多い中で、あんな風に自分の主観を詰めた作品を出す人ってあまりいないんじゃないかと思うので、「流行りを越えるような自身のこだわり」を感じて、「彼は本物のアーティストだな」と思いました。

――『分離派の夏』は素晴らしい作品でしたね。他にも「こんなものまで聴いている」というものはありますか?

人に驚かれるものだと……たとえば、ゴスペルですね。テイク6ってご存知ですか? 父親の影響でうちにCDがたくさんあって、10代の頃からずっと好きで聴いているんですよ。父親は音楽フリークで、クラシックの海外のアーティストを日本に招聘する仕事をしていたこともあったんですが、それに限らずオールジャンルの様々な音楽を聴く人でもあって。僕自身も、暇だったら親父のCD棚をあさっていることが多かったです。

――そうして色んな音楽を聴いていくと、逆にクラシック音楽ならではの魅力が分かってくるような部分もありますよね。

まさにそうだと思います。最近思うのは、「クラシックという言葉に、クラシック音楽自体が入りきっていないんじゃないか?」ということで。たとえば、「R&B」と聴くと、聴く前からだいたいの音が想像できると思うんです。でも、「クラシック」と言うと、そこには1600年代のバッハの時代から、1900年代のジョン・ケージのような音楽までを含めることが可能なので、その数百年にまたがっている音楽を「クラシック」と一言でまとめてしまうのは、あまりに乱暴なんじゃないかと感じていて。他のジャンルと比較すると、ジャンルの名前の中に、実際の音楽が入りきっていないような状況があると思っています。

――確かに、「クラシック」と呼ばれる音楽の中にはエクスペリメンタルのルーツもあれば、クラブ・ミュージックやミニマルの祖に当たるような人々もいるわけですよね。それを「クラシック」とくくってしまうことで、伝わらないことも出てきてしまう、と。

たとえば、「クラシックを聴いてみたい」という人がモーツァルトを聴いて興味を持てなかったとしても、ストラヴィンスキーを聴いたら刺さる可能性があると思うんです。

――そういえば、以前ジェイムス・ブレイクに話を聞かせてもらったときに、彼のメロディのルーツはエリック・サティだと話してくれました。彼自身はダブステップから影響を受けたアーティストとして世に出てきたと思いますが、その根幹にはクラシックの作曲家が影響を与えている。実は、色々な音楽は繋がっているんですよね。

僕もそう思うんです。だからこそ、「クラシック」という定義で歴史に線を引いてしまうのは、どうなんだろうと思っていて。僕の中でのクラシックの定義は、「数百年間ヒットチャートに君臨しているもの」であり、「すべての音楽が表現できる最強の音楽」なんです。そう考えると、僕にとってはある意味ビートルズもクイーンもクラシックなんですよ(笑)。

――なるほど(笑)。同時に、今「クラシック」と呼ばれている音楽ならではの個性や魅力のようなものもあると思います。その辺りについては、どんなことを感じますか?

たとえば、ライブだと分かりやすいと思うんですよ。現代のほとんどの音楽のライブは「生の音っていいね」と言っていても、その音はスピーカーを通して出ていたりしますよね。一方でクラシックの場合は、本当に演奏者が楽器を使って震わせた空気の振動が耳に届く「生音」で、100人以上の奏者が同時に演奏することもあります。これはクラシックならではの魅力なので、ライブに来てもらえれば、その魅力はきっと伝わると思うんです。ただ、「どうやってそこに来てもらうのか?」というのが難しいところで。そこを、自分たちの世代は考えていく必要があると思っています。

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――今回のミックスCD『Millennials -We Will Classic You』も、その手助けになるかもしれませんね。

そうなっていると嬉しいです。僕は「クラシックへの入り口を作る」ということをテーマに活動をしているので、そういう気持ちはもちろん強いですね。

――とはいえ、ものごとの魅力を理解してもらうということは、簡単なことではないと思います。最初は色々と試行錯誤を重ねたんじゃないですか?

試行錯誤は色々とありました。その際、僕が最初に意識を向けたのは「ヴィジュアル」ですね。最近は徐々に変わってきた部分もありますが、クラシック作品やコンサートのヴィジュアル要素は、現代の感覚ではとてもダサいものが多いんですよ。そこで今回の『ミレニアルズ』でも、マガジンハウスの刊行物などを手掛けられている長場雄さんにグラモフォンのロゴをリデザインしていただいて。全体のアートディレクションには、『君の名は。』のサウンドトラックのデザインを担当された方に入っていただきました。クラシックは、長く聴き継がれている音楽ですから、中身がいいことは歴史が証明してくれていると思うんです。だからこそ、僕らがやるべきことのひとつは、現代の角度からクラシック音楽をリデザインしていくことだと思ったんですよ。これは音楽的にも、同じようなことを考えていました。

――では、具体的にアルバム制作時に意識していたことを教えてください。

僕のクラシックDJとしての方法論は、ビートではなく「ハーモニーで曲を繋ぐこと」で、今回のアルバムもそれは変わっていないですが、一番困ったのは、作品として統一感を出すことでした。『Millennials -We Will Classic You』では、一番広いところでは、150年ぐらい離れた音楽のミクスチャーが生まれているので、曲が持っているテーマで統一感を出しました。ひとつの曲をベースにおかずを挟んでいくような方法でも制作をしていきましたね。

――作品を聴かせていただいて感じたのは、ビートを繋ぐクラブ・ミュージックのDJとも、リフで曲を繋ぐロックDJとも違って、クラシックのDJでは楽曲が持っているテーマやストーリー性のようなものでも曲が繋がっていくということでした。つまり、「クラシックDJならではの繋ぎ方があるんだな」ということで。

ああ、そう言ってもらえるととても嬉しいです。僕はそれぞれの楽曲をハード的な意味で繋ぐのではなくて、楽曲が持つストーリーやテーマをミックスしているんです。クラシックは、曲ごとにテーマがはっきりと設けられていて、「解釈」がものすごく大事な文化です。それに僕は、そもそも長い年月の中で生き残ってきたものは、「すべてコンセプチュアルである」とも思っていて。だからこそ、そのコンセプトをミックスすることで、新しい魅力を発見できるようなものにしたいと思っていました。たとえば、「死」というテーマは、誰しもが曲にしたり、詞を書いたりするテーマだと思うんです。だとするなら、その「死」を表現しているものの中でクラシック音楽に当たるものを揃えれば、統一性が生まれると思いました。

――実際、今回のミックスCDは「レザレクション…?」のところから、生と死がテーマになったストーリーが紡がれていますね。また、ストーリーで曲が繋がっているからこそ、観客の拍手や、劇場のドアを閉めたり、開けたりという音が曲自体を止めても、作品全体として繋がっているように感じられる雰囲気があって、これはクラブ・ミュージックのDJではなかなかできないことだと思いました。ひとつの映画を観ているような感覚と言いますか。

確かに、それはあるのかもしれないです。色々な友達に今回のミックスCDを聴いてもらったんですが、そのときにも「クラシックって映画音楽に似ているんだね」と言われることが多かったんですよ。それはもともと映画音楽自体が、オーストリアのコルンゴルトがアメリカにわたって映画音楽を手掛けたところからはじまっているからで、ジョン・ウィリアムスのような人たちも、みんな彼の音楽に影響を受けていて。そういう意味でも、ストーリー性を伝えるにはもってこいの音楽だということは、今回の作品を作りながらも感じました。

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――制作中、特に大変だったのはどんなことですか?

楽曲が演奏された年代が違うので、音源によって当時の録音技術が全然違うんですよ。いくらCD版でリマスターされているとはいっても、その差を調整するのはなかなか難しい作業でした。全体のレベル調整や音質の調整には苦労しましたね。独学でDTMの作業を進めていったんですが、仮に1曲に使っている曲数が6曲程度だとしても、トラック数自体は20数曲になっていて……。アルバム全体で、制作期間としては半年ぐらいかかりました。

――1曲でそのトラック数だと、かなり複雑な作業だったでしょうね。普段、指揮をされている方だからこそできたことなのかもしれません。

指揮者というのは客観的に音を聴く仕事ですし、アナログなPAのような存在でもありますよね。実際、リハーサルのときに各楽器の音量調整をするのも指揮者の役割ですし。そういう意味では、その技術をデジタルな領域にも活かすことができるんだな、と感じました。ただ、実際に使っている音源には既に指揮者がいるわけなので、それを受けての作業になるんですよ。色々な指揮者による演奏を、さらに指揮するような形になっていたんです。

――なるほど、かなりメタな構造に……(笑)。

僕はもともと指揮者として活動してきたので、最初はDJをすることに、少し違和感を覚えていました。もともと自分がやりたかったのは指揮者で、DJは試しにやってみたものだったので。でも、指揮者にアイデンティティがあったからこそ、DJにも挑戦できたのかもしれないですね。ただ、活動を続けていくうちに、今ではその両方を分ける必要がないようにも感じられてきて――。結局、どちらもプロデューサー的なものであり、さらに言うとキュレーター的なものでもあると思うんです。指揮者というのは、ひとつのコンサートにどういうテーマを設けて、どういう楽しみ方を提供するのかを考える仕事ですが、DJというのも、どういうコンセプトでどういう風に楽曲を楽しんでもらうのかを考えていく仕事なので。そうすることで、若者がクラブに向かうような感覚でコンサートホールに足を運んでもらえるような、そんなきっかけを作っていきたいと思っています。

――冒頭に話してくれていましたが、クラシックに触れる最初の接点を作るところがとても難しい、ということですよね。これはどんな分野でもそうだと思うんですが。

はい。たとえば、僕はもともとワインはあまり詳しくないんですが、詳しい友達がいるので最近色々と教えてもらっているんです。そして、一度知識を得てみると、そのもの自体をより楽しめるようになるんですよね。僕は今まで頭ごなしに「クラシックを聴けよ!」と言ってきてしまったんですけど、「知識を育てる」ことの大切さを、自分自身肌身で感じました。

――情報をどう伝えるかによって、受け取る側の印象も随分変わってくる、と。

そうですね。たとえば、クラシックは膨大な歴史を抱えている音楽なので、その中には面白い逸話が色々とあるんです。そこに関わる人々が語った名言も、本当に色々とあって。たとえば、そういうものをきっかけにしてクラシックの魅力を伝えていくと、色んな人が興味を持ってくれるのかもしれないですよね。これからクラシックDJの仕事の一環として、音楽活動だけではなく、あらゆる意味でキュレーター的な役割を果たしたいとも思っています。

――まさに「We Will Classic You」ですね。ちなみに、このサブタイトルは1曲目“ノット・ソー・ロング・タイム・アゴー”の最後に言葉としても印象的に挿入されていますが、これはどんなアイディアだったんでしょうか?

バーンスタインのリハーサル映像の中に、「It’s music, I mean it’s not beat」と言っているものがあるんです。それを僕は、「現代の音楽はあまりにもビートに意識が向きすぎているけれど、これは音楽なんだから、もっと広く見てみようよ」という意味に捉えていて、「いい言葉だな」と思って。そこで、その言葉をフェードインさせてから「We Will Classic You」と自分の言葉を繋げました。僕はもともとバーンスタインをすごく尊敬しているんです。彼は作曲者であり、指揮者であり、同時に教育者でもあって。TV番組で「クラシックってこんなに面白い文化なんだよ」ということを若い世代に伝えていった人でもあるので。それは自分の活動を通して伝えたいことと共通する部分があるので、彼の言葉を引用させてもらいました。

――「音楽には色んな楽しみ方があって、この作品もそのひとつだよ」という?

はい。まさにそういうことです。

――ミックスCDを出したことで、状況が変わってきている部分も感じていますか?

クラシックDJに関しては、当初は自分の自主企画で色々と進めていたんですが、そこにレーベルからいただくお仕事が増えてきて、以前よりもさらに、自分がクラシックの魅力を伝えられるオフィシャルな機会が増えていますね。それはとても嬉しいことです。それに、これまで僕はザルツブルクに住んでいて、日本に活動の足場がなかったので、そこから帰ってきたタイミングでこういう活動の場ができたことも、とても大きい気がします。僕は日本の音楽大学を卒業していないので、日本では自分のオーケストラを企画したりしなければ、指揮者として活動することがほぼできないんですよ。日本のクラシック界では、レールがほとんど一本しかなくて、そこに乗らなければ活躍することは難しいので。でも、逆に言えば、日本での学歴もなく、賞レースでの受賞歴もない自分のような存在が、こうしてデビューできていることは、後に続いてくれる人たちに可能性を見せたことになるのかな、とも思っていて。「こういう人もいるんだな」ということを見せていければいいな、と思っていますね。

――「こういうやり方もあるよ」ということを見せていく、と。もちろん、日本のクラシック界と協力できるところがあれば、協力していくということですよね。

もちろんです。よくない環境は変えていく必要があるとは思うんですけど、同時に、僕自身もクラシックの環境に育てられてきたところが確実にあって。気持ちとしては、「音楽に恩返しがしたい」ということなんです。これまでを振り返ってみたとき、もしも音楽に出会っていなかったら、自分の人生はこんなに面白いことにはならなかったと思いますし、こんなにたくさんの人に出会うこともなかったと思います。だからこそ、その音楽をもっと色んな人に聴いてもらいたいし、それを100年、200年後の時代にも残していきたい――。そんな風に思いながら、活動をしていますね。

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RELEASE INFORMATION

Millennials -We Will Classic You-

2018.9.5(水)
UCCG-1813
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