オーストラリア出身ながら、英米のロック・シーンで大きな注目を集める女性シンガー・ソングライター、コートニー・バーネット(Courtney Barnett)。デビュー・アルバム『Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit』は、ブリット・アワードでインターナショナル女性ソロ・アーティスト賞を受賞。

さらにグラミー賞の最優秀新人賞にノミネートされるなど高い評価を受けるなかで、待望のセカンド・アルバム『Tell Me How You Really Feel』が届けられた。

ゲストには、今年10年振りの新作を発表したザ・ブリーダーズのキム・ディールとケリー・ディールが参加。前作より荒々しく、エモーショナルになったサウンドには、いまの社会に対する彼女の力強いメッセージが込められている。音楽に誠実に向き合いながら、自分を取り巻く世界に向けて一歩踏み出した彼女に話を訊いた。

Tell Me How You Really Feel…

Interview:コートニー・バーネット

——デビュー作は大きな注目を集めましたが、そのことで生活や音楽活動に変化はありました?

そうね……以前より私に興味を持ってくれる人が増えた。そして、以前より旅して回るようになったことくらいかな。それ以外に大きな変化はないと思う。家でテレビを観て、映画を観て、読書をして……そういう、これまでやってきたことは相変わらずだし。

——ペースを崩すことなくやっていけているわけですね。

ポジティヴな変化というと、旅を通じて今まで知らなかった世界が開かれたってこと。そして、人間にはいろんな振る舞いがあるのがわかったこと。そういったことを知ったことで、人間として、そしてソングライターとしても、自分が成長する助けになったと思う。世界中をツアーで旅して、そこで体験したことを通じて、自分は以前よりももっとポジティヴな人間になったんじゃないかな。昔ほどネガティヴな面にとらわれなくなってきたから。

——新作は前作以上に激しく生々しい印象を受けましたが、どんな心境でアルバムの制作に入ったのでしょうか。

アルバムに取りかかった時は、ちょっとダークな心境にいたの。自分の周囲の世界を見回してみると、そこには多くの怒りと悲しみがあって、そうした感情を振り払うことができなかった。それをどうやって歌として表現したらいいのか悩んだわ。ただ不平を言ってるだけに聞こえるのが嫌だったから、そういう感情を歌うことをこれまで避けてきたけど、今回はしっかり向き合ってみようと思ったの。さっきも言ったけど、昔よりも世界を旅するようになったことで、これまでよりオープンな人間になったことで、現状に参加しよう、目の前にある問題に対して発言していこうと思うようになったんじゃないかな。

——その気持ちの変化がヘヴィなサウンドに繋がったんですね。とくにギター・サウンドが前作以上にラウドになりました。

そうね。前作より存在感をもたせるというか、リード楽器っぽくしたかった。ギター・ペダルをいじったり、奇妙なサウンドも盛り込んで、曲によってギターのいろんな面を見せようと思った。

——曲作りのアプローチには何か変化はありました?

ピアノをちょっとやってみた。ピアノを独学で弾こうとしたし、ドラムもどうやってプレイすればいいか自分なりやってみたわ。そうやって、色んな楽器の弾き方を学んでいくのも、曲を書いていくプロセスの一部だった。曲を書きながら演奏法を独学していたわけだから。あと、普段自分が使っているのとは違うギター・チューニングを試しにいじってみたりしたし。

——そういえば、新作のプロモーションビデオで、ピアノやドラムを試すように演奏していましたが、それって実際にやっていたことだったんですね。

うん。だから、あの映像に映っていた姿が、ある意味、自分の(今作に向けた)曲の書き方だった。最終的に自分でプレイしたピアノやドラムはレコーディングしなかったんだけど、デモテープみたいなものは少し作ったの。

——今回、ザ・ブリーダーズのディール姉妹が参加しています。あなたがザ・ブリーダーズの新作『All Nerve』に参加したことがきっかけだったのでしょうか。

彼女達との交流は、2、3年前にキム・ディールと『Talkhouse』というポッドキャストで共演したのがきっかけだった。それ以来、彼女とは連絡を取っていて、オハイオに行った時、ザ・ブリーダーズのレコーディング中のスタジオに顔を出したら、ヴォーカルで参加することになったの。で、彼女がそのお返しをしたいということだったから、曲を送ってみたら今度は彼女とケリーが歌ってくれたというわけ。彼女達はレジェンドだけど、緩慢なところは全然なくて、一緒にいて楽しくて親切だった。とくにキムは私のことをすごく応援してくれて嬉しかったわ。

The Breeders – Nervous Mary (Official Audio)

——アルバム収録曲“Crippling self-doubt and a general lack of confidence”では、ディール姉妹がアルバム・タイトルのフレーズをコーラスで歌っていますね。

“Crippling self-doubt and a general lack of confidence”は、ある意味、皮肉を込めた曲なんだけれど、それと同時に真顔で歌っている曲というか(苦笑)。あの曲に書かれている自分に対する自信の欠如って、私がティーンエイジャーの頃から抱え込んでる問題なの。

——自分に自信がないから、相手に対して《あなたが本当にどう思っているか聞かせて(Tell Me How You Really Feel)》って尋ねたくなる?

そうね。相手のことをちゃんと理解してコミュニケーションをとるって難しい。それに本当の自分に正直でいることも。自分をさらけだして相手に拒否されたらどうしようって思うと恐いし。そこで「あなたが本当にどう思っているか聞かせて」って相手に尋ねるのは、その最初のステップじゃないかな。

——確かにそうですね。“Nameless, Faceless”の歌詞は、『侍女の物語』で知られる作家、マーガレット・アトウッドの言葉を引用したそうですね。《男は女に嘲笑われることを恐れてる 女は男に殺されることを恐れてる》という歌詞からは、いわれない暴力や差別に対する怒りが伝わってきます。

ネットのひどい書き込みをいろいろ見て、うんざりしていたの。でも、どうしようもないことだし、こういう現状を受け入れるしかないと思ってた。恐い思いをしないために、男性のエゴを傷つけないように気をつけなくてはいけないって。でも、今ははっきり気付いた。“そういう状況を受け入れる必要なんてない”って。アルバムのレコーディングをしていた時、暗くなってからスタジオから家に帰ることも多かったけど、そのたった20分の道のりを不安に感じていたの。だから、実際に誰かが襲われたという記事を読むと本当に腹が立って。そんなこと、絶対あってはいけないことだし、改善しなきゃいけないことだと思ったの。それって、とても悲しいことだし、世界中で抱えている問題だから。

——そうですよね。先ほど、「現状に参加しようと思うようになった」と言われましたが、社会問題を曲の題材に扱うにあたって注意したことはありますか。

いちばん気になったのは、自分が思っていることをちゃんと表現できているのか?っていうこと。うっかりして、間違ったことを言ってるんじゃないかって。そもそも、私は政治的な人間じゃないし、何でも知ってるわけじゃないから、間違ったことを言って、誰かがショックを受けたらどうしようって考えたりもしたわ。あと、そういうことを歌で主張することで、そこで取り上げられた人々が私に対して敵意を抱くような気がして、それがちょっと恐かったりもする。

——相手を逆上させるかもしれないから?

いいえ。私はそういう人達のことを恐れていない。ただ、彼らが一方的に私に反発して、メッセージにまったく耳を傾けようとしなくなるんじゃないかと思って、そっちの方が恐いの。だって、伝えたいと思ってる相手が全く耳を傾けないのなら、歌うことに意味があるんだろうかって思うから。自分がいるところとは反対側にいる人達に、どうやったらメッセージを届けられるのか。それはいつも注意深く考えていることよ。

コートニー・バーネット 「ネームレス、フェイスレス」【日本語字幕ヴァージョン】

——とても誠実に音楽に向き合っているんですね。今回、アートワークを初めてポートレートにしたのは、自分を曝け出してメッセージを送るという意味なのでしょうか。

そういうわけではないの。ここしばらく出してきた作品は、ほとんどが自作のドローイングとかイラストだったんだけど、ドローイングは最近あまりやらなくなっていて。その代わり、このアルバムを作っている間にたくさん写真を撮ったの。大半はポラロイド写真だった。というわけで、いざアルバムのアートワークを考える段になって、自分で撮っていたセルフ・ポートレート写真を眺めていたら、ジャケットに使った写真がそのなかでも際立っていた。そこに、とても強烈なイメージを発している気がしたの。

【インタビュー】コートニー・バーネットが問題意識と向き合った新作。世界を旅して得たものとは? interview_courtneyburnet_2-1200x1200

——あの写真のどういうところに惹かれたのですか?

かなり曖昧で、いろんな解釈ができるイメージだと思った。ぱっと見て、私が何を考えているのか分からない。そういうところがアルバム・タイトルのイメージにあってると思う。ジャケットに写っている、あの妙な表情をした人物を見たら、あなただって訊きたくなるでしょ?“一体あなたは今、何を考えているの?”って(笑)。

——そうですね(笑)。そして、あなた自身も自分に“あなたは何を考えているの?”と問いかけている。

確かにその通りね。自分でも「この写真を撮った時に何を考えていたろう?」って思う。今となっては、全然思い出せないけど(笑)。

RELEASE INFORMATION

Tell Me How You Really Feel

【インタビュー】コートニー・バーネットが問題意識と向き合った新作。世界を旅して得たものとは? interview_courtneyburnet_2-1200x1200

2018.05.18(金)
コートニー・バーネット
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