でこそシンセサイザーなどのデジタル機器を導入したロックは巷に溢れているけれど、そんなサウンドが<エレ・ポップ>の名の下に一般レベルで浸透し出したのは70年代末のことで、当時としてはそりゃもう画期的なことだった。とりわけ78年にデビューを飾ったゲイリー・ニューマンの登場は衝撃で、そのアンドロイド風の容貌をはじめ、無機質でミニマルなサウンドといい、一切の情感を排除したような(逆説的にいえば)<人力ボカロ>のようなボーカルといい、重度のコミュ症の如き歌詞といい、とことん非人間めいたイメージを徹底させていた。でもコレ、仮想現実が氾濫する今の時代にはまさにジャストな音楽かもしれない。

以後も名曲“カーズ”など大ヒットを飛ばしつつ、より広範なサウンド・アプローチを展開。そして、90年代に入ってマリリン・マンソンやナイン・インチ・ナイルズらが熱いリスペクトを表明したことで、<インダストリアル・メタル>の源流的存在として改めて評価が見直されることになったのだから痛快だ。

新作『スプリンター(ソングス・フロム・ア・ブロークン・マインド)』は、90年代以降に(後続からのラブ・コールを反映させつつ)彼が取り組んできたヘビーなダーク・エレクトロニクス路線を突き詰めた傑作。テクノ畑の辣腕プロデューサー、エイド・フェントンによるストイックな音処理と、ナイン・インチ・ネイルズのロビン・フィンクらによる攻撃的かつ深みのあるサウンドもさることながら、自身の心の内に潜む憂鬱や怒りといった仄暗い感情をいつになくロウな歌唱によって耽美に吐き出すゲイリーの存在感は、やはりタダゴトではない。デビュー当時とは異なり、ここには彼のパーソナルが色濃く滲んでいる。けれど、決して時代の波に流されない冷徹といってもいいほどの客観性と、臆することなく前進を潔しとするスタンスは30年以上を経ても何ら変わっていない。後続アーティストや僕らリスナーをいまだ魅了して止まない彼のクールで先鋭的な姿勢と、その狭間から滲み出る思いのほかジェントルな人間性は、以下のインタビューからも十分すぎるほど読み取れるはずだ。

Interview:Gary Numan

アルバム『Splinter (Songs From A Broken Mind)』トレーラー

――貴方の数あるリリース作の中において、この最新作はどのような位置づけになりますか?

これはおそらく、自分の作品の中でも最も重要な作品だと思う。前回のアルバムから7年もの時間が経つわけだけど、その間、俺も年を取ったし、キャリアのアップダウンも激しかった。ここ10~15年は良くなってきてるんだけどね。今はLAに引っ越してきたし、人生がまた新たに始まった感じだよ。家族全員で越してきたから、かなりの大移動だったんだ。このアルバムには、その大変な時期や移動までの全てが沢山詰まってる。だからこのアルバムは大切なんだよ。ライティングもプロダクションも最高だし、一緒に作業したチームも良かった。素晴らしいチームなんだ。PRもディストリビューションもそうだし。こんなに素晴らしいアルバムはない。このチームで続けていきたいから、本当にこのアルバムには上手くいって欲しいんだ。俺って心配性だから、今それがちょっと不安でね(笑)。でも良いアルバムが出来たと思ってるから、それには、とても満足してるよ。

――皆の反応が心配ということですか?

リリースは10月なんだけど、その後がどうなるか・・・って。アルバムが仕上がった事、これから発売される事もとても嬉しいけどね。それぞれの曲を書き終えるたびに、上手くいったと実感できていたし。これは良い曲のコレクションだと思う。でも、やっぱり人のリアクションは気にはなるんだ(笑)、気に入ってくれるかどうか。さっきも言ったように、心配はしてる。でも同時に、興奮もしてるんだ。

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