——では、90年代だとどの辺りの曲が思い出に残っていますか?

90年代はやはり、“ロマンス”です。これはトーレ・ヨハンソンさんにプロデュースをしていただいた曲で、当時カーディガンズの“Carnival”がヒットしていて、それを聴いて(プロデューサーを務めていた)トーレさんにお願いをしました。当時は、この曲で新しいファンの方と出会えたという感覚がありました。女優としての私というよりも、“ロマンス”という曲が好きでライブに来てくださる方や、音楽が好きな人々との出会いが生まれた曲です。そういう面でも、私にとってはすごく意味のある曲ですね。

——あの時期にトーレ・ヨハンソンを迎えることもそうですし、現在に至るまでのどの時期でもそうだと思うのですが、原田さんはとても素敵なセンスをされている方ですよね。

ありがとうございます(笑)。音楽の作品づくりは、誰とお仕事をするかによって、ある程度決まってくることがあると思うんです。私の場合は、(鈴木)慶一さんもそうですけど、本当にいい出会いに恵まれました。新しい自分を引き出してくれる人たちとたくさん出会えたし、今思うとタイミングも順番も完璧だったんじゃないかと思います。準備がある程度整ったときにこの人と会えて、また準備が整った頃にこの人と会えて……というように、本当に不思議な出会いに恵まれていて。それは本当に幸せなことだと思っています。

——今回セルフカヴァーした“ロマンス”はどんな風にアレンジしていったんでしょう?

“ロマンス”はゴローさんいわく「完璧な曲」で、そのよさをできるだけ残しつつ、新しいものになるように意識しました。この曲は、最近のライブではスローなアレンジで歌っていたんですよ。なので、原曲に近いアレンジで歌ったのは本当に久しぶりで。“ロマンス”と“愛のロケット”は、当時の私にとっても最大限に気持ちを上げて、声の明るさを出して歌うような曲だったので、今回は、当時スウェーデンからメンバーの方がきて一緒にツアーを回ったりしたときのウキウキとした気持ちを思い出して、久々に気持ちをぐっと上げて歌ってみました。何とかクリアできたと思います(笑)。

原田知世 – 「ロマンス」

——“愛のロケット”もまさに、当時のあの雰囲気が見事に残されているアレンジで。

そうなんです。でもちょっと大人っぽくなった部分もあって。いい具合になりました。

——先ほども話していただきましたが、90年代は、原田さんのことをアイドル/女優として認識していた人々が、同時にミュージシャン/アーティストでもあるということを知った時代だったのではないかと思います。

90年代の半ばに鈴木慶一さんとご一緒しはじめたときに、「ちょっと違うことをやりはじめたな」と思ってくれた方もいたと思うんです。でも、一般的に「この曲」という形で浸透したのは、きっと“ロマンス”で。この頃から、私の女優の面は知らないけれど、「この人の歌が好き」と言ってくださる方も出てきてくれるようになったんですよ。

——もともと、ミュージシャンとしてもしっかり活動していきたいという気持ちはあったんですか? それとも、徐々にその気持ちが出てきたのでしょうか。

徐々に、ですね。お芝居の場合は、役を通してのパブリック・イメージがいつの間にか出来上がっていて、もちろんそれも自分自身なんですけれど、この頃私は20代になって、それに合わせて生身の私自身もどんどん成長していって。そういうものを表現する場所として、音楽が生まれてきたという感覚でした。そこから、今に繋がっていると思います。

——女優としてだけでなく、ミュージシャンとしても活動していくことで、お互いの仕事にも得るものがあるという、理想的な形のスタート地点だったのかもしれませんね。

そうですね。“ロマンス”で自分の好きな音楽を形にして、そこで“手応え”を感じられたことで、私自身ひとつ小さな自信ができて。そこからは、お芝居をするときも、毎回デビューをするような気持ちで臨むようになりました。「誰も今までの私を知らない」「毎回新しい人だ」という気持ちでお芝居にも取り組むようになったんです。それは、“ロマンス”でこれまで私の知らない人に知ってもらえた経験があったからこそだったと思います。つまり、「女優としても、パブリック・イメージにとらわれず、色々なことに取り組めるんだな。」「どこからでも変化していけるんだな」ということを学んだというか。そうやってフィードバックする部分がありましたね。

【インタビュー】原田知世、“時をかける少女”、“ロマンス”も収録!デビュー35周年記念アルバム『音楽と私』を語る interview_haradatomoyo_5-700x560

——では、続いて00年代で選ぶなら……。

“くちなしの丘”ですね。

——この曲はキセルが楽曲提供をしている曲ですね。

もともとキセルさんの音楽がすごく好きだったのでお願いしました。この曲は、歌っていても本当に心地いいんですよ。

——原田さんのライブでも定番曲のひとつになっています。

ファンの方にも、この曲が好きな人はたくさんいると思います。今回は、私がギターを弾きました。去年の暮れからずっと練習をして。毎日、気が付くとギターを長い時間弾いていましたね。それができたのはこの曲だったからだと思うんです。特に最初は、何度弾いてもずっとたどたどしくて……。

——原田さんはこれまでずっと第一線で活躍するギタリストの方々と作品を作っていたと思うので、余計にハードルが上がった部分もあったのかもしれませんね。

「何でできないんだろう?」と思いながらずっと弾いていました(笑)。でもそのときに、「これはきっと、好きな曲だからできることなんだな。」と再確認しました。

——オリジナル版には、キセルのコーラスも加わっていましたが、今回のセルフカヴァー版では原田さんだけの声で表現されていますね。

結果として、シンプルなものになりましたね。この曲もゴローさんがアレンジをすごく悩まれていました。キセルの音楽には独特のキセル・ワールドがあって、それをアレンジするには「どうしたらいいだろう?」ということを話していて。でもそのとき、たまたまそこにいたスタッフの方が、『music & me』を出した頃にNHKの特番で慶一さんとゴローさんと3人でギターを弾きながら歌ったことがあったのを例に出して、「あれが一番この曲らしいんじゃないか」と言ってくださったんです。それで、どうせなら私の弾き語りでレコーディングするのがいいんじゃないかと提案されました。それで、「どこまでできるかは分からないですけども、練習します。」と、3か月ぐらいギターを練習したんです。

——3か月練習して臨んだとは思えないぐらい、とても自然で上手なギターだと思いました。今回こうして作品に残せたことで、今後できることも広がってきそうですね。

決して上手くはないですけれど……(笑)。ギターはこれからも練習しようと思っています。