——“Kawakaari”“432”“融合ワルツ1839”というタイトルも、それぞれ面白いですね。

“Kawakaari”は、日本語の「Kawaakari=川明かり」のことだね。それをスペルミスした結果、新しい言葉を発明してしまった(笑)。それから、“432”というのは、周波数“432ヘルツ”のこと。一般的に、ピアノは440ヘルツが基本とされているんだけど、僕はそれって自然や宇宙と上手く調和していない周波数だと思っていて。それより少し落とした、432ヘルツがちょうどいいと思う。自分のピアノは440ヘルツではなく、この432ヘルツに調律してあるんだよ。

そして最後の“融合ワルツ1839”は、1839年に発表されたある銅版画(エッチング)が題材になっている。そこに描かれているのはダンス・パーティーで黒人の男性と白人の女性がワルツを踊る風景で、それが人種の融合をはじめとして、色々なことを感じさせてくれる。そこからタイトルを取ったんだ。ちなみに、アルバムのアートワークは見た? 今回ジャケットの色がグレーになっているのは、黒でも白でもなく、(その2つが融合した)「グレー」を表現したかったからなんだ。

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『プリヘンション』ジャケット

Joep Beving – Kawakaari

——つまり、黒はそれだけでは白になれないし、白はそれだけでは黒になれないですが、2つがあることによって生まれるグレーなら、その両方を繋ぐことができる、と。

そう。“融合ワルツ1839”という曲名は、今回のアルバムのテーマとも繋がっているんだよ。

——次作については「クワイアやエレクトロニクス、ストリングスなども使ってみたい」という話をしていますね。今まさに、できることが広がっているという感覚ですか?

そうだね。今こうして自分の作品が出せるようになった状況はすごく嬉しいことだけれど、同時にまだ自分にとって分からない世界もあるし、色んなことに挑戦してみたいとも思っているんだ。僕は長く音楽をやっていきたいと思っていて、そのためには、ひとつのことだけをしていてはダメだと思う。

たとえば、将来的にバレエの音楽をやってみたいとしたら、ピアノだけではダメで、他の要素も必要になってくるよね。それに、最近はフェスティバルに出るようになって、今は朝の早い時間帯のスロットだけれど、もっと遅い時間帯に演奏できるようになれば、他のミュージシャンと一緒にステージを作ったり、エレクトロニックな要素を加えることも考えていきたい。それから、僕は映画音楽もやりたいと思っているんだけど、そのためにはストリングスのアレンジの経験も積む必要が出てくるよね。そうやって、自分のできることを増やして、自分の音楽の可能性も広げていきたいと思っているんだ。

——こうして日本に来られるということも、活動の広がりを感じられる出来事ですね。日本でカルチャー・ショックを受けたものはありましたか?

いや、思っていた通りだったよ(笑)。もともと日本について知っていることもあったから、カルチャー・ショックは受けなかったんだ。ただ、実際に来てみて思うのは、よく言われる通り、日本って本当に人が多いのに、変なノイズがなくて、それがいい意味ですごくクレイジーだということ。すごく清潔だし、西洋人にとっては驚くことばかりだよ。そして、細かいディテールへのこだわりやそれに対する愛情、センス、美学、感謝の気持ちがある。これだけ人が多い国なのに、みんながそれぞれ自分の仕事に対してこだわりや愛情を持っている気がして、街の守衛さんひとりをとっても、とても美しく感じられるよ。

——その「ディテールへのこだわり」というのは、『プリヘンション』で引用した“川明かり”の世界観に通じるものかもしれませんね。

“川明かり”はネットで見つけた言葉なんだけど、僕はまさにそういう雰囲気の言葉を求めていた。(日が暮れて水面に月のあかりが反射された)川があって……それが常に終わることなく流れている。“Kawakaari”は夜の風景を巣蔵して作った曲だということもあって、僕にはこの言葉が、そのイメージにすごく合うと思えたんだ。

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RELEASE INFORMATION

プリヘンション

2017.06.21
ユップ・ベヴィン
UCCH-1044
¥2,700(tax incl.)
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text & interview by 杉山仁
photo by Yoshifumi Shimizu