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身長2mを超える大柄な体格からは想像できないほど繊細で優しい音色を奏でるプレイ・スタイルから“ジェントル・ジャイアント(=優しき巨人)”と称されるオランダのピアニスト、ユップ・べヴィン(Joep Beving)。彼が〈ドイツ・グラモフォン〉と契約して最新作『プリヘンション(Prehension)』を完成させた。

Spotifyだけで既に6,000万回近く再生されている15年の初アルバム『ソリプシズム』で、ポストクラシカルと映画音楽とミニマルからアンビエントの中間を行く癒しの要素を持った独特の音楽性を確立した彼は、本作で自分をより一歩引いた場所に置き、コンポーザー的な能力をさらに生かすことで、様々な人の集合体としての人間=世間と、現実との関係性を描くことに挑戦。

パーソナルで親密な魅力を保ちながらも、同時によりスケールアップした雰囲気が全編を覆っている。幼少期からそこに至るまでの過程や、日本語からインスパイアされた楽曲もあるという『プリヘンション』の制作過程を聞いた。

Interview:

【インタビュー】 “優しき巨人” ユップ・ベヴィンが奏でる温かいサウンド。世界と現実との関係を描いた最新作の魅力に迫る interview_joepbeving_2-700x466

——あなたの音楽には、とてもパーソナルな部分から出てきたことを感じさせるような雰囲気がありますね。そもそも、音楽と出会ったきっかけはどんなものだったんですか?

両親がピアノを持っていたこともあって、3、4歳頃に僕もピアノを弾きはじめたのが最初だったよ。でも、それからピアノは弾いたり弾かなかったりして、長く弾かなかった時期もあったんだ。ただ、その間もずっと音楽は好きで、「いつか自分のレコードを作りたい」ということは考えていたよ。それをピアノで作ることになるとは思っていなかったけどね。

——へええ。では、当時はどんな音楽に惹かれていたんでしょう?

小さい頃は、ジャズやマイケル・ジャクソンが好きだったんだ。それから14、15歳の頃に一度はクラシックを聴きはじめるんだけど、その後僕はグランジやオルタナティヴ・ロックにハマっていった。それでペイヴメントやニルヴァーナ、サウンドガーデン、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ピクシーズ、バッド・レリジョンのような音楽に夢中になったんだ。当時の僕はスケーターで、ペニーワイズも好きだったよ。それからエレクトロニック・ミュージックやアシッド・ジャズ、ジャングルのような音楽も聴くようになった。それが22歳ぐらいまでの話。そこからは、「すべての音楽を聴く」という感じになっていったんだ。

——あなたほど体格がいいと、スポーツに誘われることも多かったんじゃないかと思います。それでも音楽にのめり込んだのは、もともとの性格が関係していたんでしょうかね?

そうだと思うな。僕はずっと、運動よりもアートやカルチャー、言葉の方が好きだった。これはうちの親もそうだったからね。そういえば16歳の頃、バスケットボール・チームに入って、22から23歳の人たちと一緒にプレイしたこともあった。僕は背が高いからセンターで、ボールを受けるという役割でね。でも、あれはすごくフィジカルなゲームで……指を痛めてしまったりする。それで音楽に集中することにしたんだ。それに、僕はもともとあまりスポーツが得意じゃなかったんだよ。「White Men Can’t Jump(=白人は跳べない/映画『ハード・プレイ』の原題)」という言葉があるけれど、あれはまさに僕のことだね(笑)。ホッケーもテニスもスケートもやったけど、どれも全部向いていなかったんだ。

——その後アップライト・ピアノの蓋を開けて演奏するというスタイルを確立して、ミュージシャンとしてデビューするわけですが、これは音を大きくしたり、ピアノを打楽器的に使ったりするためにはじめたスタイルだったそうですね。ただ、普通の人は「音を大きくしよう」と思っても、この奏法を思いつかないと思うんですよ。何か、この奏法を発見するきっかけのようなものがあったんでしょうか。

今のスタイルは、頭で考えたというより、ごく自然に生まれていったんだ。僕はもともと祖母のピアノを弾いていたんだけど、そのときにモデラート・ペダル(弦とハンマーの間にフェルトが挿入され柔らかい音になる弱音用ストップ)を踏んで弾くと、自分の思うような理想の音になることに気づいたんだ。

そういう経験があって、僕は自分が奏でる音を、温かい毛布にくるまれているような音にしたかった。それに蓋を開けて弾くと、中に埋め込まれたハンマーが動いて音が鳴るという、ピアノの仕組み自体が鳴る音も聞こえてくる。それがまるで「ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response:聴覚や視覚への刺激によって感じる、心地よく、頭がゾワゾワするような感覚)」のように、本来聴こえてこない音までが聴こえるような効果をもたらして、とてもリラックスできることにも気づいたんだ。

そこに録音で最後にテープ・コンプレッションをかけると、ヒス・ノイズのような効果が生まれたりもするしね。特に、今回の『プリヘンション』は、前作とは違って自分がズームアウトして大きな空間の中に音が存在しているような作品にしたかったこともあって、このスタイルがより活きてきたような気がする。もちろん、親密さは保っていると思うんだけどね。

【インタビュー】 “優しき巨人” ユップ・ベヴィンが奏でる温かいサウンド。世界と現実との関係を描いた最新作の魅力に迫る interview_joepbeving_5-700x466

——話を聞いていると、あなたはプレイヤーでありながら、同時にプロデューサー的な視点を持っている方なのかもしれませんね。今回の作品では、その魅力がより追究されているように感じました。

前作にあたる『ソリプシズム』は、自分と、自分以外との関係性を定義するような……言ってみれば「ひとり」の作品だった。つまり、ピアノの前にひとりで座っているようなアルバムだったんだ。でも、今回の『プリヘンション』は、もっとより多くの「集合体」としての人間と、現実との関係を描こうと思った。

だから、さっき話したように視点をズームアウトして考えていったんだけど、そうするとそこには色んな人間がいるわけだから、音数が前作に比べて増えたし、より空間を意識することになったんだと思う。相変わらず小ささもありながら、同時にもっと大きなバックグラウンドもあるような……そんな作品になったんじゃないかな。

ただ、僕の場合、音楽を作るときはピアノの前に座ると、そこに音楽が降りてくるような感覚だから、それを「いい/悪い」と批評する立場にはいなくて、与えられたものを受け入れるという感覚なんだ。一度そこから離れて、また戻って……。そうすることで1枚のアルバムになっていく、という感じなんだよ。

——なるほど。「ひとりの作品ではない」という話に繋がるかもしれませんが、『プリヘンション』には曲名に人の名前が入っているものがありますね。たとえば“ピッパのテーマ”の「ピッパ」は、キャサリン妃の妹・フィリパ・ミドルトンと同じ名前になっていますが……。

はははは! 実はそれは、僕の2番目の娘の名前なんだ(笑)。前作に“Sleeping Lotus”という曲があるけれど、そのロータスというのが1番目の娘の名前でね。2枚目を作るときに、奥さんから「2番目の子供のことも忘れないで」と言われて「ピッパのテーマ」を作った。とはいえ、今回は特定の人というよりも、もっと大きな意味で世界と現実との関係を描いていったんだ。現実を形作るのも人間だし、現実を変えるのも人間で、人にはそれを正しい方向に変える責任があると思うからね。

Joep Beving performing Sleeping Lotus live

杉山仁

杉山仁

ライター

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