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ロバート・グラスパー(Robert Glasper)らとともに新世代のジャズ・シーンをけん引してきたシンガー、ホセ・ジェイムズ(Jose James)。彼が最新アルバム『リーン・オン・ミー』を完成させた。この作品は、今年生誕80年を迎えた伝説的なシンガー、ビル・ウィザース(Bill Withers)の楽曲に新たな解釈を加えたトリビュート・アルバム。ほぼ全曲が打ち合わせなしの一発録りで進められ、曲ごとに表情を変えていくホセ・ジェイムズのボーカルと、ネイト・ スミス(Dr)、ピノ・パラディーノ(B)、クリス・バワーズ(Key)、ブラッド・アレン・ウィリアムス(G)からなる鉄壁のバンドや、黒田卓也&コーリー・キングによるトランペット、そしてゲスト・ボーカルとして参加したレイラ・ハサウェイの歌声との掛け合いが楽しめるものになっている。

Lean on Me: José James Celebrates Bill Withers (preview)

また、彼はアルバム・リリースに先駆けてトリビュート・ライブも始動。日本でもアルバム・リリース後の10月末~11月に公演が予定されている。作品を完成させて日本にやってきたホセ・ジェイムズに、アルバムの制作風景と敬愛するビル・ウィザースへの思いを聞いた。

interview:

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――今回の一連のプロジェクトは、どんな風にはじまったものだったんですか? 

デヴィッド・ボウイ(David Bowie)、レナード・コーエン(Leonard Cohen)、プリンス(Prince)……。僕はここ数年で自分のヒーローをたくさん失ってしまって落ち込んでいた時期があったんだ。「これから、音楽の未来ってどうなるんだろう?」って。そういうとき、音楽業界では決まってトリビュート・アルバムを出すと思うんだけど、そうやって偉大な故人を尊ぶのは素晴らしいことであると同時に、「だったら、生きているうちにトリビュートをして、彼らへの愛を伝えるべきなんじゃないか?」と思ったんだ。それが今回のプロジェクトのはじまりだよ。以前から僕はライブでビル・ウィザースの曲を3曲ほどメドレー形式で披露していて、観客からも「これをぜひレコーディングしてほしい」と言われていたし、今年はちょうどビルの生誕80周年。だから、タイミングとしてもバッチリだと思ったんだ。まずはライブでトリビュートをはじめたら、その噂を聞きつけたブルーノート社長のドン・ウォズ(Don Was)から「アルバムを出さないか?」と声がかかって、彼がプロデュースしてくれることになった。今回、ツアーとアルバムを通して『リーン・オン・ミー』というタイトルを付けているのは、この曲が持つメッセージがすごく今の社会に意味を持つものだと思ったからだね。異なる価値観を持った人たちがひとつのコミュニティが団結することを通じて、ポジティブなところに向かっていくような雰囲気が、この時代に必要なことだと思ったんだ。

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――今回はリヴィング・レジェンドへのトリビュート盤とあって、アルバムの制作前にビル・ウィザース本人にも会うことができたんですよね?

うん、とても貴重な経験だった。僕らは多くの場合、アーティストを写真やMVやライブで知ることになるわけだけど、それって実はアンフェアな話で、本当のその人の人間性とは違っていたりもする。僕もビルに実際に会う前は、彼がどんな人か分からないからナーバスになっていたよ。彼が世に送り出した楽曲をライブで歌うだけなら一回限りでいいけれど、今回は作品としても残すわけだからね。それに、聴いた人に何か言われるだろうことも分かってた。僕だって、誰かが「トリビュート作品をつくっている」という話を聞いただけで、「どうせよくないだろう」と思ってしまうことがあるからね(笑)。でも、そうした不安が、ビルに会って取り除かれたんだ。実際に会った彼はとても謙虚で控えめで、でもクールで頭がよくて――。何より愛がいっぱいある人だった。僕が「こんな気持ちで企画を考えたので、トリビュートしてもいいですか?」と伝えたら、「もちろん。全部私が書いた曲だから、好きにやってもらって構わないよ」と言ってくれた。「音楽は『シェアするもの』だし、みんなが楽しんで、踊ってくれたらそれでいいんだ」って。そのとき、「大好きな彼の楽曲を、僕自身が自由に表現すればいいんだ」と感じて、すごくほっとしたのを覚えているよ。

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――そうすると、選曲でも色々と考えたことがあったんじゃないですか?

そう、考えすぎるぐらい考えた。最初に彼の9枚のアルバムからそれぞれ数曲ずつ入れようとリストを作ったら、「これは絶対に外せない」という曲だけで60曲ぐらいになってしまって(笑)。それで必死に40~50曲に絞ったんだけど、その作業だけで半年ぐらいかかったし、そこから進まなくなってしまった。それでドン・ウォズに相談したら、「どの曲が一番君にとって大切かを考えてみたら?」とアドバイスをくれて、そこから本格的にリストを見直していったんだ。今回収録されたのは、その結果残った曲たちだね。

――つまり、今回のアルバムはホセさんにとって思い入れのある楽曲を通して、ビル・ウィザースの魅力を広く紹介するような作品になっているんですね。

その通りだと思う。そうなってくれたら嬉しいと思ってるよ。

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――じゃあ、具体的にはどんな基準で選んでいったんでしょう?

それぞれに選んだ理由があるよ。たとえば“グランドマザーズ・ハンズ”だったらこうだね。子供は親には反発することもあるけれど、おじいちゃんやおばあちゃんは孫を甘やかしてくれる。もしくは自分の子供と上手くいかなかった分、孫と接することで自分の間違った子育てを取り戻したいのかもしれない(笑)。僕自身も、「キャンディはいる? TVを観る?」みたいに、祖父や祖母にはいい思い出がたくさんあるんだ。この曲には、僕自身も小さい頃をもう一度思い返すような瞬間があった。そういう曲であることが素晴らしいと思ったんだ。ビル・ウィザースって、本来クールにはならない日常の出来事も、すごくクールなものにしてしまう魅力がある人だと思う。友情をストレートに歌うとダサくなる場合もあるけれど、彼が歌ったら不思議とクールになるんだよね。そういう魅力を伝えられると思ったんだ。

Bill Withers – Grandma’s Hands (Audio)

――なるほど、他の曲はどうですか?

他の曲だと……“ザ・セイム・ラヴ・ザット・メイド・ミー・ラーフ”は、シンガーとしての挑戦という意味で選んだ曲だね。ビル・ウィザースって、実はオペラシンガーぐらいのテクニックを使っている曲があって、この曲もすごく難しい。たとえば“ラヴリー・デイ”でも、ただずっと《ラヴリーデイ~》と歌っているようにも聞こえるけれど、そこでもロングトーンの中で感情のうねりを表現していくという難しい技術を使っている。派手さはないけれど、シンガーとしてのテクニックが高い人なんだ。あと、彼は南部の人だから、母音の発音の仕方がかなり特徴的なんだ。すごく細かいことかもしれないけど、ボーカルの先生にその部分も細かく教えてもらってレコーディングに臨んだよ。

José James – Same Love That Made Me Laugh

José James – Lovely Day ft. Lalah Hathaway

――それはビル・ウィザースの魅力を可能な限り伝えたい、という思いからですか?

その通りだね。

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――今回の制作作業では、あなたとビル・ウィザースの音楽との関係を改めて振り返るような機会もあったかもしれません。あなたはビル・ウィザースの音楽から、どんなことを学んだと思いますか?

それは「誠実さ」のようなものなんだと思う。ビル・ウィザースの曲には明るくて楽しい曲もあるけど、たとえば“ベター・オフ・デッド”では、「俺なんか死んだ方がましだ」と歌っている。自分を美化していない曲が多いと思うんだ。「自分も埃まみれで生きてきたけど、君もそうなんだよ。みんなそうだけど、だからこそ一緒になってやっていくことが大事なんだ」って。真のアーティストって、自分のことをすべて見せていく人たちだと思うんだ。今のこの世の中、将来のことを考えたときに、「僕も君も完ぺきな人間じゃない。だからこそ一緒にやっていく必要がある」というメッセージは、とても心に響くものだと思うんだ。

José James – Better Off Dead

――ホセさんは最新の要素を取り入れるときは、それがどんな歴史の中にあるものかを考えてきたと思いますし、逆に過去の音楽を題材にするときには、その音楽と現在とを繋ぐことを意識してきたと思います。今回、ビル・ウィザースの過去の名曲を今あなたがカヴァーする作品だからこそ、意識した部分というと?

ただのコピーにはしたくないという気持ちは強かったよ。たとえば映画の『ブレードランナー』もそうかもしれないけど、過去の作品をリメイクするときに、監督が代わって、ちょっと照明を変えただけでは、なかなかオリジナルを超えることはできないよね。“エイント・ノー・サンシャイン(消えゆく太陽)”なんかは、これまで一番カヴァーされてきた曲のひとつだと思うから、「ああ、またホセ・ジェイムズがカヴァーしてるんだな」とは思われないようにしたかった。「2018年に作られた曲にしたい」ということはドンにも最初に伝えて、彼がそこは上手くコントロールしてくれたと思う。オーガニックで温かい昔ながらの手触りがありつつ、同時にモダンなミックスにすることによって、しっかりと今の曲としての魅力を表現することができたと思うよ。

José James ‘Ain’t No Sunshine’ | Live Studio Session

――日本でもこのアルバムがリリースされて、その後トリビュート・ライブが行なわれますね。これはどんなショウになりそうですか?

まだ詳しくは言えないんだけど、最初はみんな知っているビル・ウィザースを入口にしつつ、最終的にはものすごくディープなところまで行くような、感情的な高まりのあるステージを見せられるんじゃないかと思う。すでに行なったワシントンDCのケネディセンターでのライブでは、お客さんもビル・ウィザースのファンが多くて、自分にとってのリトマス試験紙的な場所だったんだけど、そこでも会場の一体感が感じられる、とてもエモーショナルなショウにすることができた。日本でもそんな魅力が感じられるライブになると思うよ!

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RELEASE INFORMATION

リーン・オン・ミー

ホセ・ジェイムズが語る、ビル・ウィザースに魅了された理由とアルバムに込めた想い music180824_josejames_1-1200x1200
2018.09.28(金)

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EVENT INFORMATION

ホセ・ジェイムズ celebrates Bill Withers

2018.10.31(水)
1st Stage OPEN 17:30 START 18:30/2nd Stage OPEN 20:30 START 21:30
ビルボードライブ大阪
Service Area:¥8,900/Casual Area:¥7,900 

2018.11.01(木)、11.02(金)
1st Stage OPEN 17:30 START 19:00/2nd Stage OPEN 20:45 START 21:30
ビルボードライブ東京
Service Area:¥8,900/Casual Area:¥7,900 

ホセ・ジェイムズ(vo)
大林武司(p、key)
ベン・ウィリアムス(b) 
ネイト・スミス(ds)
ブラッド・アレン・ウィリアムス(g)

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text by 杉山仁
photo by Kohichi Ogasahara

杉山仁

杉山仁

ライター

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