90年代からKYOTO JAZZ MASSIVEを筆頭にした様々なプロジェクトを率い、DJ/ミュージシャン/プロデューサーとして第一線で活動してきた沖野修也。彼が15年にはじめた新プロジェクトKYOTO JAZZ SEXTETが、2ndアルバム『UNITY』を完成させた。

KYOTO JAZZ SEXTETは、沖野修也を中心に類家心平(tp)、栗原 健(ts)、平戸祐介(p)、小泉 P克人(b)、天倉正敬(ds)といった錚々たるプレイヤーが集い、“生演奏で”ジャズの可能性を追究するプロジェクト。15年のデビュー作『MISSION』では、ロバート・グラスパー(Robert Glasper)やホセ・ジェイムズ(Jose James)、グレゴリー・ポーター(Gregory Porter)といった現代〈ブルーノート〉の精鋭に刺激を受けながら、60年代〈ブルーノート〉の楽曲を現代風にカヴァーした。そして、各地でのライブを経て完成させたこの最新作『UNITY』では、作曲段階から各メンバーの個性を想定したオリジナル楽曲によって、それぞれの魅力や可能性を最大限に引き出している。そこにファラオ・サンダース(Pharoah Sanders)の息子トモキ・サンダース(Tomoki Sanders)やSOIL&”PIMP”SESSIONSのタブソンビ、元ファータイル・グラウンド(Fertile Ground)のナヴァーシャ・デイヤ(Navasha Daya)などゲストを迎えた全編の雰囲気は、異なる人種/価値観/時代が音楽を通じてひとつになる(=『UNITY』)瞬間のドキュメントのような雰囲気だ。その制作過程や、今年の<フジロック>出演などについて訊いた。

KYOTO JAZZ SEXTET – UNITY album trailer

Interview:沖野修(KYOTO JAZZ SEXTET)

【インタビュー】沖野修也率いるKYOTO JAZZ SEXTET最新作『Unity』。異なる人種・価値観・時代を調和する音楽 interview_kyotojazzsextet_okino-700x980

——もともとこのKYOTO JAZZ SEXTETは、ロバート・グラスパーやグレゴリー・ポーター、ホセ・ジェイムズといったブルーノート新世代たちの活躍に刺激を受けて構想が生まれたユニットだったと思います。ファースト・アルバム『MISION』は沖野さんにとってどんな作品になったと思っていますか? あの作品は、60年代のモード・ジャズと現代とを繋ぐ時間旅行のような作品だったと思います。

その通りですね。でも、<TOKYO JAZZ>に出たり、京都のホテルでライブをやったりしたことで好きで聴いてくれている人たちは盛り上がってくれたと思うんですけど、ロバート・グラスパーを聴いているような人たちには意外と聴いてもらえなかったのかな、とも思うんですよ。もちろん、グラスパーはもっとヒップホップよりで、あのアルバムはもっとジャズ寄りで、もともとグラスパーと同じことをしようと思ったわけではないですけどね。ただ、僕からすると、「KYOTO JAZZ SEXTETのアルバムがあって、ロバート・グラスパーもいて……。」という幅広いジャズの楽しみ方をしてほしい、という作品だったんです。

——ジャズの多様性を伝える、ということですね。

そうです。たとえば、ブルーノートの若手アーティストにしても、僕はグラスパーもホセ・ジェイムズもグレゴリー・ポーターも個人的に知っていますけど、みんなやっていることは微妙に違うというところがいいわけですからね。

——リリース以降、KYOTO JAZZ SEXTETでライブをしたことで、新たに感じた魅力はありましたか?

やっぱり、ライブでは自由度が高まりますよね。アルバムのときは僕のコントロールの中でミュージシャンがどう表現をするか、という「決められた枠組みの中から自由を見つけ出す」作業だったと思うんですけど、ライブは本当に自由奔放で、やりたい放題だったんです。最長3時間10分、1曲20分ぐらい演奏したりもして、聴く人もそれを楽しんでくれて。KYOTO JAZZ MASSIVEはダンス・ミュージックをコンセプトにしていますけど、KYOTO このSEXTETの場合は「踊れる/踊れない」は関係ないんです。基本的にはリスニング対応の音楽になっているんで、「こんなにもジャズを楽しんでくれる人がいるんだな」ということも感じました。「もっと無茶していいかな。1曲をずっと演奏してライブを終えてもいいかな。」と思ったぐらいで(笑)。組んでいるメンバーの能力も高いし、このメンバーでしか生まれえないスパークを感じました。この間<Earth Day Tokyo>に出たときも、持ち時間30分の中で1曲15から20分ぐらい演奏して、お客さんも盛り上がってくれてメンバーのテンションも高かったので、レコーディングとライブは別物だなと改めて思いました。

——そうした活動の中で、最新作『UNITY』に繋がるヒントが生まれたのでしょうか?

今回のアルバムは、僕から見たメンバーの特性を作品に反映させているんです。『MISSION』はカヴァー・アルバムだったので、僕が好きな曲を持ってきて「はい、君たちやってください。」という感じもありましたけど、この『UNITY』では「サックスやトランペットはこういうメロディかな」「ベースラインはこうかな」と、メンバーを想定して曲を作っていった。つまり、彼らを想定して僕が曲を書いていったということですね。

——なるほど。オリジナル曲を作ると伝えたとき、メンバーの反応はどうでしたか?

最初は、「沖野さん、曲作れるの?」という感じでしたね(笑)。というのも、僕は今年50歳で、音楽のキャリアも28年近くありますけど、今回生まれて初めてジャズの曲を書いたんですよ。これまでは(KYOTO JAZZ MASSIVEなどで)歌モノのメロディを担当してはいましたけど、楽器は自分がそれを弾けないとどんな音が出るか分からない。音域や響きの特性が分からないわけですよね。それもあって、メンバーが一番不安がっていたかもしれないですね。「あいつは曲を書けるのか」と(笑)。自分自身も、「DJがジャズの曲を書けるのか」というプレッシャーはありました。

——メンバーの個性が分かっていたとはいえ、どんな風に曲を作っていったんでしょう?

まずは全部、鼻歌で作っていきました。メロディもベースラインも、ドラム・パターンも鍵盤もそうです。ただ、鍵盤の場合、指を10本使う楽器ですから、僕が鼻歌で入れられるのは右手のトップ・ノートだけ。だから、すべてのパートを鼻歌でiPhoneに吹き込んで、デモを作るときにコンピューター・プログラマーに伝えていく形でデモを作りました。そのデモをメンバーに聴かせるという感じですね。僕は譜面も書けないですから、直接メンバーに言っても「沖野さん、何を歌っているのか分からないです。」という話になりますから(笑)。たとえば、“We Are One feat. ナヴァーシャ・デイヤ”は歌モノなので、そのメロディから作っていきました。このメロディはモンテネグロのレストランで思いついたものなんですよ。

——へええ、お洒落ですね。

モンテネグロのレストランの、トイレだったんですけどね(笑)。その窓から田園風景が見えて、ふとメロディが思い浮かんで。この曲は結果としてジャジーR&B的な曲になっていますけど、プログラマーとデモにしていくときは、最初はもっとラテンっぽい雰囲気だったんです。メロディを作ったときに、僕の中になぜかラテンのリズムが湧いて来て、最初はそれが出ていたんですよ。でも、「SEXTETの曲でラテンは変だろう」ということになって、すべてを取っ払って、まずは鍵盤でクラブのDJが好きな循環コードを使うことにしました。それでラテン度をなくして行ったんです。実はこの曲は最初、サックスもトランペットも入っていなかったんですよ。でも、リハーサルのときに栗原が「僕らは吹かないんですか?」と聞いてきて、「吹かなくていいよ」と伝えたら「えーっ!」という話になって。レコーディングの直前に「こんなのどうですか?」といくつか彼が吹いてくれて、その中から気に入ったものを選びました。

【インタビュー】沖野修也率いるKYOTO JAZZ SEXTET最新作『Unity』。異なる人種・価値観・時代を調和する音楽 interview_kyotojazzsextet_3-700x467