半田付けを一切必要とせず、誰でも簡単に組み立てる事ができるコンパクトなDIYシンセ・キット、コルグ『Nu:Tekt NTS-1 Digital Kit』(以下、NTS-1)』が発売されたのは記憶に新しいところです。コルグの「Nu:Tekt」というDIYブランドは、今までにミント缶サイズのポータブル・アンプ『HA-KIT』や、真空管オーバードライブ『OD-KIT』、本格的なペダル・エフェクター『OD-S』などの自作キットを発売しています。今回ご紹介する『NTS-1』も同ブランド初の組み立て式シンセ・キットとなっていて、2019年の11月に発売された注目の製品なのです。

『NTS-1』は、ポケットに入るコンパクト・サイズでありながら、同社から発売されているフラッグシップ・アナログ・シンセ『prologue』と、ポリフォニック・アナログ・シンセ『minilogue xd』から受け継がれたデジタル・オシレーターを搭載しています。その音作りは、ノコギリ波、三角波、矩形波、パルス波などの波形を元に、LFOやEGで揺らぎや時間的変化を加えフィルターで音を加工する、いわば通常のアナログ・シンセと同じ操作感覚です。さらに『minilogue xd』から受け継がれたクオリティーの高い空間系モジュレーション、ディレイ、リバーブなどのステレオ・エフェクト・プロセッサーと、スケール、パターン、レングスなどを変更できる優れたアルペジェーター機能を搭載し、組み立てが簡単でありながら奥が深いシンセサイザーなのです。

自粛期間中、家で何か熱中できる趣味をお探しの方は、本製品を自作してシンセサイザーの音作りにのめり込んでみてはいかがでしょう。低価格で組み立てるのが楽しく、完成した後もカッコいい音が出せるコルグ『NTS-1』の魅力を、今回皆さんにご紹介したいと思います。

パーツを分解したグラフィックスが描かれた、工作キットのようなパッケージ

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こちらが『NTS-1』のパッケージです。箱のサイズは、幅26㎝、奥行き14.8㎝、高さ4㎝と比較的小さくて薄いです。表面には『NTS-1』のパーツを分解したグラフィックスが描かれており、パッと見た印象では楽器というよりも模型屋に置いてありそうな工作キットのようです。電子工作に興味のある方でしたら箱の絵を見ただけでテンションが上がるのではないでしょうか。

半田つけが必要なパーツは一切なし、初心者でも簡単に組み立てられる

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写真は箱の中のパーツを全て並べたところです。ご覧のようにパーツ数は少なく、ツマミ、ボタン、LEDなどが初めから基盤に付いた状態になっています。半田付けが必要なパーツは一つもなく初心者でも簡単に組み立てられるのが本製品の特徴です。箱から出した時点では、ボディーの表面、裏面、側面のパーツが一体成型になっています。これは、切り離す箇所にうっすらと切れ目が存在し、両手でパーツを掴んでゆっくり曲げると綺麗に分離できます。均等に力を入れれば斜めに割れたり失敗する事はまずないでしょう。

本製品には無料の音楽ソフトウェアがバンドルされており、箱の中にソフトをダウンロードするコードが記載されたカードが入っています。それらは、オール・イン・ワン音楽制作ソフトウェアの「KORG Gadget 2 Le for Mac」や、人工知能搭載のマスタリング・ソフト「Ozone Elements」、コルグのミュージック・ワークステーションM1をソフトウェア化した「M1 Le」、シンセ、サンプラー、ドラムマシン、エフェクトを搭載したDAWソフト「Reason Lite」など様々です。すでにパソコンで音楽を制作されている方や、これから音楽を作ろうとお考えの方にとって、実用的な特典と言えます。

ネジ、ミニ・ドライバーが付属しているので、すぐに組み立てが可能

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本製品にはネジ、ミニ・ドライバーが付属しているので道具を用意しなくてもすぐに組み立てが可能です。パーツ数が少ないので余程工作が苦手な方でなければおよそ20~30分で完成できるくらい難易度は低いです。パーツの寸法が計算されているので、ボディーの中に基盤がうまく収まらないとか、端子と外装に開けられた穴の位置がずれているといった事は全くなく、どなたでもすんなりと組み立てる事ができます。一つだけ気をつけたい点は、リボン鍵盤を本体に貼り付ける時です。リボン鍵盤の裏側に両面テープが付いているのですが、粘着力が強いため誤ってボディーに対して斜めに付けてしまうと、剥がして貼り直すのが大変そうです。この工程はリボン鍵盤が横に真っすぐになるように慎重に貼り付けましょう。

『volcaシリーズ』や『monotron』とも違った温かみのあるルックスは、完成した後も愛着が持てる

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こちらは完成した写真です。『NTS-1』は艶消し黒のボディーに対してむき出しに取り付けられた金属のツマミ、スイッチと、ゴールドで印刷された文字などが、見る角度によってキラリと光りアクセントになっています。本製品はプラスチックのカバーが付いていないので、同社から発売されているガジェット系シンセの『volcaシリーズ』や『monotron』ともまた違い、どことなく温かみのあるルックスです。基盤やスイッチ類がむき出しなルックスで知られる「Teenage Engineering」(ティーン・エイジ・エンジニアリング)の『ポケット・オペレーター・シリーズ』と通ずる雰囲気がありますが、それに比べて『NTS-1』はサイズがもう少し大きく厚みがあり、手に取った時にしっかりとした持ちごたえがあります。スイッチ類がむき出しとは言ってもそこまで無機質ではなく、組み立てをユーザー自身が行うため完成した後も愛着が持てます。

さて、ここで『NTS-1』がどんな音色なのか気になる皆さんのために、デモ演奏した動画を用意しました。楽曲はAbleton liveで制作し、パソコンとMIDI接続した本製品のツマミを操作しながらメロディーを鳴らしています。どうぞお楽しみください。

充実した端子類は、他の機器と組み合わせて楽しさ倍増

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本製品は見た目こそシンプルですが様々な優れた機能が搭載されています。まずは端子類をご紹介します。写真は『NTS-1』を上側面から見たところです。向かって左側から「ボリューム・スライダー」、「USB端子」、「MIDI IN端子」、「SYNC-IN・OUT端子」、「AUDIO IN端子」です。写真には写っていませんが反対側の下側面にステレオ・ミニプラグの「アウトプット端子」があり、ヘッドフォンやスピーカーに接続する事ができます。本体に小型スピーカーが内蔵されており、何も接続せずに音を鳴らす事も可能で、写真の左側に見える「ボリューム・スライダー」でそれらの音量を調節します。その隣は電源用の「USB端子」です。こちらの端子に付属のUSBケーブルを使ってパソコンやUSB ACアダプターなどに接続すると電源が入ります。本製品が同社の『volcaシリーズ』や『monotron』と明らかに違う点は、電池駆動ではない所でしょう。また、パソコンとUSB接続する事でDAWソフトとMIDIの送受信が可能になります。

ステレオ・ミニ・ジャックの「MIDI IN端子」は、同社から発売されているアナログ・シーケンサー『SQ-1』と3.5mmステレオ・ミニプラグ・ケーブルで接続すれば、即興度の高いシーケンス・パターンを鳴らす事ができます。さらに「SYNC-IN・OUT端子」は、同社の『volcaシリーズ』と3.5mmモノラル・ミニプラグ・パッチ・ケーブルで接続して、『NTS-1』のアルペジェーターと同期させる事が可能です。一番右側の「AUDIO IN端子」は、CDやMP3プレーヤーと接続するための端子です。入力された音楽に対して内蔵のコーラス、ディレイ、リバーブなどのエフェクトをかける事が出来ます。このように本製品は充実した端子類が備わっているので、他の機器と組み合わせる事で楽しさは倍増するでしょう。

『prologue』と『minilogue xd』から受け継がれたデジタル・オシレーターを搭載

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本製品は同社のフラッグシップ・アナログ・シンセ『prologue』と、ポリフォニック・アナログ・シンセ『minilogue xd』から受け継がれたデジタル・オシレーターを搭載しています。そのサウンドは想像以上に心地よい電子音で、パラメーターの調節次第で様々な音色が作れます。操作は「TYPEノブ」で、ノコギリ波、三角波、矩形波、パルス波、USER OSCの順番に波形が切り替わります。「ノブA、B」でオシレーターの波形を変化させる値や、それぞれのオシレーターに割り当てられたパラメーターを調節可能です。演奏しながらツマミを操作して音を変化させるのも有効でしょう。このセクションだけで簡単かつ大幅にサウンドを切り替える事ができます。「OSCボタン」を押したままにするとLFOモードになり、「ノブA、B」でLFO周波数のスピードとモジュレーションの深さを調節できます。このように本製品は少ないボタンとツマミで様々な変化を付けられるように工夫されています。『NTS-1』は、同社の『prologue』、『minilogue xd』などと同じように「logue SDK」に対応しているので、ユーザー自身がオシレーターやエフェクターを作ったりロードしたりする事ができます。音作りをより深く追求したい方は試してみる価値があるでしょう。

滑らかに変化するアナログ・モデリングのフィルター、エンベロープ・ジェネレーター

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本製品のアナログ・モデリングによるフィルターは、「ローパス 2ポール、4ポール」、「ハイパス 2ポール、4ポール」、「バンドパス 2ポール、4ポール」、フィルター効果のない「OFF」が内蔵されています。その中から「TYPEノブ」で好みのフィルターを選択し、「ノブA、B」でカットオフとレゾナンスを調節して理想の音を作ります。その操作感覚は通常のアナログ・シンセと殆ど同じです。レゾナンスを最大にしてカットオフを動かせば「ピュイー」とラジオをチューニングする時のような効果音を鳴らす事も可能で、そのフィルター変化はアナログ・シンセのようにとても滑らかです。フィルターのとなりにある「EGボタン」はエンベロープ・ジェネレーターです。最も一般的な「ADSR」と、アタック・ホールド・リリースの「AHR」に加えて、極端に短い音や、ゆっくり始まり突然消える音が作れる「Ar」、そしてその音をループ可能な「Arloop」などが搭載されています。

例えば「Ar」で音を短く設定して「Arloop」に切り替えると、短い音を断続的に「テケテケ」とループ再生できます。その状態からリリースをさらに短くしていくと、もの凄く細かい音をハイスピードで鳴らす事ができ中々刺激的です。こういった音色を演奏に取り入れるのも効果的でしょう。エンベロープ・モードのまま「EGボタン」を押し続けると、トレモロを調節できるモードになります。「ノブA、B」でトレモロのスピードと深さを調節して音に揺らぎを加える事も可能です。

『minilogue xd』にも搭載されているハイクオリティーなデジタル・エフェクト

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四角い線で囲まれた「MOD」、「DELAY」、「REVERB」と書かれたボタンはデジタル・エフェクトです。このセクションは同社の『minilogue xd』にも搭載されているハイクオリティーなエフェクトをかける事が可能です。「MODボタン」は、モジュレーション・エフェクトが内蔵されており、「TYPEノブ」で、「オフ」、「コーラス」、「アンサンブル」、「フェイザー」、「フランジャー」のいずれかを選択します。そのサウンドは、ステレオ感がありながら太くうねる「コーラス」と「アンサンブル」、倍音が加わり心地よく揺らぐ「フェイザー」、音が左右に広がり周期的な揺らぎがカッコいい「フランジャー」など、どれも使い勝手の良いサウンドです。「ノブA、B」でモジュレーション・スピードと効果の深さを調節できます。「DELAYボタン」に内蔵された数種類のディレイはどれも魅力的です。それらは、シンセの音色がセンターにありながら残響が左右に広がる「ステレオ」や、シンセの音色、残響が全て中央で鳴り響く「モノ」、そして左右交互に音が飛ぶ「ピンポン」など、オーソドックスでありながら重宝するサウンドです。加えてディレイの残響が高音域だけになる「ハイ」と、時間が経過するほど残響の高域がなくなり優しい音になる「テープ」などが内蔵されています。

「REVERBボタン」に内蔵された数種類のリバーブは、「ふわっ」とシンセの音色を包み込んで広い空間を感じさせる「ホール」や、スケール感が小さく残響があっさりと減衰する「プレート」、そして宇宙空間に放り出されたような深く長い残響の「スペース」など、どれもきめ細かく使えるサウンドです。これら王道のサウンドに加え、鍵盤を弾いたあと1オクターブ高い残響が出現する「ライザー」と、弾いたあと1オクターブ低い残響が出現する「サブマリン」など、同社の『minilogue xd』から受け継がれたリバーブだけにどれもクオリティーが高いです。これら三種類のエフェクトを同時にかける事もでき、ディレイ、リバーブに関しては「FXボタン」を押しながら「ノブB」を動かせばエフェクトのドライ・ウェットのバランス調整が可能です。

パターンのバリエーションが豊富で楽しいアルペジェーター機能

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本製品の一番右側にあります「ARPボタン」はアルペジェーター機能です。「ARPボタン」を指で押したままにすると左側6個のランプが全て点灯します。これは左側から順番に「オクターブ」、「メジャートライアド」、「メジャーサスペンデット」、「メジャーオーギュメント」、「マイナートライアド」、「マイナーディミニッシュ」などのスケールが搭載されています。その中のどれかを選択してリボン鍵盤を弾くと、選んだスケールが自動的に演奏される面白い機能です。さらに「ARPボタン」を押しながら「TYPEノブ」を動かすと、様々な動きをするアルペジェーターの中から好きなパターンに変更する事ができます。このセクションは「ピコピコ」した音が好きな方でしたら間違いなく熱中できるでしょう。「ARPボタン」を押しながら「ノブA、B」を操作するとパターン・レングスを1~24の間で自由に調節ができ、スピードも変更できます。「ARPボタン」を長押しした場合は「ラッチ」と言ってアルペジオを鳴らしたままにする事が可能です。同社の『volcaシリーズ』と『NTS-1』をシンク・ケーブルで接続し、アルペジェーターを同期させてフィルター、エフェクトなどをアドリブで操作すればライブ・パフォーマンスで威力を発揮できるはずです。

『NTS-1』は組み立ても、完成した後も熱中できる、一石二鳥のDIYシンセキット

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以上、KORG『NTS-1』の魅力をご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。本製品は半田つけが必要なパーツは一つもなく、組み立てに使うネジ、ミニ・ドライバーも付属しているので、これといった道具を用意しなくても簡単に組み立てる事が可能です。無料の音楽制作ソフトウェアが多数バンドルされているのも魅力的で、これからパソコンで音楽を作ってみたいとお考えの方にぴったりの特典です。本製品は同社のフラッグシップ・アナログ・シンセ『prologue』と、ポリフォニック・アナログ・シンセ『minilogue xd』から受け継がれたデジタル・オシレーターを搭載し「logue SDK」にも対応しているので、カスタム・オシレーターやエフェクターを作ったり読み込んだりする事が可能です。ノコギリ波、三角波、矩形波、パルス波などのパラメーターやLFOを操作して、音色や揺らぎを変化させれば、想像を超える様々な電子音に誰しも心を奪われるはずです。

さらにアナログ・モデリングのフィルターとEGによる音色変化はとても滑らかで、『minilogue xd』から受け継がれたハイクオリティーな空間系のエフェクトや、バリエーションが豊富なアルペジェーター機能は時間を忘れるくらい熱中できるでしょう。パソコンとの接続で、電源を入れるだけでなくDAWとMIDIの送受信ができる「USB端子」や、外部MIDI機器と接続できるステレオ・ミニ・ジャックの「MIDI IN端子」を装備しているので、他の機器と組み合わせた演奏もバッチリです。それだけでなく『NTS-1』のアルペジェーターと外部シーケンサーを同期するための「SYNC-IN・OUT端子」や、エフェクターとして使用する事も可能にする「AUDIO IN端子」などを搭載し、接続次第で楽しみ方は倍増します。

このように『NTS-1』はシンプルなルックスでありながら奥が深く、直感的に操作できるシンセサイザーとなっています。本製品は組み立てるのも楽しく、完成した後もクオリティーの高いサウンドや機能が楽しめる、まさに一石二鳥のDIYシンセ・キットなのです。ぜひ試してみてください。

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Text&Photo by Mikiya Komaba