人種差別に対する抗議/デモが全米のみならず世界に広がっている中、人種差別問題を描いた小説『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』が再び注目を集めている。

人種差別問題を描いた小説『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』

本作は、作家アンジー・トーマスによる、2017年にアメリカで刊行された社会派ヤングアダルト小説。著者は元ヒップホップアーティストで、その後ベルヘブン大学で創作(クリエイティブ・ライティング)を専攻し、在学中に本作の執筆を始めた。

彼女のデビュー作となる本作は、刊行前からアメリカで話題を集め、多数の出版社が出版権獲得のために名乗りをあげたほか、「ニューヨークタイムズ」のベストセラーランキング(YA部門)で、3か月にわたり1位を獲得するなど大きな話題となった。そして世界30か国で翻訳出版され、2018年に刊行された日本語版は「第65回 全国課題図書コンクール(高等学校の部)」に選定。アメリカでは「最も影響のあるティーン」に選ばれたアマンドラ・ステンバーグ主演で、20世紀フォックスでの映画化も果たした。

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本作の中で声を上げようと立ち上がるスターは、黒人の高校生の女の子。ギャングが徘徊し、ドラッグが蔓延する黒人街ガーデン・ハイツで生まれ育った一方で、裕福な白人の子らが通うウィリアムソン高校にも通っているスターは、それぞれの世界での自分を仕立てて生活していた。

ある夜、参加したパーティーの帰宅途中で、幼馴染のカリルが白人警官に撃たれ命を落とす所を目撃してしまう。だが警察は、無抵抗のカリルを撃った白人警官の行為を正当化するため、カリルを極悪人に仕立て上げようとする。スターの眼前で起こった恐ろしい事件が、まるで見えない力に歪められるように、「真実」とは異なって世間に広まっていく。悩み、怯えながらも、カリルの声になることを誓ったスターは、カリルの汚名をそそぐ為、証人として法廷に立つことを決意し、この根深い社会問題に真正面から立ち向かっていく……。

人種差別問題を描いた米国発ヤングアダルト小説『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』に注目|黒人の女子高校生“スター”の決意とは art200612_thehate_ugive_1-1920x1279
アンジー・トーマス
©︎Anissa Photography

本作の原タイトル『The Hate U Give』は、アメリカのヒップホップアーティスト、トゥパック(2Pac)が入れていたタトゥ“Thug Life(The Hate U Give Little Infacts Fucks Everybody)”から付けられたもので、差別によって植え付けられた憎しみが悲しみを生み、それが未来を暗いものにするという、黒人の置かれた社会の現状と、今なお根深く残る人種差別問題を端的に表している。

そして日本語版の翻訳は、法律事務所に勤める傍ら、翻訳者として活躍する服部理佳が担当。原書ではブラック・カルチャー独特の言い回しや固有名詞が多数登場するほか、社会問題をテーマにした難しい内容でありながら、会話のテンポの良さや軽妙なジョーク、繊細な心理描写、法廷での臨場感溢れるシーンなど、緩急を交えた読みやすい翻訳で表現されている。

今や無関心ではいられない人種差別問題。対象読者である中学生、高校生はもちろん、世界で起こっている事を知る一助として、大人でも十分に読み応えのある一冊なので、是非手にしていただきたい。

INFORMATION

ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ

人種差別問題を描いた米国発ヤングアダルト小説『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』に注目|黒人の女子高校生“スター”の決意とは art200612_thehate_ugive_2-1920x2729

¥1,700(+tax)
著者:アンジー・トーマス
訳者:服部理佳
A5判/472頁
ISBN9784265860432

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