00年代以降のアメリカのインディーロックの中でも特に女性であることをニュートラルに表現しつつ、クールでムーディな作品を誠実に作り続けているWarpaint。新作『HeadsUp』ではメンバーの個人活動も反映され、プログラミングなどで新たな音像——端的にいえばWarpaintならではのダンス・ミュージックを表現し、ポップであることのこの時代における音楽的な豊かさを表現していた。

Warpaint – New Song (Youtube Version)

クリエイティビティに溢れるバンドの中でもクール・ビューティな佇まいと意志的な発言をしてきた、ボーカル&ギターのテレサ・ウェイマンが今回、TT(ティーティー)名義で初のソロアルバム『LoveLaws』を完成させた。

TT – Love Leaks (Audio)

バンドでも重要なフィロソフィであるセクシーな面はそのままに、グッとダウンテンポで、彼女自らがプログラミングしたビートに基づくリズムトラックが奥行きと深みのあるアンビエンスを構築。そこであらゆる愛——ロマンス、愛する息子、人と人の間にある普遍的なものなどーーについて飾らない言葉で歌われる本作は、テレサのパーソナルな思いやエモーションに触れる新鮮な側面を持つ。

今回、ワールドツアー中のハリー・スタイルズのスペシャル・アクトでWarpaintとして神戸のライブを終えた翌日、東京へ到着したばかりのテレサが短い時間だが、取材に応じてくれた。

【インタビュー】テレサ・ウェイマン(Warpaint)のソロ名義TTが表現する、エモーショナルな愛について interview_tt_2-1200x1500

Interview:テレサ・ウェイマン

——神戸公演が終わったばかりですが、いかがでしたか?

すごく楽しかった。当然、ハリーほど私たちは黄色い歓声を受けることはできなかったけど(笑)、それでも楽しむことができました。それに、日本という国にいること自体がとても楽しくて。私たちが普段過ごしてるカリフォルニアとは全然違うし、みんなすごく礼儀正しくて優しく接してくれるのは大好きだし、興味深いものがたくさんあるので。

——今回のハリー・スタイルズとの共演は意外だったんですが、どういう経緯があったんですか?

ハリーから話をもらって、私たちもそうなんだけど、彼もものすごく幅広い音楽が好きみたいで、アメリカのツアーではカントリーの若い新人歌手を前座につれて回ってるみたいで。で、私たち自身も彼のアルバムをすごく好きだし、そもそもいい人そうな印象を持ってたんけど、実際会ってみてすごくいい人で。今回のライブは楽しんでるわ。

——ではTT名義の初アルバムについてお聞きします。まずソロ作品を作ることになった必然性を聞かせてください。

そうね……バンドの中にいると、このバンドって一人の船頭がいてみんなが着いていくって訳ではなく、4人それぞれが自分の個性を反映させてるバンドなので、どうしても長い間やってくるとバンドのアルバムだけではどうしても出せない自分の部分がある、少なくとも私はそういう風に感じてしまった。それで2009年から自分でレコーディングができるように、例えばビートとかサンプルとかをどうやってコンピューターを使ってプログラミングするかを自分で少しずつ学んで行って、身につけて行って、ツアーとか移動の時とか、一人でいる時にいろんなものをちょくちょくやって行ったものが今回のアルバムにつながって行った感じかな。

——アルバムを聴いて結構驚いたのがボーカルが前面に出ているプロダクションだなと感じたんです。それはボーカルもしくは声や歌詞を聴かせたいという思いがあったんでしょうか。

ええ。一つはやはりポップの世界から自分が学んだこととして、いろんな暗喩とか隠喩に自分が伝えたい気持ちや感情を覆い隠すのではなく、すごくわかりやすく共感しやすい歌詞を今作では書けたということがあると思う。あとは、自分のことをずっとシンガーだと思っていなかったんだけど、でもバンドで歌っているわけだから、シンガーとして自分がどれだけ成長しているか?ってところにしっかりフォーカスしたいなという風に今回は思ったのね。と、言いつつも歌だけではなく、すべての楽器を自分で演奏して、音楽的に可能なあらゆる角度からの表現を今回のアルバムで出したかったからというのはある。

——個人的な印象としては不安や不穏を感じると同時にリラックスできるアルバムだったんですね。それはもしかしたらテレサが言葉だけではなく、内面をサウンドでも表現してるせいなのかなと。音選びや構築に心を注いだからなのかなと思ったんです。

すごくファジーな形で組み立てるのが好きなんだけど、明確なピースもありながらそれを他の要素とーー布の繊維の織りのように織り合わせていくっていうようなやり方が好きなのね。その不安っていう印象は良く分からないけど、自分としてはアンビエントミュージックのような雰囲気を感じてもらいたいっていうのはすごくあるわ。

——なるほど。アルバムタイトルが『LoveLaws』で、レーベルが〈LoveLeaks〉という、この対比が面白いなと。法律と漏洩みたいな(笑)、そこに何か意図はあるんですか?

ははは。実はアルバムをはじめは『LoveLeaks』にしようかと思って。いわゆるパナマ文書じゃないけど、私の内面をリークしているというくらい、さらけ出しているという部分を感じたので、「あ、いいかな」と思ったんだけど、結果的に『LoveLaws』にしたのは、より重みがあるというか。当然、アルバムの中にはロマンスについての歌もあるけど、人間としてやはり人と接する時に善意がいかに大事かってこととか、お互いについてちゃんと愛を持って接することが必要だとか、やはり我々人間がこの宇宙で存在して、愛っていうものがすごく大きな一つの法則としてあるわけだから、みんながそこへ立ち返る場所だなっていうところで『LoveLaws』がいいかなと思って、タイトルにしたの。

——なるほど。いろんな形の愛を表現されてると思うんですが、バンド以上にパーソナルな印象を受けたんです。それは愛についての内容が増えたことが関係しているんでしょうか。

ええ。やっぱりなんらかの形で自分の内面をさらけ出すと自分の弱さを見せることにつながると思う。「え、これってどういうことなんだろう?」「私は何を感じているんだろう?」というのが分からないことがあって、分からないことで感じる自分の弱い部分というのが多分出てるんだと思う。でもこのアルバムができたことによって、そういったことが自分の中で消化できたというか、落とし込むことができて理解することができたということが言えると思う。ま、特に恋愛の気持ちを結構さらけ出すってことは自分の弱みを見せることだと思うんだけど、さっき言われた不安というものはそういうところなのかな?と。この先この気持ちはどうなるんだろう?っていうのが分からない、分かっていれば強い気持ちになれるけれども、やっぱり先が分からないのは強い気持ちになれない、それが弱さっていうものにつながっていくのかなと思う。

【インタビュー】テレサ・ウェイマン(Warpaint)のソロ名義TTが表現する、エモーショナルな愛について interview_tt_3-1200x800

——その弱さを出してらっしゃることが信頼できる作品にもつながっているのかと思います。そして、ほぼ一人で作ってらっしゃるということですが、共同プロデューサーの中にマニー・マークがいることが非常に意外だったんですが、彼との共作の経緯、そして彼の作品やセンスの好きなところはどんな部分ですか?

意外?(笑)、マニー・マークは友人から「ぜひ会いに行って一緒に何かやりなよ」って促されて、で、会いに行って、お互い好き勝手色々やってみたらすごくそれが楽しかったの。それで気があったし。それがこの作品を作ってる結構最後の方だったんだけど、ぜひ彼にも貢献してもらいたいなってところがあって、聴かせてみて、アレンジとかちょっとした調整を提案してもらって、それが曲に対して出してくれたアイデアを私がまた持ち帰って自分で聴き直してみたりして。でも結果的にこのアルバムにすごく宝石のようなものを提供してくれたと思う。言われたように、ほとんどの楽器を自分で弾いて、自分で作ってたんだけど、弟と共同プロデュースしてて、弟はエンジニアでドラマーでもあって、今回、自分のコンピューターで取り込めない生ドラムであるとか、生ベースやピアノをスタジオで録音する際は彼にお願いして。このアルバムに関しては私の家にボーカルが録れるセットアップがあって、それはスタジオに入ってエンジニアとスクリーン越しにやり取りをするよりも、やはり自意識や周りの雰囲気を気にせず、自分のペースで歌が録れる方が私は好きなので、ボーカルはそういった形でコーディングしたの。

——では最後の質問です。バンドのキャリアと同時に今、ソロもスタートしましたが、アーティストとしての道のりの今、どの辺りにいる気持ちですか?

一つの扉を開けたっていう感覚。このアルバムはかなり長い時間をかけて作ったわけだけども、自分のあるチャプターをこのアルバムの中で表現できた。でもそれは少し前の自分であって、もっともっと新しくたくさん探求したいものが今すごく自分の中にある。音楽に対してすごくいろんなことをやってみたい気持ちでいっぱいで、毎日刺激を受けていて。たとえばエクスペリメンタルな実験的なノイズミュージックもやりたいし、アンビエントな曲も書きたいし、あるいはビーツを自分でプログラミングしてみたいし、とにかくいろんなことをやりたい気持ちで今いっぱいだし、WarpaintはWarpaintで存在し続ける、その中でも私がこのアルバムを作ったことで、こういうことができるんだって、自分の能力を認識、経験できたことで、バンドにも「あ、こういうことはバンドでできるな」っていう新しいアイデアもいっぱい出てきてるわ。

——じゃあさらなる追求を楽しみにしています。

ありがとう。

【インタビュー】テレサ・ウェイマン(Warpaint)のソロ名義TTが表現する、エモーショナルな愛について interview_tt_4-1200x1500

RELEASE INFORMATION

LoveLaws

【インタビュー】テレサ・ウェイマン(Warpaint)のソロ名義TTが表現する、エモーショナルな愛について interview_tt_5

2018.05.18(金)
ティーティー
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Photo by Kodai Kobayashi