あのアダム・ランバートやマデオンも惚れ込んだ才能

ラミー賞常連のブルーノ・マーズは言わずもがな、クイーンのヴォーカリストにも抜擢されたアダム・ランバート、音楽シーンに鮮烈なカムバックを遂げたジャスティン・ティンバーレイク、ワン・ダイレクションの来日公演でオープニング・アクトを務めたオリー・マーズ、あるいはヌードモデルと戯れるミュージックビデオが物議をかもしたロビン・シック……etc、ショウビズ界で活躍する男性シンガーがとにかく面白い。オーディション番組出身者が目立つのも2010年代の特徴と言えそうだが、彼らに続くネクスト・ブレイカーとして熱い視線を注がれているアーティストが、LA出身のザック・ウォータースだ。

ザック・ウォータースは現在26歳、作詞・作曲からプロデュース、ミキシング、マスタリング、そしてパフォーマーまでマルチにこなすシンガー・ソングライターである。日本ではお世辞にも知名度が高いとは言えないが、フランスの若きトラックメーカーMadeon(マデオン)の大ヒット・アンセム“The City”(12年)で、ヴォーカル&作詞を担当した人物と言えばおわかりだろうか? 先述のアダム・ランバートやフォクシー・シャザム、オール・アメリカン・リジェクツといったアーティスト/バンドのオフィシャル・リミキサーに指名されるなど、もともと裏方仕事で名を馳せてきたザックだが、満を持してデビュー・アルバム『リップ・サーヴィス』をドロップすることになった。今回初めて名前を知ったという読者も多いと思われるので、少しばかりそのキャリアを振り返ってみたい。

Madeon “The City”

実は元・体育会系? ザック・ウォータースの素顔

すでにポップ・スター然とした、艶のある歌声をモノにしているザック。父親(と、母親が再婚した義父)が音楽好きだったこともあり、ロックからメタル、ソウル、ヒップホップ、R&Bなど家にはいつも音楽が溢れていたという。中でもマイケル・ジャクソンやアッシャー、マーヴィン・ゲイ、ルーベン・スタッダードといった男性シンガーにのめり込み、カナダ・トロントの祖父母と一緒に暮らした数年間では、祖父からギターの弾き方も伝授してもらったのだとか。意外にもハイスクール時代はバリバリの体育会系だったそうで、音楽は好きでも歌うことに女々しさを抱いていた時期もあったようだ。そんな彼が初めて人前で歌を披露したのが、高3のプロム・パーティー(男子生徒が女子生徒をダンパに誘うアレです)でのこと。全校生徒の前で歌った経験が大きな自信になったのか、ザックの創作意欲はベッドルームを飛び越えて開花。スタジオにこもってはマイケル・ジャクソンやマーヴィン・ゲイらの歌い方をとことん追求し、マルーン5やテイキング・バック・サンデイとも比較されたBlue Sky Realityというオルタナティヴ・ロック・バンドを結成、リード・ヴォーカル/キーボーディストとしてしばらく活動する。

Blue Sky Reality

裏方から表舞台へ。レディー・ガガやニーヨに続けるか!?

バンドを離れた後、ザックは自分のパッション(気持ち)に正直な音楽を作ろうと原点回帰を決意。そこで出会ったのが、ソウルメイトとも呼べるコラボレーターにして、有能なプロデューサー/映像ディレクターのジャラッド・K(マデオンの“The City”にも共同作詞家として参加)だ。「ファンキー・ソウル・ミュージック」を標榜し、2人はあらゆるコード/メロディーを試行錯誤した末にEP『New Normal』(11年)をリリースしている。EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)のトップランナー=アヴィーチーも大絶賛しているように、ザックのメロディー・メイカーとしての才能はダンス・ミュージックとの親和性が高く、裏方から表舞台に引っ張りだされたという点では、レディー・ガガやニーヨ、ザ・ドリームといったメインストリームの大物シンガーの系譜にも通じるかもしれない。

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