−−現在、シンガポールのミュージックシーンで流行りのシーンみたいなのはあるんですか? 何か特徴的な事象や流れはありますか?

Errol 特定の音楽ジャンルってことではないかもね。ヒップスター的な子たちもいれば、ハードコア・キッズもいるし、メタルヘッドもいれば、パンクスもいて、実験的なアートボーイたちもいる。

−−シンガポールのアーティストたちはどのような価値観で表現をしていて、どのようなものにインスピレーションを受けているように思いますか?

Errol シンガポールのオルタナティブなアーティストたちは、大体自分たちの聴いてきた音楽やバンドに影響を受けていると思う。よりカッティングエッジ(最先端)なアーティストたちは、社会や政治、世界的な問題に対するフラストレーションを、音楽を通して表現しようとしてるね。やっぱり日々の暮らしや周りで起こっていることが彼らのインスピレーションとなっているようだよ。

−−シンガポールのミュージックシーンをあなたの力で自由に変えられるとしたら、どのようなシーンに変えていきたいでしょうか?

Errol アーティストがプロフェッショナルになって、音楽を継続的な収入源としてみなせるような、ビジネスとして成り立つようなシステムに発展していってほしい。

−−ではそれを自国で実現するためには、現実の問題としてどのような点が課題になってきますか?

Errol 業界内の知識とエデュケーションが必要。あとローカルのバンドは、インターナショナルのメインストリーム・ポップ、ロックの”下”にあるというふうに、シンガポールの人は認識しているから、それをとっぱらっていかなくちゃならない。

−−「アジア」という視点に広げて考えた時、シンガポールのミュージックシーンはどのような存在であり、他国のシーンとどのような相互関係を為し得てますか?

Errol 東南アジアの国々はそれぞれ、越えるべきハードルや障害があるんだよね。でも、みんな共通点を感じている部分もあるし、そのフラストレーションを理解しあっている。だから、お互いの国のアーティストや音楽の情報交換をしたり、時に相手の国のアーティストが自国に来た時に、お互いイベントを打ってあげたりしてるよ。

−−あなたがたの視点から見て、日本のミュージックシーンについては、どのように捉えていますか?

Errol 日本に自分のバンドを連れていってツアーした時は、やっぱり日本のバンドはプロフェッショナルだと思った。その技術やオリジナリティに驚きっぱなしだった。あと、ファンもとても素晴らしい。アーティストに対して、敬意を持っているしとても支援的だ。

−−シンガポールに存在する人材・才能で、日本や世界で戦える・誇れると思うものはなんですか?

Errol デザインやアートのシーンが大きくなっていっていて、多くの才能あるデザイナー、アーティストが生まれてるよ。ちょっとこのインタビューで紹介するには多すぎるかもね。

−−逆に日本からシンガポールへ進出していけるようなニーズのある人材・才能はなんですか?

Errol 日本のインディー・ミュージックは “自分”の音楽をやるために、新しいサウンドやアプローチを常に試みているという実験的性質にとても刺激を受けている。そういった精神をシンガポールに持ってこれたらいいなと思う。

−−今、日本に聴かせるべきシンガポールのアーティストを教えてください。

The Observatory

2001年に結成され、Leslie Lowを中心に幾度のメンバー交代を経て、現在は4人のメンバーで活動。純粋なる表現から生まれる高い音楽性が、シンガポールのみならずアジアのアーティストから敬意を集める、エクスペリメンタル/プログレ/アヴァン・ロック・バンド。世界中でツアーを行っており、日本にも度々訪れている(2016年6月現在も日本にてツアー中)。2016年2月に発表された『August is the cruellest』は、通算8枚目のアルバム。

The Observatory / This Sad Song

The Observatory / August is the cruellest

MONSTER CAT

2010年に結成されたインディーロック・バンド。2011年に1st EPをリリースし、日本、ヨーロッパ、アメリカなどをツアーで周る。Fever Ray(The Knife)やSmashing Pumpkins、Beth Gibbons、Simon & Garfunkelなどに影響を受けつつも、独自のアヴァンギャルドなフォーク・ロックを創造している。

MONSTER CAT / Take Me To Love

THE PSALMS

2006年に結成され、2008年に現在の女性ボーカルを入れ活動する5人構成のバンド。ジャジーでアヴァンギャルドな、ポスト・ハードコアバンドといえばいいのだろうか。そんなサウンドにソウルフルなボーカルが激しく絡みついてくる。

THE PSALMS / My Demigod is a Cannibal

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2012年に結成されたエレクトロニック・デュオ。2013年に1st EPをリリースし、その音楽はPortishead、Little Dragon、Björk、The xxなどに例えられ、高い賞賛を浴びる。

.gif / soma

Forests

Forests / Sun Eat Moon Grave Party

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こんなにおもしろいアーティストが出てきているシンガポールのシーンがもっと盛り上がっていけばいいと思うのだが、ローカルのアーティストにとっては音楽がビジネスとして成り立っていないので、活動の幅が限られてしまう。そんなことで才能が埋もれていってしまわないようにするにはどうしたらいいのだろうか。この連載を通して、アジアのミュージックシーンにおける違いや共通点、価値観だとか問題を知ることが、アジア全体でミュージックシーンが繋がっていくことのきっかけになると思うのだが、vol.1&2の香港と今回のシンガポールだけでも、見えてきた共通点があったと思う。次回はシンガポールの隣国で、人種構成も似ているマレーシアについて、やります〜。お楽しみに。

June 20, 2016
吉本 翔(Sho Yoshimoto)